決定!2016年下半期ベスト邦画(後編)
2016.12.30 7:00

誰もが泣いた片渕監督『この世界の片隅に』

斉藤「あれは? 片渕須直監督の『この世界の片隅に』(11月公開)は?」

田辺「あぁ、僕としてはホントはベスト1に推したいんですけど、ちょっと気恥ずかしいっていうのもあって(苦笑)」

斉藤「分かる。あれはベスト1でいいぐらい。当たり前過ぎて、ベスト1に推すのが恥ずかしいくらい。いっそのこと別格にしてもいい」

春岡「そう。立派なんだよな、映画が。でも、俺たちが推すには真っ当すぎるというか」

斉藤「俺たちが、って(笑)。でも、真剣に心動かすもんがあるからね。オールタイム・ベスト格かも」

田辺「僕、エンディングでコトリンゴの歌を聴いたとき、普通に泣きそうになりました」

春岡「俺、エンディングのちょっと前の、大事なものをなくしちゃって、あの大地で泣いちゃうすずさん見たとき、正直ちょっと泣いちゃった。あれは久しぶりに泣いた」

斉藤「突然シネカリグラフィー(アニメーション表現手法のひとつ)になるでしょ。あの演出には度肝抜かれた。そこで、そんなふうにアニメーションの映像的威力を発揮するのか、と。街並みの偏執的なまでの再現性はもちろんだけど」

春岡「舞台が第2次世界大戦下の広島じゃん。NHKの特集番組でやってたんだけど、プレス資料にも書いてあった通り、あの広島で生き残った人たちが『映画を支援する会』を結成して、協力してるんだよね。ここに座ってたんですか?みたいなことを言いながら片渕さんが書いてんだよな。あれは『君の名は。』のディテールとは全くちがう」

田辺「この前、片淵監督と原作者によるトークショーに行ったんです。そのときに話していたのが、例えば登場人物が何着の服を持っているかとか、そういうのを8カ月くらいかけて調べ上げたと」

斉藤「黒澤明か!っていうね。誰かがツイッターで書いてたけど、どっかの劇場でおばあさんが観ててんて。鑑賞後、隣に座ってた全然見ず知らずの人にさ、『私、終戦時は呉にいたんだけど、本当にあのままでした!』と熱っぽく語ってたんだと」

春岡「おばあさんの記憶が本当かは分からないけど、それでも、あの映画を観てそう思わせたってだけで勝ったも同然じゃん」

主人公・すずの声は、能年玲奈から改名した女優・のん © こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
主人公・すずの声は、能年玲奈から改名した女優・のん © こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会画像一覧

斉藤「演出が素晴らしいんだよね。リニア(直進的)に進む時間の引き延ばしかた圧縮の仕方がめちゃくちゃうまい! あと、主人公・すずさんの声を担ったのん(能年玲奈)は、主演女優賞でもいいんちゃうんかと思う。映画が始まって、瞬時に『こりゃズルいわ』って思った(笑)」

田辺「突然、怪物のようなことをしますよね(笑)。『あまちゃん』のときのような」

春岡「彼女はちょっと侮れないところがある。今回はもう参りましたって感じ。キャラクターと同一化してしまうものがあるんだろうね。監督とキャスティングの問題もあるよ、彼女の場合は。合う使い方をすれば、ものスゴく合うという」

──映画も着実に広がってきてますよね。この年末年始は全国180館で公開されるという。

春岡「あの片渕さんの地味な映画であり得ないことだよ、ほんとに。前作『マイマイ新子と千年の魔法』(2009年)も同じような広がり方をしたけど、最初は劇場じゃなくて公民館とかで上映されてたからね。それが評判が高まって、一般劇場でも公開されたわけだけど、今回の『この世界の片隅で』はクオリティがすごいもん」

田辺「ホント。誰が観ても、トップ5には間違いなく入ってくると思いますね」

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