井口奈己監督「女性は常に現実的です」

「ただ可愛いだけじゃないと、分かって欲しい」(井口監督)
──でも結局、ニシノをめぐる色恋沙汰は、そういう機微がまだよく分からない15歳のみなみちゃんに放り投げっぱなしで(笑)。そういう浮遊感がとてもいいんですよね。長回しを多用されることも含めて、監督の作品はいつもそうしたフレキシブルなところが絶妙なんですけれど。今回ですと、ニシノと尾野がオフィスでじゃれあう呼吸なんか、観ているほうが恥ずかしくなってくるくらいリアルで素晴らしい。なんでも監督は「長回しは意図してやってるわけではない」とおっしゃってるようですが、本当なんですか?(笑)
「私の長回しの定義というのは、テオ・アンゲロプロスとか相米慎二さんみたいなスタイルなんです。普通ならカットを割るところを、カメラも装置も動かして(緻密に構成)するのが長回しという風に思ってるので。自分の場合はまず(演技をする俳優の前に)カメラを置いて、そこで芝居が見切れなくなったらカットを割る、みたいな考え方なんです。もともとは割る前提なんですよ。なので、元々長回しを狙っている訳ではないので、そう言われるといつも『えっ?』ってなるんです」

──そんなニシノ、といいますか竹野内さんをめぐる女性陣も役にぴったりです。まあ、麻生さんや尾野さん、成海璃子さんが巧いのは周知の事実。木村文乃さんは最近一番輝いてる女優だし、新人の中村ゆりかさんもたまらなく可愛い。でも失礼だけど、僕が一番驚かされたのは本田翼さんでしたね!
「そうですね。私もびっくりするくらいでした。ちょうど彼女が『演技で怒られた』と言っている記事が出た後だったので、あまり芝居は得意でないイメージだったんです。でも、私は役に合うと思って選んだので『芝居できなくてもいいや』と思っていたのですが・・・いやいや、とんでもなく良かったです!」
──温泉地でニシノと一緒に後ろに転んだあとすっとしなだれかかるシーンとか、ニシノが会社から出てくるのを待ち受けてるときの絶妙な小悪魔ポーズ。なんというか、非常に恐ろしい、という意味も含めてスゴい(笑)。それになんといっても、本田さんと尾野さんが食卓とふがいないニシノを挟んでケンカする長回しシーンですね。
「私は最初から、本人にポテンシャルがある、その役に合ってると思った俳優さんにオファーしているので、逆に小芝居しない方がいいんです。いつも『自由に演って』と言っています。よく『えっ、いいんですか?』と言われますけど。あの殴り合い・・・というか尾野さんが殴っているシーンも、尾野さんと本田さんが『じゃ、こうしようか』と楽しそうにワイワイ話しながらやっているところもスゴかったですね。その後の本番はテイクワンOKでした。勢いがものスゴくて、撮ってる途中で私がドキドキして、カットかけそうになりました(笑)。ホントにスゴい、ってことをみんなに分かって欲しいですね。ただ可愛いだけじゃないんだということを。・・・まぁ、本当に可愛いんですけどね(笑)」

──『犬猫』以来、監督の映画ではよく「風」が吹くじゃないですか。今回の映画では不思議な風とともに、ニシノの幽霊がみなみの元にやってきますね。
「実はもともとは、幽霊映画を作ろうという気概でやっていたんです。なので、幽霊出現の仕方を研究するために、撮影前は幽霊映画をいっぱい観ていました。山本薩夫監督の『牡丹燈籠』(1968年)のオープニングで、お盆の入りで子どもたちが提灯を持って歩いていると、風がふーっと吹いてくるというシーンがすごく印象的で。提灯をぶらさげようかとか、お祭りしてるところを探すそうかとも思ったんですが、不自然じゃない感じにアレンジしたら、風が吹いて風鈴がチリンと鳴る、ああいう形になりました」
──でも、その演出が二シノというキャラクターに合ってますよね、風のような。これを見たとき、僕はニシノという存在って市川崑の『黒い十人の女』(1961年)に出てくる、その名も風さん(船越英二)に近いな、と思ったんですよ。
「あぁ、あの人も軽い感じですよね」
──あの映画も風さんをとりまく女だけに実体があって、中心にいる風さんは無に近い。女たちに殺されかけもするけれど、みんな実はそれほど恨んではいないし、遊ばれた風にも思っていない。彼らのせいで自殺して幽霊になって出てくる女(宮城まり子)さえも。とっても、そのあたりが似ているなと思ったんですけれども。
「そうですねぇ。意識はしてなかったのですが、言われてみると『黒い十人の女』になるのかな、と思いますね」

井口奈己(いぐち・なみ)
1967年生まれ、東京都出身。自ら脚本・演出を手掛けた8mm映画『犬猫』が、PFFアワード2001で企画賞を受賞。8mm作品としては異例のレイトショー公開で話題を呼び、日本映画プロフェッショナル大賞・新人賞を獲得。2004年に『犬猫』のリメイクで商業デビュー。第22回トリノ国際映画祭で審査委員特別賞、国際批評家連盟賞、最優秀脚本特別賞の3部門を受賞。2008年には長編2作目となる『人のセックスを笑うな』が公開され、スマッシュヒットを記録。今もっとも注目を集めている女性監督。
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