窪塚洋介「今、新たなステージに行こうとしていると再認識」

「自分も今新たなステージに行こうとしている」(窪塚洋介)
──それは、どういうことですか?
僕はレゲエDeeJay(シンガー)の「卍LINE」として音楽活動もしているんですが、実は撮影が終わってすぐに、彼のスタジオに行ってレコーディングさせてもらったんですよ。というのも、撮影中に彼が「映画の現場ではこうして俺がマルの胸を借りたから、もし音楽で力になれることがあればいつでも力貸すよ」と。
で、撮影終わってソッコー借りに行ったわけです(笑)。そこで生まれたのが『Soul Ship feat.Kj』という曲で。そこでの衝撃もあって、ぼくにとって彼はやっぱりDragon AshのKjで、歳は一緒なんですが、学年はひとつ上の「建志くん」なんです(笑)。
──おふたりが演じられた、マルとリリィという役柄についてはどう考えられてますか?
これまでのイメージだと、自由闊達でどこか危険な匂いがするリリィの方が、僕の役だったと思うんです。僕自身、リリィは想定内というか、やりやすいというのはありましたし。でも今回建志くんがリリィをやるのなら、「受け」の芝居のマルをやろうって素直に思えました。
また、ぼくのことを仕事でもプライベートでも俯瞰して視ているもうひとりの自分が「お前、もっとバランス取れよ」って言うことがあって、そいつが「今のタイミングでマルという役に出会えたのはいいことなんだぞ」と言ってる感覚もありましたね。

──「今のタイミング」というのは?
この前の作品が、マーティン・スコセッシ監督の『沈黙−サイレンス−』だったということです。あの作品への出演は、やはり人生の節目になって、あれで一度、自分が更地化された感じなんです。監督が来日してプレミア上映をしたとき、大阪から東京に新幹線で向かったんですね。
で、米原駅あたりで、新雪が積もって真っ白になった平原を観たとき、「ああ、俺は今こういう感じだな」って思って。なんか、それまで抱えていた様々なフラストレーションがすっかりなくなって、真っ白な自分に戻れたというか。万一、これで役者やめることになってもいいや、ぐらいの気持ちになっていたんです。
──その『沈黙−サイレンス−』のキチジロー(役名)の次に演じられたのが、このマルだったということですね。
映画としてはそうです。そのタイミングで出会ったマルという男が、過去にいろいろあったんだろうけど、今くすぶって悶々としていて、さらには諦めようとさえしている男で、僕自身がずいぶん前に抜け出してきたところにいる男だなって(笑)。もどかしく思いました。
──でも、マルもリリィと出会い、事件に巻き込まれることで一歩を踏み出すことになります。
「まだなんにも始まってねぇし」というマルのセリフが、いいなあって。男ってどこかで「オレ、ホントはこんなもんじゃないし」とか「オレはまだまだやれるはずだ」とか思っているじゃないですか。それってエネルギーですよね。マルを演じて、自分も今新たなステージに行こうとしているのを再認識しました。

──具体的には、なにをされているわけですか?
英会話やジムに通っています。これまでやりたいと思いながら、10年間、マル同様くすぶっていて。でも、やはり『沈黙−サイレンス−』のLAプレミアに参加して、赤絨毯の上を歩いたら、これはもうやらなきゃとなりました。僕にとって『沈黙−サイレンス−』がそうだったように、マルにとってリリィとの出会いが新しいステージの扉を開くきっかけになった。扉の鍵が、リリィみたいな男の形をして現れたということです(笑)。
──「過去」を持つ男が、もうひとりの男と出会い、過去を乗り越え、新たな一歩を踏み出す。バディ・ムービーの王道の展開です(笑)。かつて邦画には勝新太郎主演の『悪名』とか『兵隊やくざ』とか面白いバディ・ムービーのシリーズがありました。今なら『まほろ駅前多田便利軒』とか『探偵はBARにいる』とか。この『アリーキャット』は大人の楽しめるバディ・ムービーだと思います。シリーズ化してほしい作品です。
いいですね。僕はまだシリーズ作品に出演したことがないので、そうなったら、ぜひ、建志くんとマルとリリィを演じたいですね。
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