『大阪・関西万博』を建築で振り返る「大屋根リング」「森になる建築」「日本館」編

「大屋根リング」から万博会場の景色を楽しむ来場者たち(2025年9月24日 大阪・関西万博 Lmaga.jp編集部撮影)
『大阪・関西万博』が閉幕して2ヶ月以上経ち、残されるもの・解体されるもの・移築されるものが見えてきた。各パビリオンの設計者たちが万博に関わり始めた当初は、万博開催への風当たりが強く、開幕まで時間がない状態。さらに資材の高騰が追い討ちをかけた。建物が利用されるのは半年という期間限定のなかで、それぞれの立場で何を優先し、どんな工夫をしたのか。そして、各パビリオン建築に込められた願いとは…。
「NTTパビリオン」「大屋根リング」「森になる建築」「大阪ヘルスケアパビリオン」「日本館」「全体のランドスケープ」と「静けさの森」「フランス・パビリオン」に携わった設計者7名が、「日建設計」大阪オフィスで開催されたイベント『万博から生まれた可能性とこれからのまち・建築について』(11月27日開催)で万博を振り返った。そのトークの中から、3回に分けて各パビリオン建築について紹介する。今回の【前編】では、「大屋根リング」「森になる建築」「日本館」の3つを取り上げる。

◆ 最大の木造建築物「大屋根リング」

イベントの最初に登壇したのは、「大屋根リング」の実施設計者、「大林組」の伊藤翔さん。「大屋根リング」は、会場デザインプロデューサーの建築家・藤本壮介さんが「多様でありながら、ひとつ」という理念をもとにデザイン。実施設計と施工は、3つの区画に分けられ、大林組は北東工区を担当した。
「リングの成功に藤本さんのデザインプロデューサーとしての立ち回りは欠かせなかったと思っています。リングの価値を粘り強く発信し続けて、世間の批判の矢面に立ち続けたことによって、我々設計チームは守られていた側面もあったと思いますし、迷わず突き進めた」(伊藤さん)

伊藤さんは実施設計者として、作りやすさや、リユースのしやすさを追求した「大屋根リング」の作り方をデザイン。また短期間のなかで、来場者を支える木造建築としての性能や、塗装ごとの防滑性能の確認、手すりの強度なども確認している。
「大屋根リング」は、3月4日に「最大の木造建築物」としてギネス世界記録に認定されており、中大規模木造の今後の広がりに、伊藤さんは期待している。

◆ 世界最大の3Dプリント建築「森になる建築」
「竹中工務店」の山崎篤史さんが設計した「森になる建築」も、「生分解性樹脂を構造材として一体造形した、世界最大の3Dプリント建築」としてギネス世界記録に認定された。建物の寿命について考えた山崎さんが行き着いたのは。愛着が建築の寿命に大きく作用しているということだった。

「建築がゴミになるのではなくて、むしろこの建築があることで環境がさらに良くなっていく、そういうことを考えられないかと思いました。そのためには、建築の死について考えざるをえない」その結果、自然に分解されやすい材料(酢酸セルロース)単体で建築を作り、表面に植物の種を入れて漉いた紙を貼り付けた。

「誰もがつくることができる紙を使用して、建築づくりに参加してもらうことが、愛着につながると考えました。47万人くらいの方に来ていただいたのですが、中で座禅を組んだり、歌を歌ったりする人もいて。夏休みの自由研究で何回も来て、『森になる建築』の変環を記録してくれた子がいて、すごく嬉しかった。閉幕1日前には偶然会うこともできて、手紙をもらいました」と、喜んだ。

◆ 「循環」表現する会場最大級のパビリオン「日本館」

「日本館」の設計者による発表は、「日建設計」の高橋恵多さん。CLT(直交集成板)を使うという条件のなか、建物も円環状にして「日本館」のコンセプトの「循環」を表現した。CLTは閉幕後に利用しやすいように使用し、木の板が独立して立ち並ぶ姿を強調したデザインになっている。

「万博会場に来る意味について考えました。ここにある空気だとか光だとか匂いだとか、そういうものを展示のコンセプトと一緒に体験してもらう。ここにしかないような体験空間を作れないかということで設計を進めました」
日本館の総合プロデューサー/総合デザイナーは、nendoの佐藤オオキさん。「彼がデザイナーであり、建築家でもあったので、展示の空間に光を入れるなど、展示と建築を融合することができ、いい循環で進められたところは大きかったですね」と、注力した展示と建築の融合で結果を出せたとした。

◇
「『大阪・関西万博』を建築で振り返る」は、【中編】に続きます。
取材・文・写真(一部)/太田浩子 写真/ Lmaga.jp編集部
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