次郎兵衛が悪い? 蔦重の危険な博打…恋川春町がファン・松平定信へ諫言

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第35回より。自身が書いた黄表紙の売上が芳しくないことに拗ねる戯作者・恋川春町(岡山天音)(C)NHK
横浜流星主演で、数多くの浮世絵や小説を世に送り出したメディア王・蔦屋重三郎の、波乱万丈の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。9月14日の第35回「間違凧文武二道(まちがいだこぶんぶのふたみち)」では、松平定信の政を揶揄した黄表紙が、思うような反応が来なかったため、さらに大胆な作品を刊行することに。完全に本づくりがチキンレースと化したことを案じる声が、SNSで多数上がった。
■ 黄表紙を読んだ松平定信が奮起…第35回あらすじ
松平定信(井上祐貴)の政をからかうため、朋誠堂喜三二(尾美としのり)が書いた『文武二道万石通』は大ヒットするものの、定信を持ち上げる作品だと思われてしまい、これを読んだ定信自身も励ましだと捉えてしまった。勢いづいた定信は、一人ひとりが正しくあることを徹底させるような政策を進めていくが、肝心の将軍・徳川家斉(城桧吏)やその父・一橋治済(生田斗真)には伝わってないことに憤慨していた。

次の黄表紙を考える重三郎に、恋川春町(岡山天音)は、定信の文武奨励策によって、逆にぬらくらな武士が増えたことを風刺した『鸚鵡返文武二道』を書く。より直接的に政を皮肉った内容に、蔦屋の女将・てい(橋本愛)は強い危機感を示すが、春町は定信に肩の力を抜くよういさめる意図があると言う。さらに義兄・次郎兵衛(中村蒼)から、定信が蔦屋の黄表紙のファンと聞いた重三郎は、同書の発売を決めるのだが・・・。
■ 松平定信を風刺するも、真の意図は伝わらず
一見普通に面白い物語と思わせて、実は現実社会を痛烈に皮肉ったり批判しているという創作物は数多い。しかも表現の規制が強い時代には、それは社会や政治を斬る強烈な刃になるが、一歩間違えば自分たちの身を滅ぼす刃にもなる。文字通り諸刃の剣となる、定信の政治を風刺する黄表紙を一気に出版した重三郎。しかし一般読者はおろか、定信本人も真の意図に気づかなかったという、残念なようなホッとするような結果となった。

この第一ラウンドの肩透かしに、SNSは「伝わってなかった。よかった・・・!」「越中守ツヨイ、皮肉が通じないw」「黄表紙は好きだけど読解力はちょっと残念・・・って感じ?」「全部自分に都合良く解釈するタイプの無敵のオタク」「ほめ殺しが伝わらなかった時ほどやるせない気持ちになることはない」「作り手が意図した形とは違う形で世に広まるの、割と創作あるあるな気はしている」などの感想があがっていた。
■「理解のある上司」恋川春町の殿・松平信義
ただこの状況に、別の意味で腹を立てていた人がいる。「面倒くさいオタク」気質に共感者&ファンが多い恋川春町先生だ。自分の本『悦贔屓蝦夷押領』の売れ行きがよろしくなかったことに、畳の目を数えながらスネる姿に「同時発売で自分の本が一番売れない辛さ・・・わかる、わかるよ春町先生」「キャー春町先生拗ね拗ね。大好物」「口でハッキリ『ふん』て言うの草w」などの応援コメントが。

しかし春町が仕える小島藩藩主・松平信義(林家正蔵)は、春町の新作のうがちを正確に読み取っただけでなく、定信の政の欠点までサラッと指摘。信義自身の人物像はあまり記録に残っていないが、『べらぼう』では春町の副業に理解を示すだけでなく、次回作のヒントまで与えるという、すべてのオタクが「うちの上司もこんなんだったら・・・」とうらやみそうなキャラとなった。

同じ松平姓でも、ふんどしの守(ていさんの『ふんどしの守様』連呼も最高だった)とは大違いの信義様には「部下の創作活動に理解のある上司素敵最高」「春町先生、あらゆる理解のある職場・・・!」「エーッ自分の殿がファンとかすげぇな春町くん! ありがたいやん!」「正蔵師匠の松平様。こちらはちゃんと皮肉をご理解なさったのね」などの声が上がっていた。
■ 田沼意次、鳥山石燕…巨匠たちの相次ぐ訃報
そうして次の戦いに備えはじめた重三郎たちだけど、同時に悲しい知らせが相次いだ。まずは重三郎が活躍できる自由な気風を作った恩人・田沼意次(渡辺謙)の死だ。大田南畝(桐谷健太)から知らされるという訃報に、SNSは「田沼様、ナレ死ならぬ南畝死・・・」「あぁっ田沼様台詞で・・・お疲れ様でした」「蔦重にとって新しく作る本は田沼様への手向け花か」「御存命のうちに田沼様の評判をあげたかったよね、蔦重」などの追悼の言葉が。

