井口奈己監督「女性は常に現実的です」
2014.2.17 12:00

井口奈己監督「女性は常に現実的です」

「実はもともとは、幽霊映画を作ろうと」(井口監督)

──日本映画には色悪はたまにいますが、こんなタイプの男は珍しい。

「はい、ニシノを色悪にしないためにはどうすればいいのかとは考えていました」

──幽霊になって出てきたニシノがみなみちゃんを連れて行く自分の葬式のシーン。あれもどこかファンタスティックでしたね。特にへろへろの音を出すブラスバンドがすごく面白くて印象的でした。フェルナンデスのZO−3ギターが素っ頓狂な音出したりして。デタラメのような、フリージャズのような・・・。

「そこ訊かれたの初めてでうれしい(笑)。実はものすごく有名な人たちなんです。ご想像通り、ノイズやフリーの人たちで。ああいう音が欲しいと思って頼んだのですが、はじめは5人と言っていたのに、平日なのに15人くらい来てくれて。コーディネイトされている方も『ミュージシャンは本気でやるつもりだよ』と言っていましたね。(全体のテンポを司る)大太鼓のテンポをちょっとずつわざと外していくということをやっていて、それであの音になったんです」

© 2014「ニシノユキヒコの恋と冒険」製作委員会
© 2014「ニシノユキヒコの恋と冒険」製作委員会画像一覧

──ところでこの映画、蜘蛛の巣と降ってくる隕石で終わりますね。いろいろと考えさせる結末ですが。

「よかった、隕石の話が出て(笑)。みんな何も言わないので、気にならないのかなと思ってました。この話題も初めてです。このラストシーンは5年前から決めてました、最後には隕石を落とそうと。まあ、人間(や生物が地上で)がいろいろやっていても、それとはまったく関係なく宇宙から隕石が落ちてきたりする。それが現実だ、みたいな。・・・いや、本当は(両者は)関係あると思うんですけど、なんていうんですかね、小さいことと大きいことが繋がっている(この宇宙の)象徴というか」

──アートマンとブラフマンみたいな感じですかね。

「そうですね。原作のなかに『あと三千万年するとアンドロメダ星雲と銀河系がぶつかる』という話をするシーンがあるんですけど、そのイメージを隕石にしてみたんです」

──さらに言うと、この映画は麻生さんの「恋は終わるもの。恋は愛とは違う」という言葉で締められています。確かに、恋と愛とは違うかも知れない。でも、恋は確かに終わるものなのか、では愛が終わることはないのか。不滅の愛なんてそう無いじゃないですか。これは僕にとって、隕石の落下と同じくらいにこの世界における大問題かも知れない(笑)。

「あぁ、なるほど」

© 2014「ニシノユキヒコの恋と冒険」製作委員会
© 2014「ニシノユキヒコの恋と冒険」製作委員会画像一覧

──でも麻生さんがその言葉を言うのは、非常に「男らしいな」と思ったんです。この映画に限らず、井口監督の映画では、女性は男よりもずっと現実的で、かなり積極的です。今回もひょっとするとニシノより肉食かも知れない(笑)。そこにも監督の確固たる女性観みたいなものがあるんですか?

「そうですね、女性は常に現実的です。このあいだ『ロマン的なところを拒絶してますよね』って言われてしまったのですが、でもそうかも知れないと思いましたね」

──数多くの女性とニシノはセックスしてるわけだけども、女性だってただ受け入れているのではなく、ニシノとの関係を楽しんでるといますよね。むしろニシノのほうが彼女たちに押されている。

「そうですね。私、女友だちの四方山話をよく聞いているんですけど、男性たちが『あの子とやっちゃった』みたいに喋ってるような、そういう感じじゃないんですよね。決して犠牲者じゃない。なのに男性の目線(から作られた表現物)では、女性が単なる欲望の対象として、ヤリ逃げされたみたいな話になりがちなのが納得いかないな、というのがずっとあって。女性も実は自分たちで選んでんだぞ、みたいな」

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井口奈己(いぐち・なみ)
1967年生まれ、東京都出身。自ら脚本・演出を手掛けた8mm映画『犬猫』が、PFFアワード2001で企画賞を受賞。8mm作品としては異例のレイトショー公開で話題を呼び、日本映画プロフェッショナル大賞・新人賞を獲得。2004年に『犬猫』のリメイクで商業デビュー。第22回トリノ国際映画祭で審査委員特別賞、国際批評家連盟賞、最優秀脚本特別賞の3部門を受賞。2008年には長編2作目となる『人のセックスを笑うな』が公開され、スマッシュヒットを記録。今もっとも注目を集めている女性監督。

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