劇作家・演出家の野田秀樹に取材! vol.2

「逃れられない人間関係、作り上げられる恐怖心」
──『THE BEE』は、筒井康隆さんの『毟りあい』(短編集『メタモルフォセス群島』に収録)が原作ですが、そもそもなぜこの作品を選ばれたのですか?
イギリスの俳優を対象にしたワークショップを開催することになって、どういう題材で行こうかと考えた時、ふと『毟りあい』が思い浮かんだんです。1970年ぐらいに書かれた短編だけど、この作品を今やると面白いんじゃないかなと。
──「BEE(蜂)」をシンボルにするアイディアは、どこから出たんでしょう?
原作は、加害者のサディスティックな衝動の描写が中心で、被害者の母子のことは、あまり描かれていませんでした。それでワークショップでは「なぜ2人は、この状況から逃れようと思わなかったのか?」という話をしたんです。そこで理由として上がったのが「作り上げる恐怖心」。まだ直接危害を加えられていなくても、恐怖のために逃れられない人間関係ってあるじゃないですか?
──実際の人質事件やDVの被害者でも、それに類似した話は聞きますね。
それは暴力や事件だけでなく、会社生活の中とかにも、実はあることだと思います。その「恐怖」をこの話に盛り込むことで、被害者のことも描けるだろうと。さらに、その恐怖と密接に関係している何かを、具体的に物語の中に登場させたら面白いかなということで、蜂という存在が浮かんできたわけです。
──確かに蜂って、見た瞬間反射的に「刺される!」と、恐怖を感じますよね。
それに「蜂のように働く」など、象徴性がいっぱいある虫ですからね。
──そういう諸要素を固めてから、ワークショップで作っていったんですか?
これに関しては、ワークショップの現場でいくつものアイディアを出して、その中で残っていった物を反映するという感じでした。日本語で作る芝居は、ほとんど自分だけでガッチリ作るんですけどね(註:『THE BEE』の初演は英語で上演され、翌年に日本語版が作られた。今回の再演の英語版は2/24~3/11に東京でのみ上演)。
「リアルな痛みを感じながら観る、演劇ならではの作業だなあと」
──凄惨な暴力描写を直接的な演技で見せるのではなく、紙や鉛筆などの身近な道具で暗示するという演出も、ワークショップで出てきたんですか?
鉛筆と紙は、かなり早い段階から「使いたい」と思っていました。劇中で起こる事件は、マスメディアから見ると「ある1つの事件」に過ぎず、みんなが飽きてきたら次、という風に使い捨てにされるわけですよ。そういうムダ使いのように扱われる象徴的な物として、紙と鉛筆を使いたいなと思いました。
──紙がどんどん破られたり、鉛筆が次々に折られるだけなのに、直接的な暴力描写を見せられるよりも、痛みや恐怖を強く感じられたのが印象的でした。
折れた鉛筆がプラーンとぶらさがっているだけなのに、そこにリアルな痛みを感じながら観る、というね。それは演劇ならではの作業だなあ、と思います。
──とにかく1時間ちょっと、ずっと痛みと緊張を強いられる感じですよね。
だから演じる方も、上演中は一度も芝居をゆるめることはできませんね。普通の芝居なら絶対、ちょっとだけゆるめる個所を作らないといけないけれど、この作品は少しでも、お客さんをゆるませたら成立しない。「あー、やだやだやだ。いやだー、いやだー、いやだああ!」と思わせ続けないといけないんです。
「若い人には奇妙であって欲しい、薄っぺらくていいから」
──それなのに「面白かった」と思えるのが、この作品の不思議な所ですね。
ただ嫌な思いしかさせないという演劇になっても、またいけないですからね。これを観て「演劇なんて二度と観たくない!」とは考えてほしくはないけど(笑)、まあ演劇にはいろいろあって、これも一つの演劇です…というような、ね。
──そして関西でも久々に、野田さんの芝居が上演されることになりますね。
本当にすみません(笑)。ずっと色んな場所で公演をやりたかったんですが、作品に見合った劇場を、なかなか見つけることができなくて。でも大阪では、数年前に若い役者たちとワークショップをやったんだけど、その時に「大阪には、面白いやつらいるな」って思ったんですよ。
──どの辺りが面白いと思われたんですか?
さっき話題にした、局部反応的な演劇にはないエネルギーがあって「まだここにエネルギーが残ってたよ!」と思ったわけですよ。やはり若い人には、エネルギーを出そうとしたり、奇妙であってほしい。たとえそれが薄っぺらくてもいいからさ。
取材・文/吉永美和子 写真/本野克佳
NODA・MAP番外公演「THE BEE」ジャパンツアー
原作:筒井康隆「毟りあい」
脚本:野田秀樹&コリン・ティーバン
演出:野田秀樹
出演:宮沢りえ、池田成志、近藤良平、野田秀樹
2012年5月25日(金)~6月3日(日) ※5/28(月)は休演
25・29・31・1日=19:00~、26・30・2日=14:00~/19:00~、27・3日=14:00~
大阪ビジネスパーク円形ホール
7,500円、サイドシート4,000円
※ 25歳以下の方は、チケットぴあ店舗でのみ、サイドシート2,000円に(要身分証提示)
※イープラス、チケットぴあにて2月25日(土)全国一斉発売
03-6802-6681(NODA・MAP)
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