鶴田真由「役者としてはやりがいある」

2010.10.5 10:00

映画界、演劇界で数々の受賞歴を誇る、脚本家/演出家の鄭義信(チョン・ウィシン)さん。演劇に疎い人でも、彼が脚本を担当した『月はどっちに出ている』、『血と骨』、『愛を乞うひと』という映画は知っているだろう。今や、もっとも注目を集める脚本家/演出家となった彼が次に手掛けるのは、2004年に上演された『アジアン スイーツ』の再演。嫁き遅れの姉・千代子を演じる鶴田真由さんに、この作品の見どころを聞いた。

撮影/本野克佳

──『アジアン スイーツ』(別枠参照)は、鄭さんが金久美子さんのために書き下ろした戯曲ですが、今回の再演にあたって最初にオファーを受けたときはどんな印象でしたか?

「みなさん、思い入れの強い作品なので緊張しますね。脚本が素晴らしいですし、とても愛情が込められているのが分かります。7回忌に再演されるということで、金さんも天国から観にいらっしゃると思うんですね。そういう意味でも、普段の舞台とはまた違った特別な空間が生まれてくるのではないかと、楽しみでもあります。スタッフにお聞きしたところ、初演の映像は残っていないようですが、たとえ残っていたとしても観るのはやめようと思っていました。自分は自分のスタイルで千代子という役に向き合っていきたいと思っています」

──先におこなわれる東京公演は2010年11月18日から、大阪公演は12月7日からですが、すでに稽古などは始まってるんですか?

「稽古はまだですね。今は、セリフを覚えている最中です。人間の感情の機微とかやりとりが、とても丁寧に、かつ感覚的に書かれているので、役者としてはやりがいがあります。台本通りにセリフを頭に入れて稽古が始まれば、あとは他の役者さんと一緒に現場で作りながら、という感じになります」

──そんな段階に恐縮ですが、いろんなインタビューを受けたりするなかで、鶴田さんなりに見えてきた今回の千代子像とかありますか?

「私が演じる千代子だけでなく、登場人物はみんな、決して器用な生き方をしている人たちではないんですね。その中でも、千代子は一番普通に見えるんだけれども、ある意味、病んでいるのではないかと思って。自分の感情をうまく表現できず、いろんなことを我慢して、全部、内に溜めちゃうタイプなんです。千代子のお母さんみたいに奔放な、心と体が直結してる人の方が健康的といえるかもしれません。だからこそ、幼なじみの男の人と満たされないキリキリした思いの中で腐れ縁になっているのでは。それも、その関係性に依存しているところもあって。それは、心のマイナスとマイナスの部分が引き合っている状態で、自分の暗い部分がネガティブな現状を呼んでしまっているというのか。最後は明るく、そういう負の部分をクリアして次のステージに行けるような…そういうことも描かれているのかなとは思いました」

──初演で千代子を演じた金久美子さんのことは、意識されたりしませんか?

「それはないですね。金さんが演じられた千代子は意識していませんが、鄭さんと金さんの絆があって、それを7回忌に再演したいという想いはすごく分かるんです。そこで自分ができること、鄭さんの想いも汲んだ上でいい舞台を一緒に作っていきたいという気持ちはあります。そして、鄭さんしか見えない、たとえば…このシーンはどのくらいの部屋の温度で、どんな空間なのかとか、脚本家にしか分からないことを感じ取って、鄭さんのカラーに沿っていきたいと思います」

──なるほど。ちなみに、大阪のお客さんの反応って、やっぱり東京とは違うものですか?

「実は私、大阪で舞台をさせていただくのは初めてなんですよ。先ほどのインタビューでも『大阪は違うわよ~、みんな前のめりになって観るから』って。それに、観客席のリアクションも早いから、『ブロードウェイみたいだ!』とおっしゃる演者さんもいらっしゃるようですね。面白かったら笑ってくれるし、つまらなかったらそういう空気が流れるんだろうなって、今から楽しみですね」

──家族、人との絆がテーマの『アジアン スイーツ』は、大阪人が好きなタイプの舞台だと思いますよ。

「私も、もしかしたら大阪が舞台じゃないかなって思ってたんですよ。舞台はどこかは特に書かれていませんが、なぜかそう感じました。喜んでもらえるとうれしいですね」

再演となる舞台 『アジアン スイーツ』
日本屈指の人気脚本家/演出家となった鄭義信に、少なくない影響を与えたといわれるのが、かつて座付き作家として参加していた劇団・新宿梁山泊時代。そして、その劇団の一員として活躍し、こちらも数々の賞を獲得した演技派女優・金久美子。お互い、もっとも信頼する作家、役者という関係だったという2人。鄭義信が彼女のために書き下ろしたのが、戯曲『アジアン スイーツ』である。しかし、上演された半年後、金久美子は肺ガンのため、45歳の若さで逝ってしまう・・・。今回、鄭義信たっての希望により、彼女の7回忌にあたる2010年に再演されることになった。

《あらすじ》
婦人服の仕立て屋を営む、足の不自由な嫁き遅れの姉・千代子。詐欺女に身ぐるみをはがされ、会社もクビになった弟・志朗。3度目の離婚をし、出戻ってきた母・美津子。そして、妻と離婚できないまま、幼なじみである千代子の家に転がり込んできた男・浅田。お互い、家族に見せられない過去を抱えながら、同居生活が始まっていく・・・。どうしようもなくダメな4人の家族が織りなす人間模様が描かれている。

アトリエ・ダンカン プロデュース 『アジアン スイーツ』

作・演出:鄭義信
出演:鶴田真由、新納慎也、清水宏、根岸季衣
期間:2010年12月7日(火)~9日(木)
会場:イオン化粧品シアターBRAVA!
料金:5500円(全席指定)※未就学児童入場不可

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