また意次と同年に亡くなった妖怪画の巨匠・鳥山石燕は、雷獣の姿を描いたところで、筆を持ったまま絶命。このとき石燕が見た妖(あやかし)の着物が、平賀源内(安田顕)愛用の模様だったため、SNSでは「だから蔦重が(絵を)源内先生に似てるって言ったんだ。さすがだな」「源内先生・・・雷獣・・・雷・・・エレキテル・・・」「源内先生が化けるとエレキテルに因んで雷属性の怪物になるの、バトル漫画の読みすぎだよ!」と、思いがけない源内先生の再登場(?)に盛り上がった。
■ 恋川春町から松平定信への「愛情深い」メッセージ
「文武に励め」という定信の指令は、頭の悪い武士が曲解して理不尽な暴力を振るったり、「凧を上げたら国が収まる」(本当は、国を収めるのに必要な心得を凧揚げに例えていた)なんて珍説が広まるなど、予想外の方向に作用した。春町はこの状況をうがつどころか、ほぼストレートに描写した『鸚鵡返文武二道』を執筆。もともとギャンブル体質な重三郎と違い、物事を一歩引いて見ることができるおていさんが、さすがにブレーキをかけた。

しかし春町にとって、これは定信への攻撃ではなかった。自分の思い通りに世の中が動かなくても、それが思わぬ効果を生むことになるかもしれないから、もう少しゆとりを持った方が良い・・・というアドバイスだったのだ。そういえばかつての春町も、自分の頭の硬さゆえになかなか作家たちの輪に入れず苦労していた。その殻を破れば自分も、そして治める民たちも少しは息がしやすくなる。身分的に直言することはできなくても、黄表紙を介して身をもって知った教訓を伝えようとしていたのだ。
この志にSNSは「もう少し、肩の力を抜いて、世の中を見てはどうかと。春町らしいといえば、春町らしい」「定信くんと性格も感性も近いから定信くんのがんばりすぎが、若い時の自分に重なってソワソワしちゃうんだ」「まるで過去の自分の経験を語るような口ぶりからは、苦言や諫めよりもっと愛情深いものを感じる」「春町先生の正義みたいなものが垣間見える」などの共感の言葉が並んでいた。
■ 次郎兵衛兄さん、余計なことをしてくれた…
この言葉でおていさん以外の人たちが「出しちゃっていいかな・・・」という空気になったところで、次郎兵衛兄さんが「定信、黄表紙のファンだってよ」という耳寄りな情報を! これによって「黄表紙好きなら大目に見るだろう」「しかも春町先生のファンなら聞く耳持ってくれるんじゃね?」という楽観ムードが一気に高まってしまった。このあとの歴史を知っている者として言いたいのは、次郎兵衛兄さん、あんた余計なことをしてくれた・・・。

次回予告があまりにも不穏要素ばかりだったこともあり、SNSも「あっこれアクセル踏みすぎて事故るやっちゃ」「大売れした上にお咎めのなかった前例と、次郎兵衛兄さんの善意の報告が蔦重のアンテナを鈍らせてしまった」「好きな作家の作品内で自身が貶められたって気付いたら、どんな気持ちになるかな」「好きから嫌いに振れると憎しみに寄るからなあ・・・怖いなあ」「逃げて、春町先生!」と、恐怖に震えるコメントがあふれた。

どうでもいい人間に自分の欠点を指摘されても「だから?」と流すことができても、自分の好きな人・・・しかも「神」と崇める作家先生や「大明神」と称える出版者に、実は褒め殺しをされていたなんて想像したら、むしろオタク仲間・定信にはちょっと同情してしまうところもある。しかしその怒りが自分一人だけに収まるならよかったけど、江戸出版界を揺るがす大噴火となってしまうのだから、為政者というのは実に厄介なものである。
予告からして、もう明らかに『鸚鵡・・・』絶版処分と、恋川春町のピンチは避けられない様子。春町先生の死因は、病気とも自殺とも言われていて、どんな説を『べらぼう』では採用するのかは次週にならないとわからないけど・・・森下佳子脚本なので、視聴者に悲鳴をあげさせるようなものになることは覚悟しておこう。
◇
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。9月21日の第36回「鸚鵡のけりは鴨(おうむのけりはかも)」では、恋川春町の新作が松平定信の怒りを買って絶版処分になり、朋誠堂喜三二ら武士の作家たちに岐路が訪れるところが描かれる。
文/吉永美和子
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