行定勲監督も絶賛「松本潤が映画を広げてくれる」(前篇)
「嵐の松本潤の、勝ち得ている輪郭をぼかす」(行定監督)
──この映画において、松本潤のキャスティングは大きいと思います。
そもそも松本潤は最初に台本渡したとき、やっぱり「なんでこれが俺に来たの?」って戸惑ってた(笑)。「台本には俺のこと、なにも書かれてないよ」「(葉山は自分のなかに)居るんだけど、なんの手がかりもないから教えて欲しい」って。
で、俺は話したのね。「この映画は小さくまとめたくないんです、それを広げてくれるのはあなたですよ」と。「嵐の松本潤というだけで、あなたはひとつを勝ち得ていて、すでにパブリック・イメージもある。でも、その勝ち得ているものの輪郭を、ぼやかすことをやりたいんだ」と。
──そういう意味では全然違いますからね。確かに華はあるけれども、その色彩を自分で押し殺したような、あえて言えば生を封じ込めたような感じが。
そう。彼は目ヂカラが120%くらいあるんです。だからそれを40%に抑えよう、と。そうすることで、彼に対峙する女優・有村架純は、そんな僅かな光だからこそ自分がなんとか手を差し伸べられるんじゃないか、と思ってしまう。
もちろんそれは幼さであり、若気なんですけど、その若気を燃え上がらせるにはそうするしかないんだ、と。そう話したときに、「すごく面白いクリエイトですね」と松本潤も乗ってきて。「俺にそれをできるかどうかわからないけど、面白いなぁ。やってみたい!」となったのがスタートです。
──さきほど「キャストに出会うまでの12年間だった」とおっしゃっていたけど、やっぱり葉山先生役がいない、というのが大きかったんじゃないですか?
まさにそう。今の役者ってみんなマッチョなんですよ。精神的にもマッチョだし。でも自分を鍛えるというより、雰囲気で生きている人間はもっと大人になっていくんですよ。例えば豊川悦司とか似合いそうなの、前だったら。
──なるほど。でも、2017年ではいろいろと難がありますね(笑)。
ただのロリコンになっちゃう(笑)。だったら、実存的には今を生きているんだけど、アンニュイさというか、どこかそういうのが抜け落ちているような感じの人は、もう作るしかないんです。そういう意味で「松本潤はどうかな」ってプロデューサーに言われたときに、僕は最初ピンとこなかったんだけど、脚本家は「すごくいい! 今までにない顔を作ればいいじゃん」って。
──正直、松本潤さんはこれまでの出演映画で、最高のパフォーマンスだと思います。有村さんにしてもそれは言えますが。
有村架純は頑固なんですよ、芯が強い。だけど前に出ない。居住まいとしてもみんなと戯れるとかじゃなくて、自分のなかで言及して、醸成させて表現として出す、というタイプの女優さんだとわかっていたので、泉役は絶対に有村だと。
──2人はテレビドラマの『失恋ショコラティエ』(2014年)で兄妹を演じてたのを僕も楽しく観てましたが、あのときとはまるで違う。
明るく現場を引っ張っていく明るいお兄さん、という松本潤のイメージがあるじゃない? でも有村架純は、彼が目ヂカラ40%と言われているの知らないから、なんか「あれ? いつもと違う」ってのがやっぱりあって。それで2人の「間」が変わってくる。で、説明したのは「2人の目線の交わしあいだね」って。「何秒目線を止めているかとか、それによって感情が変わって見えるのがラブストーリー。でも、それは台本に書いてない」って。
──出ましたねえ。行定流の演出術。
先生と泉が喋っているとき、「泉がフッと先生を見る。それとほとんど同時に先生も見てくれた」というのと、「泉が見たときにもう先生が見てくれていた」というの、このふたつは違うんだよ、と。そういうのをどのシーンにおいても考えてほしい、って言ったら、彼らは意識しますよね。見るべきか、見ないべきか。
僕はただ、それを与えただけ。そしたら、最初の『隣の女』の話をするシーンから雰囲気がいいんで、何回もテイクを重ねて。そこは偶然性を狙うっていうか、まさにライブなんですよ。そこで生まれるものを1カ月半も繰り返していくと、なにも言わなくても2人の芝居が「目線の芝居」になっていくんです。
──目を合わせるだけじゃなくて、たとえ目を合わせなくても、なにがしかの感情が読み取れる。そんなことも含めて「目線の芝居」ですよね。
そうなると、もうツーショットで撮らなくてもいい。カットバックでもいいんです。でもカットバックって、編集で出来るものじゃないですか。それが真実に見えるかどうか・・・1カ月半、彼らが繰り返しやっていった結果として成り立つようになったんです。
それが撮影後半での発見だったし、とても面白くて、今度は距離をどんどん離していったんですよ。2人が一度、一緒に夜を過ごして、風呂場でちょっと乱闘になって、その翌日から離れていくでしょ。それで2人はもう本当に終わりなのか・・・っていうところから、また再燃するという話なんで、結構上手くいったと思っていますけどね。
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