行定勲監督を駆り立てる、ある事件

NEWSの加藤シゲアキが芸能界の嘘とリアルを描いた小説『ピンクとグレー』を映画化した行定勲監督。前回のインタビューでは、原作者・加藤シゲアキ、主演の中島裕翔(Hey!Say!JUMP)と菅田将暉についてが話題の中心だったが、後半は映画創作の原点ともいえる体験について赤裸々に語ってくれた行定監督。ほぼノーカットでお届けします。 ※ネタバレ多数のため、作品未見の方は、鑑賞されてからお読みになることをお薦めします。
取材・文/ミルクマン斉藤 写真/渡邉一生
「自分は『生き残ってる人間』だと定義づけている」(行定勲)
──現在公開中の映画『ピンクとグレー』は、「生者が死者に引っ張られる話」「生き残った者の話」であるという点で、行定監督の過去作との繋がりが大きいと思います。そもそもデビュー作の『ひまわり』(2000年)がそうだし、『閉じる日』(同年)、『贅沢な骨』(2001年)、『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)、『今度は愛妻家』(2010年)、『真夜中の五分前』(2014年)もそうで。
うんうん。
──小泉今日子さんや大竹しのぶさんが出演された『つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語』(2013年)の奔放な妻も、生きてるけれども死者同然だし。そうした物語に惹かれるオブセッション(編集部註:強迫観念)みたいなのが監督の中にあるんですかね?
はい、あると思います。小学校4年生のときに死に別れた人間が1人いたんですよ。彼と一緒に近くの湖に行く約束をしてたのに、僕は行かなかったんですよ。彼、そこで死んじゃったんですね。僕はそのとき、ほかの子どもに監禁されてたんです。彼と遊ばせたくないために蔵の中に閉じ込められていた。今にして思えば、ちょっと同性愛みたいな嫉妬を感じるんだけど。そういうことで、彼は1人で舟に乗っていたら穴が開いていて、沈んで死んじゃったんです、泳げなくて。僕は水泳部だったんで、一緒にいたら助けられたと思うんだけど・・・。で、それが僕の中にすごく大きくて、実は映画にしようと思ってたくらいの出来事なんです。それ以来、自分は「生き残ってる人間」だと定義づけている。
──なるほど、それはとてもじゃないけど消し難い記憶ですね・・・。
大人たちには、「生き残ってよかったね」って言われたんですよね。「あなたは生き残ったのよ、だから頑張って何もかもできなきゃ」って。でも子どもには整理つかないですよ、俺のせいかもしれないと。それからずっと十字架を背負っているというと大げさだけど、それに近いものがある。その子、在日の子だったんですよ。だから『GO』(2001年)を作るときも、彼のために作ろうとか考えていた。それ以前に作ったデビュー作『ひまわり』にもその記憶の断片が。あれはもう海難事故じゃないですか。死んでしまった「彼」は「彼女」にしたけど。『贅沢な骨』(2001年)も幸せな時があったのにポーンと1人いなくなっちゃって、残された人間はどう生きていけばいいのかっていうような。
──今作も、美しい青春の想い出に終わるんじゃなくて、後半で一転、残された者がそれからも生きていかねばならない残酷さをこれでもかとばかりに体験させる、と。
死に逝く側を描くとドラマチックなんだけど、残された側を描くと、惨めだったり、残酷だったりする。だって、1カ月や2カ月、いや1週間もするとみんな社会復帰してるわけですよ。なんなら、翌日から復帰してる人もいる。この『ピンクとグレー』も、死んだ彼をいつまでも追いかけるという妄執はあるんだけど、「いやいやいや、いい加減ウゼェと思ってるはずだ」って思う瞬間があって然るべきだな、と。あんなに自分が慕っていた人間で、憧れていたくせに、「またごっちの話かよ、もういいでしょう」と言ってしまう。そんなエゴみたいなものがあるはずだ。

──なるほど。
僕はずっとそれを意識して生活してきたから、戒めも込めて余計にそう思うのかもしれないです。それは原点ですからね、何といっても。表現の原点というよりは、記憶の原点というか。その前の記憶もあるんだけど、そんなものはどうでもいいくらいの記憶なんですよ。その小学校4年生の記憶こそが確固たる記憶で、俺の歴史はそこからスタートしてる。まあ、なんか自分で作家的な定義付けをしてるのかも知れないけど、モノ作りをするときは全部そこにフィードバックしてるのは事実だから。
──生きてる者っていうのはすべからく、タルコフスキーじゃないけど「ノスタルジアの力」に無理やり突き動かされているというか、それに引っ張られているものだと僕も常に感じているんですが。
芸術自体、記憶から作られることが多いでしょ? 現実からインスパイアされたなんていうのは論理にしか過ぎないというか、嘘だと思ってて。僕は絶対、記憶と歴史しかないと思うんですよ。だって記憶はもう動かないから、離れれば離れるほど実態がはっきりしますよね、輪郭も。現実で動いてる時間っていうのは、ほとんど輪郭がはっきりしない。だからこそノスタルジーに囚われない、現実だけの話をやりたいな、と思うんです。でもそれを際立たせるために、やっぱり過去を対比させてしまう。結局そうしないと現実は際立たない、という結論になるのかどうかを考えてみたいと思いますけどね。
映画『ピンクとグレー』
2016年1月9日(土)公開
原作:加藤シゲアキ(「ピンクとグレー」角川文庫)
監督:行定勲
出演:中島裕翔、菅田将暉、夏帆、岸井ゆきの、柳楽優弥
配給:アスミック・エース
映画『ピンクとグレー』
行定 勲(ゆきさだ・いさお)
1968年生まれ、熊本県出身。林海象監督や岩井俊二監督の作品に助監督として参加。長編第一作『ひまわり』(2000年)が第5回釜山国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞し、一躍注目を集める。2001年公開の『GO』では、日本アカデミー賞では各賞を総なめ。監督としての地位を不動のものにする。2004年の『世界の中心で、愛をさけぶ』は観客動員620万人、興行収入85億円の大ヒットを記録。以降も、『北の零年』『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』『真夜中の五分前』など、数々の作品を手掛ける。
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