神山健治、映画「ひるね姫」に込めた想い

2017.3.21 18:00
(写真3枚)

「映画を通して今の社会に少しでも希望を」(神山健治)

──夢の世界に、街を守るエンジンヘッドというマシーンが登場しますが、見た目はデカくて高性能だけど、実は肉体を酷使して人力作業で動かしていますね。指示しているのは年配で、動かしているのは若い人。で、何から街を守るのか。それがオニと呼ばれる得体の知れない巨大な怪物という。

あれはいろんなものへのメタファーです。「オニ」と呼ばれているけど、「鬼」に見えない。同調圧力であったり、世のなかがどう転ぶのかという不安だったり。この物語の時代背景には2020年の東京オリンピックがありますが、そもそもオリンピックは日本が20世紀に体験した成功の最たるもの。でも体験していない世代からしたら、成功体験にはまだなっていないですよね。その齟齬が、今の日本には大きく横たわっていると思うんです。それもまたオニに込めたメタファーのひとつです。いろんなものが混ざり合っているからこそ、形のない怪物になっています。

「映画を通して今の社会に少しでも希望を感じてもらいたい」と語る神山健治監督
「映画を通して今の社会に少しでも希望を感じてもらいたい」と語る神山健治監督

──あの得体の知れなさは、東日本大震災以降、未来に抱いている不安感もありますよね。2020年の東京オリンピックまであと3年ですが、僕自身は2020年という未来がやってくるのが怖いです。自分が果たしてどうなっているのか、想像したくない。

僕自身、この映画は大震災がきっかけとなって作りました。映画のなかでは多くの人を救うことができるけど、現実では誰もが大変な思いをしています。これまで自分が描いてきたテーマと、実際の世のなかの雰囲気に齟齬を感じずにはいられなかった。震災前は、映画で「何か起きるかもしれない」と問題定義をすることができました。実際、当時は世界中で日本は幸せ指数が高い位置にあった。それでも、この国に生きていながらそれを実感できない現状もあった。

──なるほど。

ですが、それに薄々気づいている人たちもいました。何も起きない日常の方が、ファンタジーなんだという感触が、僕が改めて言うまでもなくあったと思うんです。それから、大震災が起こった。だからこそ僕は今、映画を通して今の社会に少しでも希望を感じてもらいたいんです。

映画の舞台は、美しい景観を残す岡山・倉敷市 © 2017 ひるね姫製作委員会
映画の舞台は、美しい景観を残す岡山・倉敷市 © 2017 ひるね姫製作委員会

──神山監督のインタビューをいろいろ読んでいたんですけど、あの震災への思いの強さがすごく伝わってきます。

僕自身が直接被害を受けているわけではないので、おこがましい気持ちがあります。しかし自分が映画を作るスタンスとして、やはり今の世のなかで起きている一番大きな問題をちゃんと切り結んでいきたい。それが、物語を考える上での僕のドラマツルギー(製作手法)。これからもそこは無視せず、映画を作り続けていきたいです。

映画『ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜』

2017年3月18日(土)公開
原作・脚本・監督:神山健治
出演(声):高畑充希、満島真之介、古田新太、前野朋哉、高橋英樹、江口洋介
配給:ワーナー・ブラザース映画
大阪ステーションシティシネマほかで上映
© 2017 ひるね姫製作委員会

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