アニメーション映画監督、細田守に訊く

大学生(もちろん人間)の花と、おおかみおとこ(でも人を噛んだり満月の夜に変身したりはしない)との間に生まれた「おおかみこども」、姉の雪と弟の雨。でも父は不慮の事故で亡くなり、花は人間とおおかみの両方の性質を持った姉弟を女手ひとつで育てていこうと決心する・・・。タイトルからは想像不能だが、ファンタジーというよりも完全に子育て映画(!)である本作は、『時をかける少女』『サマーウォーズ』以上に端正な絵柄と、繊細かつ生命力にあふれた感情表現、そして潔くも清々しい物語に、観る者の背筋もきりりと伸びる細田守の新展開だ。
取材・文/ミルクマン斉藤
「人生における分岐、そこからの過程が映画的」(細田守)
前作『サマーウォーズ』(2009年)の舞台である長野県上田市の旧家のモデルが、2007年に結婚された細田監督の奥様の実家だというのは有名な話だ。ということは、少なくとも監督にはこの映画の主人公・花が体験するような子育ての体験がまだ、ないはずだ。
ええ、私にはまだ子どもがいないんです。子育てを実際には体験してないので、いま子育てをされてる親御さんたちにどういうふうに思われるのか判らないんですけどもね。とはいえ、僕たち夫婦にも子育てへの憧れの気持ちというのがすごくありました。なかなかね、子どもは欲しいといってできるものではないので、その憧れをそのまま形にしたというところなんです。結婚するまでは、まさか母親の話を描くなんて思ってもいませんでしたね。
個人的なことだが9歳の娘がいる私から見ても、「憧れ」だけでここまでリアルな子育て物語を描けるとは、尋常じゃない想像力とリサーチ力、そして感性だなと驚くばかり。そう、まさに本作は、ファンタジーというよりもリアルな育児映画。映画のすべてが「子どもを育てる」ということのアナロジーでできている。
まず子育てというか、こどもを育てていく話なわけですから、やっぱりこどもがどんどん大きくなる、成長していくダイナミズムを描きたいなと思ったんです。それは単に体が大きくなるだけじゃなくて、精神的な成長もあるでしょうね。そして子育てという新しい体験をする上で、お母さんも精神的な成長を遂げるだろうと思います。なんといっても13年っていう時間を2時間の映画のなかに収めるわけですから、やっぱりその精神的成長というのが映画のなかの大きなキーポイントになるなと思ったんです。

おおかみこどもならずとも、子供の内には「自然と社会」「本能と学習」といった相対するものが、大人よりも分かりやすい形であらわれているものだ。やがて雨と雪にもそのどちらに、より忠実な生き方をするか選択せねばならない時がやってくる。TVシリーズ『おじゃ魔女どれみドッカ~ン!』の第40話「どれみと魔女をやめた魔女」(2002年)や『時をかける少女』(2006年)に顕著なように、細田作品に「ふたまた道」のモチーフが頻出するのは有名だが、本作はプロットそのものが「ふたまた道」だといえるだろう。
やっぱり僕は、人生における「分岐」っていうのが面白いと思うんですよ。どっちの道を選ぶかで人生って全然変わってくる、それがすごく不思議な気がするんです。どっちを選んでも大して変わらないんじゃなくて、やっぱり決定的に・・・例えばこの子と付き合ったから今、こうあるとか・・・。そういう分岐の時点ではまだ人生を俯瞰できていないわけですから、ベストな選択って判らないじゃないですか。けれども選ばざるを得ない。そのどちらかを選んだことが自分を規定して、それからを決めていくという過程が、すごく映画的な感じがするんです。特に女性の人生のほうが分岐が多くて、劇的で、いろんな可能性がある気がする。でもそこには巧妙な罠がいろいろ仕掛けられてるのかも知れなくて・・・。『おじゃ魔女~』も『時をかける少女』もそうですけど、分岐の前で迷いたいというか、複雑で多様な価値観を持つ女性の人生に対して、どこか羨ましく思ってるところがあるのかも知れません。男性の分岐っていうのは女性に比べてえらく簡素なものかも知れないなと。

でもこの映画の主人公・花は迷わない。19歳で恋に落ちて、学生でありながら妊娠してしまっても、案外ノンシャランと喜びをもって受け入れてしまうのだ。
まぁ、なんといっても若いお母さんに憧れて作ってるものですから、今回はアニメーション映画らしくというか、憧れをそのまま映画にしようと思ったんです。主人公の人間像も学業はどうしようとか、奨学金はどうしようかってリアルな問題は置いといて(笑)、やはり理想的に行動する人物でありたいなぁと。実際に身近にも、学生結婚をして大学を辞めて2人の子宝に恵まれた人を知ってますけれども。学生ってもしも妊娠が発覚すると大概はビビるわけじゃないですか。それは人生の価値のほんの少ししか知らないからビビるわけでしょう。大きく俯瞰すれば、ひょっとしたら産んだ方が大学なんかに行くよりもよっぽど人生にとって、人間にとって、大きな体験になるかも知れないんですよね。
さらに花は、おおかみこどもの育てかたを探るうち、自然界へのコミットも深めていく。先に子どもに内在する対立概念を挙げたけれど、それとて実はまやかしであるとやがて花は気づいていくようなのだ(そういえば花の本棚には一元論を説く「神智学」の本もある)。
僕たちはつい「自然か人間か」とか「文明か自然か」みたいなことで考えますけれども、2つの要素を併せ持つ「おおかみこども」を身近に育てていると、それが実は一つのものだというのが実感としてあるんじゃないかという気がします。そもそも全ての子どもが、それを併せ持っているんじゃないか。そこがやはりとても面白いと思うんですね。
細田守 (ほそだ・まもる)
1967年生まれ、富山県出身。1991年に東映動画(現・東映アニメーション)に入社。アニメーターとして活躍後、演出家に転向。その後フリーとなり、2006年に手がけた劇場版『時をかける少女』では日本アカデミー賞 最優秀アニメーション作品賞など、2009年の『サマーウォーズ』ではデジタルコンテンツグランプリ経済産業大臣賞など、国内外で数多くの賞を受賞。
『おおかみこどもの雨と雪』
2012年7月21日(土)公開
監督・脚本・原作:細田守
出演(声):宮﨑あおい、大沢たかお、染谷将太、菅原文太、ほか
配給:東宝
© 2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会
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