決定!2016年下半期ベスト邦画(前編)

2016.12.30 07:00

ジョージ朝倉の同名少女コミックを実写映画化した『溺れるナイフ』 © ジョージ朝倉/講談社 © 2016「溺れるナイフ」製作委員会

(写真4枚)

ゴジラを壊した庵野&樋口の「シン・ゴジラ」

──総監督・脚本を庵野秀明、監督・特技監督を樋口真嗣がつとめた『シン・ゴジラ』(7月公開)はどうでしょうか?

田辺「いやぁ、ものすごく面白かった!」

春岡「あのゴジラを伊福部昭の音楽を使ってやるなんてさ」

斉藤「当時の奏者がミスしまくりのオリジナル音源を使っているのがいいよね」

春岡「これまでの東宝のゴジラを無かったことにしたよね。庵野監督がパンフレットに書いてたじゃん。オファーがきたとき、条件を出したって。これまでのゴジラを無かったことにしていいかと聞いたら、東宝サイドはそれをお願いしたいと。それで引き受けたって」

斉藤「その『無かったこと』ってのを何度もやろうとしてたんだよね、東宝は。でも、出来たためしがなかったから」

春岡「結局、東宝の息の掛かった監督ではこれまでダメだったという。庵野監督と樋口監督が組んで、これまでの東宝の都合のいいように解釈されていたゴジラを、『いや、ゴジラはこうでしょ!』と撮ったのが今回のゴジラであって。これまでの東宝のゴジラを壊しながらも、でも、昭和29年の第1作ゴジラに対するリスペクトに溢れている」

田辺「僕は、『10年先の日本を俺たちが考えるんだ』ってセリフに、庵野監督ってこんなに熱い人だったんだと感慨深かったですね」

斉藤「はっきり社会的な映画だよね。いわゆる社会派というのではなく、意識的にディスカッションを提起する政治映画にしてると思うよ」

春岡「映画のなかで、だよね。映画作家は映画のなかで、ドラマとして政治を語ればいいわけであって、それをやったのがいいんだよ。逆に映画より先に政治が来るのは美しくないけど」

田辺「なんか、東宝のプロデューサーが提案したプロットを全部、庵野監督らが覆していったらしいですよね。長谷川博己と石原さとみが実は元恋人だったって設定とか(笑)」

春岡「それは超くだらねぇなぁ(笑)、そんなんやってたまるかって話だよね」

田辺「僕、2回目の鑑賞をIMAX(アイマックス)で観たんですよ。あのでかいスクリーンで観ても、ゴジラの頭が切れてるっていうのが最高で。ホントに見上げてる感がある」

興収も80億円を突破した庵野総監督&樋口監督による『シン・ゴジラ』 © 2016 TOHO CO.,LTD.
興収も80億円を突破した庵野総監督&樋口監督による『シン・ゴジラ』 © 2016 TOHO CO.,LTD.

春岡「そうなんだよ。あれが今回の、最大のこだわりだよな。怪獣は下から撮らなきゃダメだっていう。あれをバカな特撮スタッフがゴジラを上から撮るようになって・・・。ゴジラは核の象徴で、人間の英知が及ばない破壊神なんだよ。それを神の視点、つまり上からゴジラを撮るなんてのは絶対ダメ。その基本というか、怪獣の存在意義をちゃんとわかってるかどうかってことなんだよ。それを庵野監督も樋口監督も分かってやってる」

斉藤「『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』の金子修介監督は、ちゃんとやってたけどね。あと、写真で出演していた岡本喜八監督(映画全盛期の東宝を代表する映画監督)。シネフィル(映画狂)なら分かる、映画『日本のいちばん長い日』(1967年)へのオマージュ。庵野監督は、岡本監督の大・大・大ファンだから(笑)」

春岡「『シン・ゴジラ』は、ゴジラの第1作と岡本喜八へのオマージュだよ。それとさ、庵野監督自身が言ってるけど、エヴァをやった後に燃え尽き症候群で、鬱に近い状態になって。で、映画をやめようかなって思ってるときに、ようやく燃える素材がきたっていう」

斉藤「終わったって、まだエヴァは終わってへんけどね(笑)」

春岡「終わってないけどさ。でも、爆破のシーンとか、世界最高レベルでしょ。逆にこれまでの東宝のゴジラ作った監督たちが、かわいそうになっちゃってさ。でも、庵野監督も樋口監督も、SF映画が好きで、怪獣映画が好きで、今自分たちが映画作家としてここにあるのはゴジラ第1作のおかげだって気持ちがありありと伝わってきて。それはやっぱ感動するじゃない。それでいて、あまりゴジラを知らない人が観ても充分に面白い。やっぱスゴイよ」

【後編に続く】

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