トキとヘブンの生き様が怪談を通じて共鳴しあう…「水飴を買う女」は最重要作品

15時間前

『ばけばけ』第59回より。毎晩、何度も何度もヘブン(トミー・バストウ)に怪談を語り聞かせるトキ(髙石あかり)(C)NHK

(写真5枚)

今週の連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合ほか)は、第12週「カイダン、ネガイマス。」が放送された。

ヘブン(トミー・バストウ)は、大雄寺で住職(伊武雅刀)から聞かされた怪談の魅力の虜になる。怪談をもっと知りたい、もっと聞きたいと願う彼に、トキ(髙石あかり)は「私、怪談、ようけようけ知っちょります。話、できます」と告げると、ヘブンは少年のように目を輝かせた。そしてトキは毎晩、何度も何度も、ヘブンに怪談を語るのだった。

これまで言葉の違い、文化の違いで意思の疎通が難しいなか、少しずつ心が近づいていったトキとヘブン。怪談というふたりだけの「共通言語」を得たことによって、互いの存在が互いのなかで急速に大きくなっていく様子が描かれた。

いよいよ「怪談」という、物語の核にたどり着いた今週の『ばけばけ』は、どこまでが史実で、どこまでがフィクションなのかが気になるところ。第12週の制作裏話を、制作統括の橋爪國臣さんに聞いた。

『ばけばけ』第59回より。(C)NHK
『ばけばけ』第59回より。本を読み聞かせるのではなく、トキの言葉で怪談を語った(C)NHK

■「トキとヘブンがどうやって怪談にたどり着くのか」が大切

ヘブンと怪談の出会いの描写について、橋爪さんは「トキとヘブンが出会うタイミングをアレンジするなど、『ばけばけ』には“史実とオリジナルのミックス”が随所にあります(※史実ではラフカディオ・ハーンが気管支炎で寝込んだために女中として雇われた小泉セツさんと出会う)。

なかでも特に12週には『史実とオリジナルのミックス』がたくさんあります。たとえば、ヘブンが初めて怪談に出会う大雄寺。史実で、実際にセツさんとハーンが大雄寺に行っているのは確かですが、ハーンが大雄寺で住職から怪談を聞いたのか、怪談を知ったうえで大雄寺に行ったのかは明らかになっていません」と橋爪さん。さらに、こう続ける。

「そもそもいつ、セツさんが怪談に詳しいことがハーンに知れたのか、どのタイミングでセツさんがハーンに怪談を語りだしたのかも、わかっていないんです。しかし、トキとヘブンがどうやって怪談にたどり着くのか、ということはこのドラマにおいてとても重要な部分。ふじき(みつ彦/脚本家)さんと我々スタッフとでいろいろと相談して決めたのが12週のストーリーです。

ハーンは日本に来る前からアイルランドの妖精譚に傾倒したり、アメリカ時代には不思議な話やホラーをたくさん取材したり書いたりしています。『元々そういった素養のある人が日本へ来て、怪談と出会った』ということで、何かをきっかけに点と点がパッとつながったらいいよね、とスタッフ間で話し合いました。怪談に出会うきっかけとなる『金縛り』はドラマオリジナルのエピソードです」。

『ばけばけ』第57回より。(C)NHK
『ばけばけ』第57回より。大雄寺で住職(伊武雅刀)から聞いた「水飴を買う女」に衝撃を受けるヘブン(トミー・バストウ)(C)NHK

■ 怪談は怖いというより、寂しいもの。人の気持ちに寄り添うもの

第57回で住職による「水飴を買う女」を聞いたことで、ヘブンの怪談への興味の扉が開く。第59回でトキが語った「子捨ての話」で、ふたりの母を持つトキと、母に捨てられたヘブンが物語を介して心を通わせる。こうした、物語に絡んでいく怪談はどのように決めているのだろうか。橋爪さんにたずねると、

「怪談のチョイスは、ふじきさんにおまかせで書いてもらったところもあれば、我々スタッフと一緒に話して決めたところもあります。『子捨ての話』のシーンはふじきさんのオリジナルで、ハーンの幼い頃の記憶と、セツさんの生い立ちを考え合わせて作ったエピソードだといいます。

怪談を語ってふたりで『怖いね』と言い合うだけではドラマにならないんです。トキとヘブンがそれぞれの怪談をどう捉えるかというところが大事だし、作り手としては考えなければならないところです。

かつて清光院で傳(堤真一)が『怪談とは怖いだけじゃなく、寂しいもの』と語っていましたが、ハーンの著書を読んでいくと、まさにそこに至ります。怪談は、怖いというよりむしろ、人の気持ちに寄り添うものである、というのが我々制作陣の共通認識です。そういう目線で怪談を見ているふじきさんだから、『子捨ての話』を介した、あのトキとヘブンのシーンが出てきたのだと思います」と話す。

『ばけばけ』第59回より。(C)NHK
『ばけばけ』第59回より。夢中でトキの怪談を聞くヘブン(トミー・バストウ)(C)NHK

■『水飴を買う女』はハーンにとって、とりわけ重要な作品

また、ヘブンが生まれて初めて耳にする日本の怪談「水飴を買う女」には、強いこだわりがあったという。

「ドラマに出てきてはいませんが、実は『水飴を買う女』には住職が話したストーリーの後に続きがあるんです。『墓の下で生きて見つかった赤ん坊は拾われて、その後成長して幸せに暮らした』というものなのですが、ハーンはその結末を著書『知られざる日本の面影』には書いていない。その代わりに、『母の愛は、死よりも強いのである。』と結んでいます。

これこそがハーンのオリジナリティであり、彼の『生まれ育ち』がとてつもなく強く反映されている一文だと思いました。トキとヘブンが怪談でつながるのであれば、ラフカディオ・ハーンの作品のなかでもとりわけ重要な『水飴を買う女』は『いいところで出したいよね』と、結構早いうちからディスカッションをしていました」。

『ばけばけ』第60回より。(C)NHK
『ばけばけ』第60回より。ヘブンに聞かせるためにもう一度「水飴を買う女」を聞かせてほしいと住職にと願い出るトキ(髙石あかり)(C)NHK

■ 滞在記は完成に近づくが…「それでもトキは怪談を語るのか」

銀二郎(寛一郎)と別れて以来、初めて怪談の素晴らしさを分かち合える「同志」と出会ったトキの喜びがあふれ出していた12週。それだけに、第60回で錦織(吉沢亮)が言った「君が怪談を語れば語るほど、滞在記は完成に近づき、先生はここからいなくなるということになる」という言葉が重くのしかかる。この錦織の言葉を受け取ったトキの思いについて橋爪さんは、

「切ないですよね。これまでトキの『怪談好き』を肯定してくれる人はほとんどおらず、親友のサワ(円井わん)でさえ『怪談で心が通った人』ではない。そんななか、『怪談』を介してトキを全肯定してくれるヘブンという存在にやっと巡り合えた。

語れば語るほどヘブンが松江を去る日が近づく、というジレンマのなかで、それでもトキは怪談を語るのか・・・という葛藤がドラマになると考えました。トキが一歩踏みだすターンなので、しっかりと二極対立を描きたいと思いました」とコメントした。

次週13週の週タイトルは「サンポ、シマショウカ。」。トキとヘブンは、どうなるのだろうか。

取材・文/佐野華英

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