行定監督「アイドルは振り切ってる」
2016.1.15 21:42

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現役アイドル・NEWSの加藤シゲアキが、芸能界の嘘とリアルを描いた衝撃のデビュー小説『ピンクとグレー』を、主演にHey! Say! JUMPの中島裕翔、監督に『世界の中心で、愛をさけぶ』の行定勲で映画化。本作に大きく銘打たれたのは、「幕開けから62分後の衝撃!!」という、いささか大げさにも思えるキャッチコピー。そんな本作『ピンクとグレー』について、また、原作者・加藤シゲアキ、俳優・中島裕翔について、行定勲監督を直撃した。

※のっけから映画の核心的な構造に深く触れた内容になっていますので、「ネタバレ」に拘る方や、まっさらな状態で作品に臨みたい未見の方は、鑑賞されてからお読みになることをお薦めします(ミルクマン斉藤)。

取材・文/ミルクマン斉藤 写真/渡邉一生

加藤くんは、「『否定してんの?俺のこと』って思ったかも知れない」(行定監督)

──僕は映画を拝見してから加藤シゲアキさんの原作を読んだのですが、出版時から話題になっていたのは承知していました。ま、その時から「現役アイドルが書いた芸能界の物語」という面がよく取り上げられていましたが、実際には苦味もあるけれど展開も文体もとても活き活きとして初々しい、上出来の青春物語という感じですね。そういう意味では正直とても面白かった。

本が売れないこの時代に加藤シゲアキの本は売れてるから、彼をもっと作家として売り出していきたい、とKADOKAWA(書店側)から映画化の動きがあって、映画側のプロデューサーから僕に話が来たんです。それで初めて読んだんだけど、すごく面白かった。ただ、最初の小説だから吟味して書いてはいない。衝動の中で浮かんだアイデアだけでバーッと書いたんじゃないかな。だからこそアタマいいな、大したもんだなと思うんですけどね、小説の「構造」も含めて。

──まさに、その「構造」こそがこの作品最大のキモではありますよね。ただ、原作では主に「時制の倒置」ということだけど、映画はそれ以上に大きな転換点が設けられている。宣伝では「幕開けから62分後の衝撃!」とブチ上げてますが、何も知らずに観た僕もさすがに驚きましたよ。でも、その構造は原作にも示されているんですよね。主人公である「りばちゃん」こと河田大貴が、自殺した親友「ごっち」こと白木蓮吾を映画で演じることになる、というプロットは。

そうなんです。加藤くんがそういう風に書かなかったら、(本作の構造も)絶対に成立しなかった。でも、もっと混乱させたいと思ったんですね。

──すべてが読む者の脳内で具体的な画になる「小説」と、ダイレクトに映像として示される「映画」というメディアの違いも大きいですしね。同じメタフィクション(編集部註:ノンフィクションをフィクションに見立てる表現手法)的なことをやるのでも。

中島裕翔が主役を演るのが先に決まったんですよ。僕のなかで彼は「ごっち」にしか見えないんで(笑)、「ごっち」の容姿をしてるし。でも、この小説の主役は「りばちゃん」なんですよ。じゃあ、両方やらしちゃえばいいじゃん、と一瞬考えるんですよ。で、「これだ!」と考えついたわけですけど。

──原作にも一応そのくだりはありますけれどね。でも、本筋の延長線上にあるリニアな時制のうえで書かれている。

加藤シゲアキの頭と肉体から小説『ピンクとグレー』が生み出され、そのバトンを受け継いだ僕の頭と肉体を通じて、映画『ピンクとグレー』が作られるわけだから。原作に対してリスペクトしつつも、一度自分のものにしてしまわないといけない。加藤くんの原作を元に僕が作ったキャラクターたちがどこに最後に着地するかは、映画監督である僕が握っていると、いつもそういう認識でいるんです。

