圧倒的な説得力、女優・安藤サクラ
2015.1.8 12:00

圧倒的な説得力、女優・安藤サクラ

年末年始にかけて公開された、安藤サクラ主演の『百円の恋』(監督:武正晴)。小品だけれど映画的な魅惑に満ちた映画だ。なにしろ出てくる人間たちのことがほとんど理解できないのに面白くて目が離せない。それは、32歳のだらしない女から精悍なボクサーへと変貌を遂げるヒロインを熱演した安藤サクラの肉体の説得力が圧倒的だから。彼女の代表作となる傑作がまたひとつ生まれた。

取材・文/春岡勇二 写真/渡邉一生

「汚くなることに必死(笑)」(安藤サクラ)

──衝撃がガツンとくる映画で、観ていてどんどん引き込まれました。

なかなかない、カッコイイ映画ですよね。

──それだけにこの時期(東京は12月20日、関西は1月3日から)の公開はもったいない気がします。前にでも後にでも時期が少しズレていたら、作品も演技も多くの映画賞の候補になったと思います。

8月の頭にクランクアップ、9月に初号が上がり、10月には東京国際映画祭に出品、11月15日からは山口県での先行上映と。ものすごいスピードで一気に作りましたから、賞のことや興行のための話題づくりとかを考えている時間もなかったと思います(笑)。でも、東京国際映画祭では日本映画スプラッシュ部門で作品賞をいただきました。

──山口県で先行上映というのは、この映画の脚本が周南映画祭で2012年に新設された脚本賞、第一回松田優作賞を受賞したからですね。

この映画が動き出したのはそこからですから。撮影も多くは神奈川や東京で撮っていますが、クランクインは周南市の徳山動物園でしたし、笠戸島の海水浴場や光市の宝積海岸でもロケしています。

──伝説的な俳優・松田優作の志を受け継ぐクリエイターを発掘する目的で新設された賞。プロデューサーの黒澤満さんやスチールカメラマンの渡邊俊夫さんら優作さんと親交のあった人が、賞にもこの映画にも関わっているのを知ると、映画ファンとして嬉しくなります。安藤さんが初めてシナリオを読まれたときの印象はどうでしたか?

初めは主人公の一子(いちこ)の周りの人たちが面白いなって思ったんです。そこから加速していって、ラストの試合のシーンはかなり興奮して読みました。

──資料を読むと、安藤さんご自身、中学生のころにボクシングをされてたんですね。

やってました。不良に憧れたんです(笑)。ボクシングをやってるというと恐れられるんじゃないか、と単純な考えでやり始めました。

──どれぐらいの期間、やってたのですか?

1~2年です。初めて熱中して取り組んだスポーツがボクシングでしたから。1年間は毎日のように通っていました。実はボクシング以外のスポーツをやったことがないんです、私。部活動もやっていなかったですし。

──すると、映画の中で一子が、バイトの帰り道にあるボクシングジムに興味を持って覗いて行くようになる、あの気持ちはわかったわけですね。

いえ、わかりません(笑)。一子は、実は一番自分と重なる部分のない役柄だったんです。でも、多くの人がイメージするいわゆるニートとか単純に暗い女の子とか、そういう風には演じたくないなと脚本を読んだ段階から思っていたんです。じゃあどう演じればいいのかってすごく悩みました。

安藤サクラ
安藤サクラ画像一覧

──具体的には、どのようにアプローチしていったわけですか?

まず、序盤の一子の自堕落な生活っていうのは、見た目の説得力がないと面白くないと思ったので、そこは徹底しようと、だらしない体づくりから始めました。太るのはもちろん、体毛をひたすら伸ばしてみたり、どうしたら歯を黄色くできるか考えたり、汚くなることに必死になりました(笑)。

──それを今度は撮影中に一変させていくわけですよね。劇中でボクシングを始めて、どんどん体を絞り込み、肉体も精神もシェイプアップしていく。

脚本ではボクシングに関してはそれほど厳しいことは書いてなかったんです。プロテストを受けて、最後に試合をしてっていう感じで。はじめ、中学生のときにお世話になったトレーナーの方に十数年ぶりに会って指導してもらったんです。そうしたら監督がその様子を見て、ボクシングシーンを深めたら、私の役柄の振り幅も作品の振り幅もぐんと広がると思ったみたいで、「徹底的に強く、うまくなってください」ということになったんです。それで脚本も少し変わり、またハードルが無限に上がってしまって、過酷なトレーニングが始まりました。

──それほど一子というキャラクターにやりたいと思わせるものがあったわけですか?

いや、確かに一子をやりたい気持ちはありましたけど、むしろそれよりももう少し大きなものがあったというか、脚本を読んだときから、これはキャストもスタッフも全員が闘う映画になるなっていう気がしていたんです。そうでないとできないんじゃないかな、と。その闘いに私も参加したい、いわばそういう気持ちでしたね。

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