トキの啖呵が響いた長尺場面、池脇千鶴ら演者たちの爆発力が圧巻

『ばけばけ』第35回より。僻む母・フミ(池脇千鶴)に釈明するトキ(髙石あかり)(C)NHK
連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合ほか)の第7週「オトキサン、ジョチュウ、OK?」が放送され、今週はトキ(髙石あかり)がヘブン(トミー・バストウ)の女中として働き出した。
結果としてヘブンは、当時巷で「ラシャメン(洋妾)」と囁かれていた「女中」とは違う、純粋な「housemaid(家政婦)」としてトキを雇ったことがわかった。しかし、ラシャメンになることを覚悟の上で女中になることを決めたトキの思いは並々ならぬものだった。そして、真実がどうであろうと世間がトキや松野家に向ける色眼鏡は変わらない。
■ 家族のために一度は女中を断り、家族のために女中になることを決めた
女中の月給は20円で、現代の価値にしておよそ70〜80万円と破格だ。11月14日に放送された第35回では、トキが渡した月給の半額、10円(のうち9円)を返しにきた三之丞(板垣李光人)を、トキが突っぱねた。

トキは、物乞いをしているタエ(北川景子)の姿を見たら女中にならざるを得なかったのだと言う。しかしフミ(池脇千鶴)はこれを聞いて、育ての母である自分ではなく、産みの母であるタエのために娘が自分を売る覚悟をしたことにショックを受ける。
そんなフミを見てトキは、タエだからではなく、フミが物乞いになっても、家族のうちの誰が物乞いになったとしても同じことをしたのだと、切々と訴える。そのうえでまだ武家の格にこだわり「自分でなんとかする」と金を返そうとする三之丞に、トキは言う。

「私を見て。自分を捨てたの。自分を捨てて、家族のためにラシャメンになろうとしたの。おばさまをお救いしたいのなら、自分を捨ててこれもらって! でも、それでも自分でなんとかしたいなら、必死で働いて、いつかこのお金返してよ」
家から出ていったフミをトキが追いかけてきてからシーン終わりまでおよそ7分半。この長尺シーンについて、制作統括の橋爪國臣さんに聞いた。
■ 全員の思いが昂る長尺シーン、演者たちの爆発力が圧巻
橋爪さんは、それぞれの思いが去来する「井戸端のシーン」について、
「あのシーンでトキは三之丞に向けて啖呵を切りますが、実はあれはフミに向けて言っているんです。フミには、これまでトキを育ててきたプライドも自負もある。親子の愛情もある。それが一度否定されたような気持ちになっていたところ、トキの本当の気持ちを知って、フミが自分のなかで納得するシーンでした。トキの言葉を、フミは母としてどう受けとめるのか。なので演出もカメラワークも、あれは『フミのシーン』として撮っています。
みんなの気持ちが昂る、非常に気合いの入ったシーンでしたし、演出の村橋(直樹)も緊張感がありました。もちろん何回か返しながら撮っていくのですが、1発目でほとんど通しで撮ったときの全員の爆発力に圧倒されました」と振りかえった。

■「みんなのお母ちゃん」池脇千鶴の現場を引っぱる底力
「フミのシーン」と称されるこのシーンでの池脇千鶴の演技については、
「池脇さんの表情の作り方や間合いが最高です。脚本家のふじきみつ彦さんも完パケを見て感激していました。池脇さんがあれだけしっかりと受け止めてくれるからこそ、髙石さんも他のみんなも自由にお芝居ができる。三之丞の悲しみが浮き彫りになりつつも、松野家・雨清水家としてあらためて家族になることができたシーンだと思います」と橋爪さん。
また、このシーンのみならず、フミを演じる池脇千鶴についても、
「松野家は、フミがいるからもっていると言っても過言ではないと思います。松野家のシーンではアドリブも多かったり、いつも髙石さん、岡部(たかし)さん、小日向(文世)さんがそれぞれ自由にお芝居をしているなか、池脇さんがきっちりとつなぎ止める芝居をしてくださいます。コミカルなシーンでも池脇さんがどっしりと構えて、リアルに引き戻してくれる。だからこそ他のみんながのびのびと芝居ができるのだと思います」と語った。

さらに、「池脇さんは朝ドラヒロインとしての経験もあり(※2001年後期『ほんまもん』で主演)、常に目配りと気遣いを忘れず、『もっとこうしたらいいんじゃないか』といったアイデアをくださったり、現場を引っぱってくれます。みんなの『お母ちゃん』のような存在です。カメラが回っているときもいないときも、役に対するまっすぐで真摯な向き合い方が素晴らしいなと、日々感じ入っています」と絶賛した。
松野家があらためて家族の絆を深め、一度は零落してしまった雨清水家の再起をも予感させた第7週。次週・第8週「クビノ、カワ、イチマイ。」からはいよいよトキの女中としての仕事が本格始動するが、さっそく波乱含みのもようだ。
取材・文/佐野華英
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