岡崎体育が歴史のキーマン!?「写楽=十郎兵衛説」の証言者【べらぼう】

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第48回(最終回)より。写楽絵の描かれた団扇を手にする栄松斎長喜(岡崎体育)(C)NHK
江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。12月14日の第48回(最終回)「蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)」では、東洲斎写楽を斎藤十郎兵衛と結びつける最後の仕掛けが。さらに蔦屋で本を出す最後の大物登場でも、視聴者が盛り上がった。
■ 最後の大物・本居宣長に出版を打診…最終回あらすじ
蔦屋に出入りする戯作者・絵師が作り上げた「東洲斎写楽」は、その正体を世間に明かさぬまま打ち切られた。この件がきっかけで重三郎と和解した喜多川歌麿(染谷将太)は、彼をこの仕事に引き入れた重三郎の妻・てい(橋本愛)に「望まれなかった鬼の子も、この世の仲間入りしていいんですよって言われてるみたいだ」と感謝した。
一方、重三郎は、宴会の場に忘れられていた本居宣長(北村一輝)の和学の本に心惹かれる。

儒学を痛烈に批判したその本を、蔦屋で大々的に売ることをもくろんだ重三郎は、宣長のいる伊勢まで直談判に行く。あまり江戸で広まると、ここまで積み上げた学問を殺されると渋る宣長に対して、重三郎は元老中・松平定信(井上祐貴)の書簡を差し出す。
「和学は大事な学問」という定信の言葉と、「もののあわれ」を江戸の人に知ってほしいという重三郎の熱意に、宣長は出版を承諾。その著作は、江戸でも飛ぶように売れたのだった。
■ 岡崎体育が「写楽=十郎兵衛説」の証言者
ここしばらく懸念されていた、「東洲斎写楽と斎藤十郎兵衛をどう紐づけるのか」問題。斎藤十郎兵衛は一橋治済(どちらも生田斗真)の替え玉ライフを満喫し、治済の死後もそのまま人生を全うするようだけど・・・?

と思っていたら、重三郎がふと「東洲斎」を「斎東洲」と入れ替えたら「斎藤十(郎兵衛)」になる! とひらめき、彼が後の世で「写楽の候補」と呼ばれるような仕掛けを考えたい、という話が飛び出した。
そこでキーマンとなったのが、実は一瞬だけ登場した栄松斎長喜(岡崎体育)。「写楽=斎藤十郎兵衛」説の大きな根拠となっているのは、彼の「写楽は斎藤十郎兵衛という人だ」という証言なのだ。

でももしこの唯一の証人が、嘘を付いていたとしたら・・・? この仇討ち最大の功労者なのに、表立ってそのことを主張できない十郎兵衛に、重三郎は「東洲斎写楽」を通して報いようとした。その心意気と遊び心に、この調子の良さそうな長喜ならば乗っかりそうな感じがする。
写楽が「チーム蔦屋」の戯作者・絵師による一大プロジェクトという説で動いた時に、斎藤十郎兵衛説に凝り固まった人から「歴史の捏造」なんて声も飛び出したようだけど、もしかしたら根拠となっている資料そのものが「捏造」かもしれないじゃない? と、見事に反対派の足をすくうような結末を見せてくれた。
よく考えたらこの『べらぼう』自体が、情報のトリックや影響力を、良い面も悪い面も見せつづけたドラマでもある。

重三郎が細見や錦絵を通して、吉原の女郎の待遇や評判を大幅に改善した「正」の面もあれば、松平定信が田沼意次(渡辺謙)のネガキャンに読売を利用したり、治済が配下を使って佐野政言(矢本悠馬)を「大明神」に仕立てるというイメージ操作によって、真実をねじ曲げるという「負」の面も描かれた。
そして、現代の私たちもまた、情報の読み解きを誤ったら同じことになるだろうと、改めて警告を投げかけられた思いがした。
■ クセ強&関西弁で「濃い本居宣長」存在感残す
写楽騒動が落ち着いたところで、最後の最後に蔦屋で本を出版した重要人物の一人が登場した。幕府が中国伝来の儒学を推奨する一方で、日本古来の神話や物語を学ぶ「和学」を探求し、「もののあわれ」という理念を提唱した本居宣長だ。
この時点だと、関西方面では大名にも講義を行うほどのスーパースターだったけど、江戸では著作があまり売られてないこともあり、まだ「知る人ぞ知る」という存在だった。

