「ミャクミャク」に全力投球…グッズ500種、仕掛け人がヒットを生み出した技とは

大阪・野田阪神にある「ヘソプロダクション」の旧社屋にて
『大阪・関西万博』で大盛り上がりとなった関西の2025年、そんな万博を盛り上げた立役者ともいえるのが、公式キャラクター・ミャクミャク。当初は「気持ち悪い」という声も少なくなかったミャクミャクの可能性に気づき、初期からグッズを企画・販売していたのが大阪・野田阪神を拠点にする企業「ヘソプロダクション」(大阪市福島区)だ。
代表取締役をつとめる稲本ミノルさんに、万博を受けての反響や今後の展望について、話を訊いた。
■ 一度は目にしたことがあるはず…ヒット商品を連発
サラリーマン時代は、新しい企画やアイデアへの会社の鈍い動きに、もどかしさを覚えたという稲本さん。2014年に創業した同社では、その苦い思い出を踏まえ、立案から商品化までスピーディーに進めることを信条に。
その結果、平成の空気を閉じ込めた缶詰、流行語大賞を受賞した忖度饅頭など、クスッと笑いを誘うものがSNSなどで度々話題となった。

その企画力から、関西企業とのコラボを実現。「フエキどうぶつのり」「アラビックヤマト」「マジックインキ」などだれもが知っている文房具のビジュアルを生かし、ふりかけやはちみつなどが楽しめるという奇をてらったアイテムを次々開発してきた。

もともとの商品ファンはもちろん、先方にとっても新規ファンを獲得するきっかけとなり、互いにWinWinの関係に。
そして、自分用はもちろん、気軽なプレゼント、関西土産としても重宝するアイテムとなり、「フエキどうぶつのり」は「心斎橋パルコ」に専門店までオープンしている。

「関西の優れたものづくり企業を広めたい」という思いからはじまり、その関西への愛は2025年におこなわれた『大阪・関西万博』でも発揮。
「不気味だ」「こんなの人気でるわけない」と言われていたミャクミャクに全力投球。きっと愛される存在になると信じて、開幕前から“全振り”した。

そして、モノトーン調のミャクミャクぬいぐるみ(通称:黒ミャク)や、赤い飲み物を注ぐとミャクミャクが現れる「ダブルウォールグラス」など、開発した個性的なグッズがいずれも大ヒット。万博閉幕後も、ミャクミャクファンから「ヘソプロダクションさんなら安心」と信頼を置かれるほどの存在となった。
■ 開幕前のテストランで「やばいことになる」と確信
──2023年ごろからミャクミャクは万博グッズを出していますよね。何種類ぐらいに?
閉幕後もまだグッズは出しているのですが、今のところは500種類以上かな? 作っている量が半端ないので、ロイヤリティを一番支払った会社もウチだったみたいです。

──そんなに! 11月19日には新社屋がオープンしていますが、これも万博効果の「ミャクミャク御殿」だったり・・・?
本当によく言われるのですが、さすがにビルは半年では建たないです(笑)。自社ビルの話は、万博が始まる前2年くらい前から動いていたんですよ。
この会社ができて10年が経ちました。10周年を迎えて社員にしょうもない記念品を渡すよりは、ビルをプレゼントしてあげる方がいいよなって思ったんです。

──なるほど、スケールが大きい・・・! 正直なところ、ここまで万博やミャクミャクが話題になると予想していましたか?
僕は元々、万博は「勝ち戦」だと思っていたんですよ。万博も成功して、きっとミャクミャクもえらいことになると。ただ、盛り上がるとしたら3月くらいからだと予想していたので、その時期になってもまだネガティブな話題が多いのはちょっと不安になっていましたね。
実感として「いける」と感じたのは開催前にあった「テストラン」ですね。あの3日間の売れ方を見て、「これ、やばいことなるわ」と確信しました。

