劇作家・平田オリザのヒミツ

演劇のコンテクストの中に埋め込んだら、
25分間は「人間だ」と信じさせられる
──その平田さんが、現代口語演劇に続く新たな試みとして現在取り組んでいるのが、ロボット演劇です。
従来のロボットのデモンストレーションは、工学者が技術を誇ろうとするだけだったんですが、それだとほとんどの人は感動まではできない。でもその前後に物語を入れて、リアルに見える演出を付ければ、ロボットは格段に人間っぽくなるし、観る人の心を動かせるんです。
──ロボットは細かくプログラミングされているだけなのに、自発的に考えて動いてるように見えるのが、ロボット演劇のすごい点ですよね。
たまに「(自分で考える)AI(人工知能)じゃないと意味がない」と言う人もいますが、じゃあ逆に「AIは本当に意味があるのか?」って話ですよね。コミュニケーションというのは、基本的にパターンなんです。「この人がこういう言い方をしたら、こんな受け答えをしよう」という、その蓄積。だとしたら、ロボットに世界中のあらゆるコミュニケーションのパターンを完全に記憶させれば、もうAIは必要なくなるわけです。

──では、記憶したパターンを駆使することで、どんな人の受け答えにも的確に対応できて、しかも人間そっくりなロボットが登場したら・・・。
それは人間と言っていいのでは? って意見が出るでしょうね。実際アンドロイド演劇(註:人間に酷似したアンドロイド「ジェミノイド」を使った演劇)を海外で上演した時に、25分の芝居が終わった後「アンドロイドを演じた人、上手かったね」って言う観客が、たくさんいたんです(笑)。今までの展示の仕方だったら、アンドロイドはアンドロイドにしか見えなかった。でも演劇のコンテクストの中に埋め込んだら、少なくとも25分間は「人間だ」と信じこませることができるんですよ。
──今回の題材に『銀河鉄道の夜』を選ばれた理由は?
今までのロボット演劇は、ロボット展示=子ども向けというイメージを払拭するために、あえて大人を意識した題材を選んでました。でもそろそろ、子どものための作品を作ってもいい頃かと思いまして。ロボットがカンパネルラを演じると、彼が友達を助けて溺れ死ぬという自己犠牲の問題が、少し違う色合いを持ってくるんですよ。そのことをどうとらえるか? というのを、子どもにも大人にも考えてもらいたいです。

──今では作・演出家以外にも、いろいろな肩書きを持つようになりましたが、それでもなお「作家」にこだわり続ける理由は何でしょうか?
それはもう、劇作家ですから(笑)。作家以外にいろんな活動をしてきたのは、自分の仕事のしやすい環境を、自分で整えようとしたからなんです。僕自身、今こんなことになるとは、あまり思ってなかったけれど。
──特に「これがやりたいから書き続ける」という動機や衝動があったりは?
それもないですね。何でもいいから書く。芸術家というのは、どのジャンルでもそうですけど、情念の部分と職人の部分があって、特に劇作家は小説家と比べても、技術的な部分が占める割合が大きいんです。たとえば大工さんって、いちいち魂込めて家建てないでしょ?(笑)もちろん1つ1つのものに思い入れや愛情はあると思うけど、情念や衝動だけで作っていたら保たないですよ。それだと衝動や動機がなくなった時に、何も書けなくなっちゃいますから。
──でも「この先書けなくなるかもなあ」と思うことはないんですか?
ないです。書きたい題材は3年先まで決まっていて、日々その下調べをして、プロットを作って、それができたら1日10枚ずつ書いていって、1カ月で完成・・・と、まるで工場みたいに、きちんと生産しているので(笑)。
──それこそまさにロボットみたいですね(笑)。
でもまあ「書く」ということ自体が楽しいんですよ。だから「スランプはない」というのが、僕の公式見解です(笑)。
Profile
平田オリザ(ひらた・おりざ)
1962年生まれ、東京都出身。本名同じ。国際基督教大学在学中の82年に、劇団「青年団」を結成。80年代末に「現代口語演劇」(通称:静かな演劇)と呼ばれるスタイルを確立し、日本の演劇界に大きな反響を巻き起こす。95年『東京ノート』で「第39回岸田國士戯曲賞」を受賞。また東京の小劇場[こまばアゴラ劇場]オーナーとして、演劇界の第一線で活躍する人材を多数育成している。2012年には、高校演劇を題材にした『幕が上がる』で小説家デビューを果たした。大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授。
ロボット演劇版「銀河鉄道の夜」
原作:宮沢賢治、作・演出:平田オリザ(大阪大学)
ロボット・アンドロイド開発者:石黒浩(大阪大学&ATR)
出演:ロボビー、愛純もえり(吉本興業)、紙本明子、桜 稲垣早希(吉本興業)、ほか
日時:5月2日(木)~12日(日)
会場:ナレッジシアター(大阪市北区大深町3-1 うめきた・グランフロント大阪 ナレッジキャピタル4F)
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