林業でエンタメした矢口史靖監督

「台詞だと、心には沁み込まない気がして」(矢口監督)
──次に、キャストについてですが、染谷将太さんはオーディションで選ばれたんですね。
そうです。最初のオーディションに彼が来てくれて、もうこれ以上探す必要ないなと思いました。
──彼のどういうところが平野勇気役にふさわしいと思われたのですか。
まず、積極的に自分を売り込もうなんてしないところが良かったですね。それから笑顔がキュートだったこと。実は、僕はこのところ全然映画を観ていなくて、彼のことを知らなかったんですが、オーディションで初めて見て決めました。

──撮影に入ってからの彼はどうでしたか?
メンタルでもフィジカルでも、現場に備えて鍛えるみたいな変な役づくりは一切せずに、ずっと自然体でいてくれました。だからこちらも、妙に構えるようなことなしに、一緒に山で暮らす仲間という感じで接することが出来ました。
──撮影は合宿体制だったんですよね。
そうです。町に1軒しかないホテルにスタッフもキャストも一緒に寝泊まりしてました。そのホテルでは携帯がつながるんですが、少し離れるともうダメで、だからこの撮影中、スマホをいじっている人間はいなかったですね。すると、人間どうなるかというと近くの人に話しかけるんですよ。それで自然にコミュニケーションが深まっていく。スタッフ、キャストだけでなく、地元の人たちともそうなんです。自然体の染谷くんも、他の主要キャストの人たちもみんな仲良くなって、いい雰囲気の現場でした。
──染谷さんの自然体は映画の中でも最後まで変わらない。普通、こういった物語だと、軽薄だった男の子が成長していき最後は見違えるようになっている、なんていう表現が多いですが、平野勇気は一見しただけではあまり成長したように見えない(笑)。
いや、ちょっとだけ成長しているんです、そう見えないだけで(笑)。今回、例えば台詞で「山って最高!」とか「勇気も山の男になったな」なんて言わせるのが嫌だったんです。台詞で語ると、観ている人に情報としては伝わるけれども心には沁み込まない気がして。だから、映像とか描写とか表情とか、いわば映画の力で表現したかったんです。染谷くんもそのことをきちんと理解してくれていて、ニュアンスに富んだ演技をきちんとやってくれています。
──ニュアンスという意味では、がさつな男を演じているように見える伊藤英明さんも面白いなと思いました。
そうなんです。あの人は素も「人のいいジャイアン」みたいなんです。出演をオファーする前にドラマの現場を訪ねて会ったのですが、冬の現場で、「寒いですねー」とか言いながら自分が使っていたカイロをくれるんです。もう伊藤英明の温かさでぬくもった感じですよ(笑)。今回、浮気もしているのに奥さんともチュッチュしているという精力的な男を演じてもらったんですが、こういうキャラクターは女の人に受け入れてもらえるのかと不安だったんです。ところが訊いてみたら、えらく好評なんですよね。「山の男はあれくらいでいい」なんて意見が多い。まあ、伊藤さんが演じているということが大きいと思いますが。身体能力も高くて走るトラックに飛び乗るのも簡単にやってのける。でも、僕が一番感心したのはセンスの良さです。「ここは厭らしそうだけれども、半分気遣う感じでやってください」というと、まっすぐにその芝居が返ってくるんです。

──伊藤さんは『悪の教典』(2012年)あたりから、芝居が段々深くなってきたように思います。ヒロインを演じている長澤まさみさんもこれまでとは違った感じのキャラですね。
僕の映画に出てもらうのは初めてなんですが、何度かお会いしたことはあって、彼女をなぜこういうキャラで使わないのか? とずっと思っていたんです。これまで彼女が演じてきた役ってメイプルシロップみたいな甘い感じの女の子が多い。でも、僕に言わせると彼女は「ポン酢」なんです(笑)。男みたいにあっさりしているけれども、そこに味と魅力があるんです。だから今回、そういうヒロイン像でやってもらいました。オートバイも練習してもらって。この映画で新しい長澤まさみの魅力に気づいてもらえるうれしいです。
──ほかのキャストで気になったのが、伊藤さんの奥さんを演じている優香さんと、会社の同僚を演じているマキタスポーツさんでした。
優香さんについては、僕も正直言ってここまでできる人だとは思いませんでした。勘がいいんですよね。撮影前の衣装合わせの時、「私の演じる女性はどういう人なんでしょうか?」と訊いてこられたので「あえて言えば、『魔女の宅急便』のおソノさんと、ビッグダディの嫁を合わせた感じです」って答えたら、「わかりました」って。それで出来あがったのがあの奥さん像だったわけで、上手くミックスされてるなと思いました(笑)。マキタさんは以前テレビで見たときに、ものすごく普通のおじさんだなっていう印象があって、いつか仕事したいと思っていたんです。劇中に、トラックの荷台で歌うシーンがあるんですが、歌があまりにうまくて、思わず「うまいですねぇ」と彼に言ったんです。そうしたら撮影終了後に「実はCDも出しているので」って言われて・・・、音楽活動もなさっているのを僕は全然知らなったんですよ。
──最近、映画をあまり観ていないということでしたが、読書などに時間を費やされているということですか?
いや、散歩ばかりしています。だから芸能界のことがわからなくなりました。勉強不足です。

──村のお婆ちゃんたちと子供たちも個性的で良かったです。
そう言ってもらえるとうれしいです。なにしろ苦労しましたから(笑)。お婆ちゃんは50回、子役は80回オーディションしました。見つけたかったのは、お芝居の段取りなんかわからなくていいいから、本物に見える、現地で見つけた感じのする人たちだったんです。結果、決まった人たちは雰囲気は最高でしたがまったく現場に慣れてなくて、フレームの外で台詞言ったり、止まってほしい場所に全然こないとか勝手気ままなんですよ。お婆ちゃんたちは耳が遠くて指示がわからないし、補聴器渡したら翌日にはなくしてるし(笑)、ほんとに大変。でも、なん十回かテイクを重ねると一回くらいは上手くいって、それがまた抜群にいいんです。だから、苦労はしたけどやってよかったです。
──ほんとにお婆ちゃんたちも子供たちも、現場で見つけた、いわば現地調達の人たちにみえました。
現地調達と言えば、劇中に登場する鹿肉の刺身とかマムシの入ったお酒とかは、みんなそうです。ああいうものが普通にあるんです。そういう意味でも、山と一緒に暮らしている生活に僕らが参加させてもらった感じです。これまで林業とか山の暮らしとか森林とかとあまり関わりなく過ごしてきた人たちに、主人公の勇気と同じ目線で山に入ってもらい、その素晴らしさ、厳しさ、あるいはそんな暮らしに宿る生命力のようなものを一緒に感じてもらえたらうれしいです。
映画『WOOD JOB ! ~神去なあなあ日常~』
2014年5月10日(土)公開
監督:矢口史靖
出演:染谷将太、長澤まさみ、伊藤英明、優香、西田尚美、柄本 明、ほか
配給:東宝
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