──テストランのタイミングで販売されていた「黒ミャク」も今やレアアイテムですよね。こんなにも人気が出ることは想定していましたか?
僕はカバンにつけやすいから手に取りやすかったのかな、と思っています。元々の青&赤カラーって、目立つようにいろんな人にわかりやすいような色が配合されているらしいんですよ。でも目立ちすぎるのが嫌な人もいるだろうし、モノトーンだったら持ちたいっていう人がいるのかなって。
──なるほど。とてもファン心理に寄り添うグッズ作りだなと感じます。
元々、おもちゃが好きでコレクターだったんです。昔は日本橋に行ってフィギュアを集めたりもしていました。だからテーマパークやイベントに行っても、「こんなやつ欲しいけど、ないな」というのを感じることも多くて。だからちゃんと、みんなが「こんなの欲しかった」と思えるものを作ってあげたいという思いがあります。

■「しがんでる」と思われたくない、次なるアイデアは
──ミャクミャクファンの方はまだまだヘソプロダクションさんのグッズを心待ちにしていると思うんですが、今後の展開は?
ミャクミャクって、初期から応援している人もいれば、デビューが遅くて9月、10月ぐらいからファンになった人も意外と多くて。初期の商品を買えていなかったり、新商品を求めていたり、うちにもよく問い合わせが来るんです。
僕は飽き性なんで、どうせ同じ商品を売るぐらいならなにか新しい商品を作ってファンのニーズに応えてあげたいというのはあります。
それと、ミャクミャクグッズが売れるからって「ヘソ、しがんでるわ」って言われたくない(笑)。それだったらまだ新しいことに挑戦し続けて、ミャクミャクの進化系を探っている方が見え方もいいなって思います。「まだもうひとひねりいくんや!」みたいな。

──新たなヒットのため、どのようにアンテナを張っているのでしょうか。
僕は京都出身なんですけど、関西人としてものづくりやグッズがやっぱり流行るのはコミュニケーションツールの役割が強いと思っていて。ビジュアルや商品名を含めて「こんなおもろいの知ってるで!」と人に伝えたくなるようなものを作れば、勝手に拡散されていくとは感じています。
人って街を歩いていても、よくあるものには目がいかないですよね。ふと変なものを見つけた時に、足が止まると思うんです。だから僕は商品にいい違和感を与えるようにしていますね。よく見たら「これなんなん?」と思えるような商品作りができるよう気をつけています。

──そんな商品が、次回の『2027年国際園芸博覧会(通称:花博)』でも予定されているのか、気になるところです。11月には、横浜市に1000万円の寄付も実施されていましたが・・・。
寄付したからどう、というわけではなく「花博も成功したらいいな」という気持ちが大きいですね。僕は万博を自分にとっての青春だったと思っていて。あの感覚を横浜市や花博に携わる人にお裾分けしたい気持ちがあったんです。
僕は大阪で万博っていうのは、もう自分が生きてるうちにはないだろうなと思っていました。あと、コロナ禍以降の、関西における経済の復活祭だとも捉えていたので、みんなを巻き込みながら楽しみたいなって。だから元から万博で儲けようなんて思ってなくて、最後まで攻めきれたんだと思います。
じゃあ花博は? と考えたら、横浜は地元ではないので「よそ者の自分たちが」という思いもあります。惰性で「万博で儲けたから花博も」というマインドでやるのもどうかなと思います。
実は周りからも「何かやってよ」という声は届いているんですけど、とりあえず今は一度空っぽにして、次に何をやりたいかを待っている状態です。その時に花博を盛り上げたいと純粋に思えたらやりたいなと考えています。
◇
「また今度でいいかって後回しにしたことって、後で後悔することの方が絶対多い」と持論を語った稲本さん。その考え方を持つからこそ、ものづくりや「面白いこと」に対する嗅覚やスピード感も養われるのかもしれない。
現在は「1回フラットにしたい」と充電期間に入っているとのことだが、その期間を経たヘソプロダクションの次なる一手に注目だ。
取材・文/つちだ四郎 写真/Lmaga.jp編集部
2025大阪・関西万博公式ライセンス商品 ©Expo 2025
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