小泉徳宏監督「広瀬すずは天性の才能、圧倒的に華がある」
「今後活躍するであろう7人の貴重な今」(小泉監督)
──例えば、どんなところでそう思われました?
相手役の野村周平くんとのお芝居とか、競技のシーンとかで、事前に準備してきたとは思えない、いや逆に準備していたらとてもできない表情を自然に見せるんです。観ていてこちらがドキッとしてしまいます。おそらく天性の才能でしょうね。
──運動神経もいいですよね。走る姿が画になっている。これは青春映画ではとても大事なことだと思います。
僕の映画はしょっちゅう走らせますからね(笑)。彼女はバスケットボールをしていたようで体幹の意識があるのかな、かるた取りの練習しているときなども「体重の乗り方が全然しっくりきません」ってつぶやいて、何度も練習していました。
──昔、高倉健や藤純子を育てたことでも知られる名匠・マキノ雅弘監督に、演技の基本は「重心の移動」だと聞いたことがあります。口で「好き」と言っていても重心が外に逃げていくときそれは嘘だし、「嫌い」と言いながら重心が相手に近づいていったらほんとは「好き」なんだと。なんだか彼女はすでにそういうことがわかっているような気がしますね。
おそらく本人は、演技の基本とかはなにも意識してないと思います。なのに、演技をする上で大事なことが、いわば本能的にわかっているのかもしれません。
──彼女が最初にキャスティングされたのですよね。
そうです。この映画は、やはりヒロインが決まらないと始まらないものでしたから。ただ、キャスティングしたときは、彼女も今ほど有名になる前で、あの時点で決めておいてよかったなと思います。今思えば、大きな賭けですよね(笑)。
──野村周平は監督から見てどう映りましたか?
彼は本人の不器用さが味になっている男だと思います。ほんとはシャイなのにわざと大声出したりふざけたりして。お前は「歩く青春」かって感じですね(笑)。そして何より、奇跡を持っている俳優です。広瀬さんのような感覚派とは少し違いますが、ふとした表情にグッとくるものを見せてくれます。演じている太一という役柄に本質的に近い要素を持っていますね。本人は絶対に認めないでしょうけど(笑)。
──主要キャストのもうひとり、キラキラした印象では先の2人を凌ぐような強さを感じさせるのが真剣佑(まっけんゆう)です。
実はオーディションで2度落としているんです、彼を。ロサンゼルス出身なんですが、初めて会ったときはまだ日本に来たばかりで、潜在能力の高さこそ感じたのですが、今回の映画には間に合わないなと思ったんです。それでもやはり捨てがたい物があり、気になって、2度、3度と会っていくと、その度に芝居がうまくなっていくのがわかるんです。彼の成長曲線はこちらの予想を越えていました。すごくやる気もあるし。これなら大丈夫だろうと判断したのですが、結果は大成功でしたね。
──確かに。彼の成長はどういうところに見受けられましたか?
初めはセリフを言うのさえおぼつかないところがあったのですが、それがやがてセリフを自分なりに工夫して言えるようになり、今度は相手の芝居に合わせることもできるようになっていきました。実は撮影に入る前、彼を物語の舞台である福井に修業に出したんですよ(笑)。彼はそこでアルバイトなどもして地元の人たちとなじみ、言葉もしっかり身につけてました。
──それは見どころありますね(笑)。後編に千早のライバルとして登場する最強のクイーン・詩暢役を演じた松岡茉優、彼女も役にハマっていて驚きました。
彼女はいまテレビのバラエティ番組に出たり、雑誌で対談企画のホストをして注目されているようですが、僕は映画での彼女しか知らなくて、いい女優さんだなと思っていたんです。だから、この映画で彼女の女優としての姿を初めて知ったという人が意外に多くて驚きました。
──千早が作った瑞沢高校「競技かるた部」には、もう3人メンバーがいますね。
千早と太一の仲間を演じた3人ですね。『舞妓はレディ』(2014年)で主演の上白石萌音ちゃんは自分の役柄をきちっと理解した演技を見せるし、僕の前作『カノジョは嘘を愛しすぎている』にも出てもらった机くん役の森永悠希くんは、硬軟自在の演技で「将来の堺雅人」だと僕は睨んでいます(笑)。肉まんくんを演じた矢本悠馬くんはにじみ出るヤンキー臭こそ原作の肉まんくんとは違いますが、それを補ってあまりあるエネルギーの持ち主。今回出てくれた7人は将来がほんとに楽しみです。
──『タイヨウのうた』で主演したYUIはあの後すぐに人気シンガーになったし、『ガチ☆ボーイ』(2008年)ではまだ脇役だった向井理、仲里依紗も、『カノジョは…』では大原櫻子がみごとにブレイクしました。その意味で監督は実績がありますものね。
いや、それは本人たちに力があったからこそです。7人にも、もちろんその力はあります。また、今回は演じた役と実年齢が近くて、撮影時には10代だった人も多かった。広瀬さんは16歳でしたし。だから、今後ますます活躍するであろう彼らの貴重な「いま」を切り取り、この映画に映し込められたことは、とてもラッキーだと思いますね。
映画『ちはやふる(下の句)』
2016年4月29日(土)公開
原作:末次由紀『ちはやふる』(講談社「BE・LOVE」連載)
監督:小泉徳宏
出演:広瀬すず、野村周平、真剣佑、ほか
配給:東宝
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