「ダキタクナイ」すべての誤解を解く6文字、スタッフも打合せで爆笑

4時間前

『ばけばけ』第34回より。騒ぎを聞きつけ家に戻ったヘブン(トミー・バストウ)(C)NHK

(写真3枚)

今週放送中の連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合ほか)では、月給20円(現代の価値にしておよそ70〜80万円)の契約でトキ(髙石あかり)がヘブン(トミー・バストウ)の女中となった。

明治時代、世間の目からすれば在日外国人の女中はラシャメン(洋妾)に同じとされ、トキもその覚悟でヘブンの女中になることを決めた。松野家の借金を返すため、物乞いをするまでに零落してしまったタエ(北川景子)と三之丞(板垣李光人)を救うためだ。

■ 週タイトルのダブル・ミーニングが洒落ている

ヘブン以外の全員が「女中=ラシャメン」と思い込んでいたが、11月13日に放送された第34回で、それは全くの誤解であることが判明した。ヘブンに妾を囲おうなどという意思はなく、トキを雇ったのは純粋に「housemaid(家政婦)」としてだったのだ。

第7週の週タイトル「オトキサン、ジョチュウ、OK?」が、女中をやる覚悟をトキに問う文言かと思わせておいて、実はヘブンが誤解を解きながら言う「おトキさんは単なる女中です。理解しましたか?」の意でもあっというダブル・ミーニングが粋だ。

■「ダキタクナイ」の6文字で自体が急変

明治時代の格差社会をシビアに描きながら、言葉と文化の違いから生じるすれ違いや誤解をクスリと笑えるコメディに落としこむ脚本家・ふじきみつ彦氏の作劇。

第34回では、なかなか理解が追いついかないトキや錦織(吉沢亮)、そして松野家の面々を納得させるたった6文字のヘブンの台詞「ダキタクナイ」が、見事なパンチラインだった。この台詞が生まれた経緯を、制作統括の橋爪國臣さんに聞いた。

『ばけばけ』第34回より。(C)NHK
『ばけばけ』第34回より。ヘブンの家で祖父・勘右衛門(小日向文世)に本当のことを話すトキ(髙石あかり)(C)NHK

橋爪さんは、「あの台詞をふじきさんの台本の初稿で読んで、われわれスタッフも爆笑しました。6週・7週ではかなりデリケートなテーマに踏み込んでいます。朝ドラという小さなお子さんからお年寄りまで、いろんな方に観ていただいている枠で、『妾』『ラシャメン』の扱いについては慎重にならなければいけない。

そのうえで、明治の社会にあった問題から逃げずに、正面から向き合いたいと思いました。ふじきさんはこうした難題をきちんと掘り下げながら、最後には笑いの方向に持っていくのがとても上手で、『ダキタクナイ』も実にふじきさんらしい台詞だなと思いました」と語る。

『ばけばけ』第34回より。(C)NHK
『ばけばけ』第34回より。トキ(髙石あかり)を問い質す父・司之介(岡部たかし)(C)NHK

■ 当時の人の生き様を伝えることが重要なテーマ

また、モデルである小泉セツさんが小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の女中になった経緯について、「小泉セツさんがどこまでの『女中』だったのかは、実際のところはっきりとはわかりません。ただ、なかにはラシャメンとして入ったと読み取れる資料もいくつか残っていて、それは小泉家にとっては隠したかった歴史なのだと思います」と話す橋爪さん。

それでも、当時の「ラシャメン」「洋妾」について踏み込んだことについては、「王子様が現れて、貧しかったヒロインが幸せになる・・・というような、単なるシンデレラ・ストーリーとして描きたくはないと思いましたし、この時代、いろんな苦労もあったなかで、それでも生きていかなければならなかった。

そうした当時の人の生き様を伝えることは、このドラマの重要なテーマのひとつだと僕は思っています。小泉八雲の子孫であり、考証で携わっていただいている小泉凡さんともお話をし、『ばけばけ』が描くテーマにご理解をいただいて、このような描写になりました」とコメントした。

明治という時代の光と闇をしっかりと描きつつ、巧みなユーモアセンスでそれらを包み込んでエンターテインメントに昇華させている『ばけばけ』。これからもますますこの朝ドラの作劇の妙から目が離せない。

取材・文/佐野華英

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