歌の力を思い出した、七尾旅人の新作

2012.9.25 12:00
(写真2枚)

独自のDIYな立ち位置でフォーク、ロック、サイケ、クラブ・ミュージックなどのあらゆる要素を消化した音世界をカラフルに深化させ続けてきた七尾旅人。福島に住む母親の複雑な感情が切々と歌われた「圏内の歌」をはじめ、被災地にも何度も足を運びながら制作されたアルバム『リトルメロディ』は、真摯に磨き上げられたメロディ、歌詞、サウンドがとにかく美しい。震災以後のメンタリティを極上のポップ・ミュージックに昇華した今作について語ってもらった。

取材・文/吉本秀純 写真/長谷波ロビン

「口だけで伝えられるような素朴な歌を作りたい」(七尾旅人)

──曲調は多彩だけどシンプルな楽曲が多く、七尾作品としてはイイ意味で異例なほどスムーズに聴ける作品になりましたね。

「歌がわかりやすくてキャッチーだ、みたいなことはよく言われますね。今回は、曲作りの時に今までみたいにめちゃくちゃ凝るのではなく、子ども同士が楽器無しでアカペラでメロディを伝え合うような、自分も15~6歳の頃に声だけでやっていたような作曲方法に戻したんですよ。というのは、震災後に宮城から山形に避難した20歳くらいのファンの子がいて。その子から、家もおじいちゃんも弟もレコードも大事なピアノも全部流されたけど、七尾さんの歌は全曲覚えてるんですよ、と言われたことが大きくて。震災の直後は無力さも感じましたけど、そんな話を聞くと改めて『歌の力』を思い出したりして、家も楽器も流されても口だけで伝えられるような素朴な歌を作りたいという感覚が、今回の作品を聴きやすいものにしている側面があるかもしれないですね」

「15~6歳の頃に声だけでやっていたような作曲方法に戻した」という七尾旅人
「15~6歳の頃に声だけでやっていたような作曲方法に戻した」という七尾旅人

──聴いた後にも頭の中で鳴ったり、ふと口ずさんでしまうような曲が多いと思います。

「それこそ、(アルバムの最後に収録されている)『リトルメロディ』とかは童謡のようなメロディの作りにしてあるので、楽器なしでも、歌だけで、伝える事ができるんです。『Memory Lane』とかはもうちょっとだけ大人向きというか(実際に曲の一部を弾き語りしながら)アカペラで歌ってもいいんですけど、こうして和音の伴奏が入った方がわかりやすいし、曲想が活きてくる曲ですね」

──被災して何もかも失ってしまった子たちにも伝わるシンプルな歌というか。

「自分のやってる事に、そんな大した力があるかなんて、到底解らないけど、東北でいろんな方といっぱい会ううちに、自然にそうなった。例年の3倍くらい曲を書いて振り絞るように作りました。今作でいつも以上に力を発揮できなかったらミュージシャンとしての意味がないと思ってました。福島や宮城にも何度も足を運んでいろんな話を聞いて、義援金サイト『DIY STARS』も立ち上げたりして。アンダーグラウンドのミュージシャンたちが手を貸してくれて、みんなの想いが結晶化して1300万円くらい集まったので、熟考を重ねて、震災孤児のための基金に寄付しました」

──そんな具体的な支援活動も行いながら、震災後のパーソナルな心境をアルバムとしてまとめ上げていくというのは大変な創作活動だったのでは?

「そうですね。震災前に考えていたアルバムのアイデアは全部捨てて、ゼロから手探りで考えていきましたね。ホントは東北で書いた曲が他にいっぱいあるんですけど、それを全部入れるのではなく、もっと自分の生活のなかから出てきた俗っぽい感情なども入れるようにしました」

七尾旅人(ななお・たびと)

1979年生まれ、高知県出身のシンガー・ソングライター。1998年にシングル「オモヒデ オーヴァ ドライヴ」でデビュー。翌年には1stアルバム『雨に撃たえば...!disc2』を発表、独創的なサウンドプロダクションと世界観から“アンファンテリブル(恐るべき子供たちの意/コクトーの小説より)”と賞賛される。以降、精力的に活動を続け、2011年3月には、開発に携わって来た自力音源配信ウェブサービス「DIY STARS」より『DIY HEARTS 東北関東大震災義援金募集プロジェクト』(http://www.diystars.net/hearts/)を開始。

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