万博で高級日傘が即完売!触るとひんやり…すぐ撤収可能な注目素材のパビリオン

2025.11.6 07:00

夜にはまるでガスの炎のように光る「ガスパビリオン おばけワンダーランド」パビリオン外観(9月30日/大阪・関西万博)

(写真14枚)

10月13日に閉幕し、現在撤収作業が進む『大阪・関西万博』。夢洲会場で多くの来場者の注目を集めた「パビリオン建築」には、半年という期間限定ならではの、未来に繋がるさまざまな工夫や、実験的な素材が採用されていた。今回は、「おばけ」に変身できる体験が人気となった「ガスパビリオン おばけワンダーランド」(一般社団法人日本ガス協会)の建物について取材した。

万博会場の北西、大屋根リングの外側にある同パビリオンは、銀色の膜で覆われたサイズ違いの三角屋根が連なるデザイン。夜は青くライトアップされて、まるでガスの炎のようだ。

(9月30日/大阪・関西万博)
昼のパビリオンは膜の白さが輝く(9月30日/大阪・関西万博)

メイン展示は、XRゴーグルを装着しておばけに変身し、ゲーム性のあるおばけワンダーランドを体験するというもの。案内役のおばけの「ミッチー」(CⅤは声優の下野紘)と欲しいものがなんでも手に入るおばけの世界を楽しんでいると、突然黒い謎のおばけが登場してすべてを壊してしまう。そんな拡張現実(AR)と仮想現実(VR)への没入体験が、子どもだけでなく大人にも人気になっている。

まわりに参加者のおばけたちが見える現実と、足元に広がる奈落の底に足がすくむ感覚も(9月30日/大阪・関西万博)
まわりに参加者のおばけたちが見える現実と、足元に広がる奈落の底に足がすくむ感覚も(9月30日/大阪・関西万博)

この展示について「XR技術を活用したワクワク・ドキドキな体験を通して一人ひとりが行動や意識を変える(化ける)ことで希望に満ちた明るい未来に変わっていく(化ける)ことを、子供たちにもわかりやすく伝えることが目的。地球温暖化などの解決のためには、二酸化炭素と水素からつくられる未来の都市ガス『e-メタン』の供給により、大気中のCO2を増やさず、カーボンニュートラルな社会の実現に貢献できる。2050年には都市ガスのカーボンニュートラル化を目指している」と担当者は話す。

(9月30日/大阪・関西万博)
現在のガス設備がそのまま使えるため、私たちは知らないうちに地球温暖化などの地球環境を解決する新しい都市ガス「e―メタン」が利用できるようになるそうだ(9月30日/大阪・関西万博)

◆ 1本2万円越えの高級日傘も話題に!放射冷却膜材「SPACECOOL」とは?

(9月30日/大阪・関西万博)
パビリオンスタッフのひとりは、「SPACECOOL」の日傘を仕事で使用して効果を実感。プライベートでも購入したという(9月30日/大阪・関西万博)

そんな環境貢献を追求した展示にあわせて建物を設計したのは、「日建設計」の石原嘉人さん。「環境負荷を抑えた建物をつくるだけでなく、会期中に新たな技術の実証実験を兼ねることで、未来の環境貢献技術を生み出すパビリオンを考えました」と話す。

その新しい技術とは、建物を覆う膜材に新規放射冷却膜材「SPACECOOL(スペースクール)」を実装したこと。そして、仮設山留用の鉄骨をレンタルして、構造フレームとして利用したことのふたつだ。

(9月30日/大阪・関西万博)
銀色の膜の部分が、日傘にも使われている「SPACECOOL」(9月30日/大阪・関西万博)

今回、世界で初めて建築外装材として採用された「SPACECOOL」は、陽射しを反射させる性能と、熱を放出させて冷却する性能を持つ。実際に陽が強く当たっている場所でも、さわってみると膜の表面はひんやりしていて驚いた。

(9月30日/大阪・関西万博)
「SPACECOOL」を実際に触らせてもらうと、直射日光にあたっている場所なのにひんやりとしていて、あつくない!(9月30日/大阪・関西万博)

この膜をつかった日傘が涼しいとSNSなどで話題になり、パビリオン内で販売している日傘(ストア特別価格21780円、定価26400円)は高額にもかかわらず、入荷してもすぐになくなる状態だそう。外に立ち続けるスタッフも一度使うと手放せなくて、プライベートでも購入したと話していた。

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日傘「スペースクール」はすぐに売り切れに(9月30日/大阪・関西万博)
ガスパビリオンの黒田章徳さん、吉道 一誠さんに傘を実際
にさしていただきました(9月30日/大阪・関西万博)
話題の傘を手に…ガスパビリオンの黒田章徳さん、吉道一誠さん(9月30日/大阪・関西万博)

この外装膜に加えて、人が滞在する三角形の建物の下の方は、外が暑くても床下から噴き出す冷たい空気により涼しく、三角形の頂点にたまる暖かい空気は外に放出される。なんと、60%以上の空調負荷を削減できる見込みだ。

(9月30日/大阪・関西万博)
パビリオンの床下から冷たい空気がはいってくる仕組み(9月30日/大阪・関西万博)

◆ 「解体が楽しみ」とは?閉幕後「即解体」できる理由

レンタル鉄骨の活用も、CO2が大幅に削減される。一般的な建物は建物に合わせて鉄を溶かし鉄骨が作られるが、既存のレンタル鉄骨を活用することで、閉幕後は解体してまたすぐ再利用できる。サイズなどに制約はあるものの、鉄骨の角度が変えられる「回転ピース」を活用して、パビリオンとしての迫力が出る大空間を確保しつつ、高さも角度もすべて異なる山脈のような外観が実現した。

(9月30日/大阪・関西万博)
既存のレンタル鉄骨と膜材を大胆に組み合わせた(9月30日/大阪・関西万博)

また、この鉄骨にはあらかじめボルト用の穴があるため、膜をロープで留めるという方法をとった。解体時はロープを解くだけで膜がはずれる。ちなみに閉幕後は、イベント用のテント膜などに加工して、市政や企業と連携して再利用される予定だという。

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ロープを解くと解体できる仕組みだ(9月30日/大阪・関西万博)

さらに建物の下の地盤は埋立地で弱いため、建物と同じ重さの土を掘り、そこに建物を乗せることで、地盤と建物のバランスを保つ浮き基礎を採用した。空調の一部も再利用する予定だ。また、鉄骨に膜をロープを縛った構造をそのままを見せ、仕上げなどの内装はしていないので、すぐに解体ができるようになっている。

現在のガス設備がそのまま使えるため、私たちは知らないうちに地球温暖化などの地球環境を解決する新しい都市ガス「e―メタン」が利用できるようになるそうだ。(9月30日/大阪・関西万博)
「化けろ、未来!」のテーマと同じく、撤収時も一瞬で化けられる!?(9月30日/大阪・関西万博)

石原さんは「最初から、できるだけ無駄なく廃棄物が出ないように、またパビリオンを建てること自体が環境貢献になるように日本ガス協会さんと考えてきました。閉幕後は解体も早く終わりそうで、それも施工者さんと一緒に楽しみにしています」と話し、更地に戻る最初のパビリオンになる可能性も高い。工期が短いこともまた環境負荷を減らすだろう。おばけパビリオンにおける最終的な実証実験の結果に期待したい。

取材・文・写真/太田浩子

(9月30日/大阪・関西万博)
中央が「日建設計」の石原嘉人さん。ガスパビリオンの吉道一誠さん、黒田章徳さんらスタッフと一緒にパビリオン前で記念撮影(9月30日/大阪・関西万博)
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