そんな宣長が、なぜ黄表紙や錦絵などの娯楽色の強い本屋に、江戸での流通を任せたのか?
これは実際に重三郎が、宣長の住む伊勢まで交渉に来たという、その熱意に打たれた(根負けした?)のが大きかったと思うけど、『べらぼう』では重三郎と松平定信にコネクションができたことを生かして、定信に「江戸で和学の本を出しても大丈夫だよ」というお墨付きを与えたのを決め手にしてきた。
しかし、ここで北村一輝を宣長役で出してくるとは! 個人的には、本居宣長には勝手に「はんなり」というイメージを持っていたけど、この強面な宣長なら「儒学は屁」ってサラッと書きそうだ。
SNSでも「濃い本居宣長だッ(関西弁)」「思ったより癖強そうな本居宣長」「あんな短い出演で、本居宣長の存在感を残す北村一輝さんの凄さに震えました」など、キャスティングの妙に感心する声が集まっていた。

そして、蔦屋が本居宣長の本を江戸で販売することで、和学はまたたく間に多くの層に広まった。今で言うと、「おもしろい」という噂だけど地方のコミケでしか買えなかった作家の本が全国展開されたようなものだから、そりゃもう売れるだろう。
ただ、この本居宣長の「日本のものを大切にする」という考えが「尊王攘夷」の思想に発展し、約70年後に江戸幕府を倒す大きな力になるとは、さすがの重三郎も想像していなかったに違いない。
■ 蔦重の提案が、のちの大ヒット作誕生へ…
この伊勢出張の帰りに、たまたま茶屋で会った人から「一巻読み切りばかりじゃなくて、もうちょっと長い話を読みたい」「江戸の流行がわかりにくい」という貴重な読者の声を聞き、それを早速曲亭馬琴(津田健次郎)と十辺舎一九(井上芳雄)の次回作に活かそうとするのだから、本当にユーザーの声を反映するのが上手い。
さらにその役割を、この2人に的確に振るなんて、作家の適正を見る目があるにもほどがあると、ちょっと恐ろしくなるぐらいだ。

実際、馬琴はこの直後に蔦屋から刊行した『高尾船字文』で、長編を書きやすい「読本」というジャンルに挑み、人気作家の第一歩を踏み出す。超大作『南総里見八犬伝』を生み出すのは、この18年後だ。また一九も8年後に、東海道の名物や風俗を反映した滑稽本『東海道中膝栗毛』を発表。ちなみに板元は、重三郎ともしばしば絡んだ村田屋治郎兵衛(松田洋治)だ。
また、勝川春朗(葛飾北斎/くっきー!)には「音」を頼りに絵を描くことを提案するが、それが後の傑作風景画の数々につながるのかと思うと、なんとも感慨深い。

作家の才能を最大限に引き出す編集者であり、それらを効果的に売り出すセールスマンでもあり、社会を動かすにはどのような仕掛けをすればいいかを考えるプロデューサーであり、ときには報道的な役割も買って出た。
その仕事の集大成と言えるのが「東洲斎写楽」だったわけだが、やはり根本には人間を見る確かな目と、誰もが楽しく生きられる世を作るという信念があったからこそ、数々の偉業をなしとげたと改めて考える最終回だった。今の日本に重三郎が生まれたら、私たちにどんな笑いと夢を与えてくれるのだろうか。
◇
次の大河ドラマ『豊臣兄弟!』は1月4日からスタート。仲野太賀演じる豊臣秀長を主人公に、兄・豊臣秀吉(池松壮亮)とともに戦国の世を駆け抜け、立身出世を果たす姿を描いていく。NHK総合で毎週日曜・20時から、NHKBSは18時から、BSP4Kでは12時15分から放送される。
第1回『二匹の猿』では、百姓として平穏に生きる小一郎(のちの豊臣秀長)のもとに、織田信長(小栗旬)の家臣となった兄・藤吉郎(のちの豊臣秀吉)が現れ、武士の世界に引き込もうとするところを、15分拡大版でお送りする。
文/吉永美和子
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