10周年の安藤裕子「もっと軽くていい」

2013年、デビュー10周年を迎えた安藤裕子。今年10月には、デビュー作『サリー』を彷彿とさせるジャケット写真でも話題を呼んだ、7枚目のオリジナル・アルバム『グッド・バイ』をリリース。美しく切ないバラード「ようこそここへ」、彼女の母としての強さを思わせる「グッド・バイ」、疾走感あふれるアップテンポナンバー「サイハテ」など、今まで以上に1曲ごとの個性が光る多彩なアルバムとなっている。10年という活動期間を経てシンガーソングライターとしての成熟を迎えつつも、まだまだ進化を続ける安藤裕子。最新アルバム、この10年の軌跡、そして次に向かうステージについて語ってもらいました。
写真/バンリ
「簡単に言えば、もっと軽くていい」(安藤裕子)
──まずは10周年おめでとうございます。
「ありがとうございます。もっさん(アレンジャー・山本隆二)、ディレクターとの3人体制で内部分裂とかもせず(笑)、これだけ長くやってこれたのはありがたいですね」
──早速、最新アルバム『グッド・バイ』についてなんですが。今まで以上に粒ぞろいの、「個」が強い印象だなぁと。
「最初の頃は、できた曲は全部詰め込んじゃおうとするところがあって、全体としてだらけた印象になることもあったんです。でも今回は、1曲1曲を大切に、ストーリーをちゃんと濃密に伝えるには10曲でよかったと思います」
──3曲ほどお蔵入りにしたり、録り直した曲もあったそうですが、その基準は何だったんですか?
「いつもアルバムって、曲ができた順にどんどんイメージを膨らませて形にしていくんですね。今回は、ふと気づいたらずいぶん重い曲が多かったんです。なんかバランス悪いなぁって。いつもは作ったものをスルッと固めて『よっしゃー!』てなるのに、今回は『あれ?固まんないな・・・』と思って」

──曲作りも昔とは変わってきたということですか?
「初めはもっと、人に聴かれることへの意識が強かったというか。自分が面白いと思う音楽を人に聴かせて楽しんでいただけりゃ、作り手としてもワクワクするなぁというのが強くて。でもシンガーソングライターとして、ちょとずつ自分の感情を吐露する音楽をやっていくようになると、それにもすごい感動を覚えるんですよね」
──なるほど。
「なんだろう、人とつながる感覚っていうのかな。だんだんそこに創作の重点が置かれていって、ただ人が聴いて楽しむっていう、いわゆる『ポップな音楽』から『私小説』的になっていくというか。でも自分の心情を吐露するってことは、自分の心情と対峙してなきゃいけなくて。それは心身ともにすごく疲れちゃうんですね。聴いてる人も全部それじゃ疲れちゃうし」
──それで改めて、1stフルアルバム『Middle Tempo Magic』(2004年)のポップさが大事だねと。
「そう、改めてバランスとりたいよねって。ただ流れてきて、ただ気持ちや身体が揺れるような音楽っていうのが必要だろうなって。簡単な言葉で言えば『もっと軽くていい』というか。それが最近の流行です(笑)」
──それは自分のなかで?
「うん、それは次に向けてのことでもあって。やっぱり震災があって、自分も子どもを宿したり、育てのおばぁちゃんが亡くなったりっていうのが続いて、出てくる楽曲にも死生観が強かったし。だから『グッド・バイ』はすごく重いものが中心にあるので。それはそれで私の経験の中から生まれたものだから、作品として結ってきてよかったなとは思うし」
──あまりにも色んなことが立て続けに起こって、安藤さんだけに限らず日本中の人にとっても、見えるものや感じるものが混沌としていたような気がします。
「だからこそ、この続きを歌うときに、もうちょっと軽やかな音楽に立ち返れるようにしたいなっていう。その境目はなんとなくこの作品では覚えてますね」
──じゃあ、このアルバム『グッド・バイ』って「区切り」という印象ですか?
「あと10年後にこういうインタビュー受けたときに、『あぁ、あれがターニングポイントだったね』ってなりそうな気はしてます」
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