──映画が完成してから加藤さんと喋りましたか? 原作でも結構映画のことが書かれてますが、あの年齢にしては珍しくちょっとシネフィル(編集部註:映画通)っぽいなと(笑)。

何回か一緒に飯を食ったことはあるんだけど、映画が完成してからはまだ喋ってないですね(編集部註:取材は昨年11月)。彼は映画には相当マニアックに詳しくて。完成したシナリオを読んでもらった後、本人から「行定さんの実験精神も感じられ、本気度がうかがえました。すごく楽しみにしています」と。でも、「作者としては複雑なところもありますが」って書いてきて。

──あぁ、そう思ったと。

そう。そこで僕は、「『否定してんの?俺のこと』って思ったかも知れないけど、そうじゃないよ」「君が書いた物語が僕のところに来た。君のこの作品に対する覚悟は、赤裸々な文章からもすごく感じているから、僕は君が作者として小説に込めた想いとか行為を踏襲しながらこのアイデアを浮かべ、そこから主人公にこういう道を辿らせることに至った。ただそれだけのことだ」って書いたの。紛れもなく、これは加藤シゲアキの『ピンクとグレー』からしか生まれない映画なんです。原作っていうのはそうあるべきなんですよね。

映画『ピンクとグレー』© 2016「ピンクとグレー」製作委員会
© 2016「ピンクとグレー」製作委員会画像一覧

──でも原作に対する監督の姿勢って、昔からそうですよね。だからこそ行定勲は、今の日本映画界きっての現代文学解釈者だと僕は思うのですが・・・。ま、かねてから片山恭一の『世界の中心で、愛をさけぶ』や本多孝好の『真夜中の五分前』が好きで好きでたまらない人は、この映画化を観てどう思うんだろう、と思ってはきたんですけど(笑)。

テーマが少し変わったものもありますしね。でも今回、それは変わってないと思う。基本的には友情を描いているし、俺はむしろこっちのほうがやさしい友情かな、と。 (蓬莱竜太と共同で)シナリオを書いてるときは、「蓬莱くんさ、このセリフ書いてもいいけどさ、(小声で)加藤くんどう思うだろうなぁ」なんて言ってはいたけど(笑)。こういう風に自分の原作が変貌するのは、映画好きの加藤くんなら「なるほど、こうきましたか」って多分楽しんでいるんじゃないでしょうかね。同じものを出されたほうが、「ちょっと頼むよ」って気分になるんじゃないですか?

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映画『ピンクとグレー』

同じ団地で育った同い年の大貴と蓮吾は、小中高と共に濃密な青春時代を過ごす。高校生になった2人は、雑誌の読者モデルをきっかけにバイト感覚で芸能活動をスタート。蓮吾がスターダムを駆け上がっていく一方、エキストラから抜け出せない大貴。友情と嫉妬、葛藤と決裂。そして、蓮吾の突然の死。第一発見者の大貴は、6通の遺書を手にする。遺書に導かれ、蓮吾の人生を綴った伝記を発表した大貴は、憧れのスターの地位を手にいれるが・・・。
2016年1月9日(土)公開
原作:加藤シゲアキ(「ピンクとグレー」角川文庫)
監督:行定勲
出演:中島裕翔、菅田将暉、夏帆、岸井ゆきの、柳楽優弥
配給:アスミック・エース
1時間59分
TOHOシネマズ梅田ほかで上映
URL:http://pinktogray.com

行定 勲(ゆきさだ・いさお)
1968年生まれ、熊本県出身。林海象監督や岩井俊二監督の作品に助監督として参加。長編第一作『ひまわり』(2000年)が第5回釜山国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞し、一躍注目を集める。2001年公開の『GO』では、日本アカデミー賞では各賞を総なめ。監督としての地位を不動のものにする。2004年の『世界の中心で、愛をさけぶ』は観客動員620万人、興行収入85億円の大ヒットを記録。以降も、『北の零年』『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』『真夜中の五分前』など、数々の作品を手掛ける。
URL:http://www.secondsight.jp

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