最後まであがく大切さを植え付けて…意次退場【べらぼう】

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第34回より。沙汰を言い渡される田沼意次(渡辺謙)(C)NHK
江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。9月7日の第34回「ありがた山とかたじけ茄子(なすび)」では、失脚した田沼意次に代わって、ついに松平定信が幕政の表舞台へ。この2人と重三郎の関係を、あらためて振り返り&予想してみた。
■ 次々と処罰される田沼派…第34回あらすじ
一橋治済(生田斗真)の後ろ盾で、ごぼう抜きに老中首座となった松平定信(井上祐貴)。今の世は田沼意次(渡辺謙)の悪政のために、武士から町人、農民までもが自分の欲のことしか考えない「田沼病」にかかってるとして、それを治すために誰もが質素倹約に励むべきという政策を立てる。定信は読売(新聞)や隠密を使って自分の良い評判を江戸中に広めるとともに、逆に自分を非難するものを洗い出す動きをしていた。

そして田沼派の役人たちは次々に処罰され、田沼意知(宮沢氷魚)に代わって花魁・誰袖(福原遥)を身請けした土山宗次郎(栁俊太郎)も処刑される。そんななか、定信の政策をまやかしだと考える重三郎は、年明けに朋誠堂喜三二(尾美としのり)、恋川春町(岡山天音)、山東京伝(古川雄大)らによる、政道をからかう黄表紙を一挙に発売。実は黄表紙好きの定信も、その本を手にすることになる・・・。
■ 異例の「成り上がり」を遂げた田沼&蔦重
「四民の外」の吉原育ちの孤児から、日本橋に大店を構える当代一の本屋へと成り上がった蔦屋重三郎。吉原の窮状を直訴してきた彼に「ちゃんと宣伝してるのか?」とガイド本作りのきっかけをあたえたのは、やはり足軽という下層武士から、老中兼側用人という幕府の最高権力を手に入れた田沼意次だった。まさに生まれ持っての才覚一つだけで、異例の出世を遂げた2人には、最初から通じ合うものがあった・・・ということだろう。

このコラムでもたびたび話題にしたけれど、田沼意次が画期的だったのは、米と農業が重視されていたそれまでの時代から、商売と貨幣で社会を回す時代へと変換させたことだ。そのためにはいろいろな制限をあえて緩めて、良い金儲けのアイディアを持つ人がいれば、その者の身分を問わずすぐ実現できるよう、フットワークの軽い体制を作り上げた。そこから名を挙げたのが平賀源内(安田顕)であり、重三郎であったわけだ。
しかしかつて松平武元(石坂浩二)が指摘したように、儲けたお金をどんどん使って流通を促進させる消費社会は、有事の際に思わぬ横穴を開けられてしまうリスクがある。意次が不幸だったのは、ここまでドラマで描写されたように、歴史に残る大災害や飢饉に立て続けに見舞われたことだった。天災がここまでひどくなく、さらに後ろ盾となった将軍・徳川家治(眞島秀和)がもう少し長生きしていたら、もっと実現できた画期的な政策があっただろう。それを象徴するのが、最後に出てきた入れ札(投票)だった。

意次が日本の将来の政治・経済システムの数々を先取りしていたとはいえ、民主主義の概念まで考えていたというのは、さすがにフィクションだろう。しかし、たとえ引退を余儀なくされても、新しい政のシステムを考えつづける姿勢は、意次が作った「自らの思いに由(よ)ってのみ生きる」ことの恩恵を受けたと自負する重三郎に、最後の大きなインパクトを与えたはず。
お上からの圧力で崖っぷちに立たされても、ギリギリまで己の心のままに振る舞い、たとえ自分が負けたとしても、その意志は次の人に受け継がれる・・・完全に政治の世界から離れる意次が、重三郎に託した大きな置き土産だった。
■ 「寛政の改革」スタート、華麗な情報戦略
その入れ替わりではじまった、松平定信の寛政の改革。まず手掛けたのは、田沼意次のネガキャンだ。「読売」という大手メディアを使って、定信が清廉潔白で、不正がはびこった田沼時代を塗り替える力を持っていると大々的に宣伝。さらに隠密を使って自分の評判を口コミで広めつつ、否定的な人間を探し出す。
これって現在のSNSでの印象操作や、特定アカウントの情報開示を求めるのと完全にかぶっている。黄表紙という最新の流行本を愛読してるだけあり、情報戦に関しては意次を上回る戦略家だったのがわかった。

そうして広めたのが「質素倹約」という精神。遊びにうつつを抜かさず、無駄遣いもせず、まっとうに生きなさいよ・・・と一見良いことを言ってるけど、これは逆を返すと「遊び」で生きている人や、いろんな事情で普通に働いて生活することができない「(定信が定義する)正しさからはみ出る奴」への、憎悪を向ける行為になりかねない。
今現在、生活保護などの弱者救済に公金が使われることを「税金の無駄遣い」と叩く声が大きくなってきているけど、それはまさにこういうことだと思った人は少なくあるまい。

こうした情報操作によって、田沼時代を全否定する世相を整えてから、いよいよ自分の理想の世を作るべく動き出す「ふんどしの守」(重三郎命名)こと松平定信。重三郎の敵対相手ということで、娯楽や言論を弾圧したヴィランの面が強調されていくだろうが、一方で農村復興のための各種助成金を設けたり、犯罪者の社会復帰を支援する「人足寄場」を設置する(発案は長谷川平蔵!)など、現在にも通じる公共サービスの基礎を作ったという功績もあると、今のうちに助け舟を出しておこう。
■ 渡辺謙が退場…ハリウッド級演技に「ありがた山」
いよいよ次回は、重三郎 VS 定信第一ラウンドとして、意次を貶すふりをして定信を揶揄するという、高度なうがちを入れた黄表紙を販売。今まで禁じられていた、政道を語った本を出してもスルーされれば、それだけでまず重三郎の勝利だ。しかしそこに込められたうがちを定信に読み取られてしまったら、それは後々やっかいなことになるかもしれないが・・・。

そして今回で退場の気配が濃厚な意次役の渡辺謙は、ハリウッド級の重厚な空気感と遊びがわかるライトな空気感を使い分けたさすがの演技で、政治パートの世界の厚みを増したことを評価・・・というか「ありがた山」と感謝申し上げたい気持ちだ。ちょうどこの日に阪神タイガースも優勝したので(笑)、あとは心置きなくこれからの試合を楽しんでください。
◇
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。9月14日の第35回「間違凧文武二道(まちがいだこぶんぶのふたみち)」では、朋誠堂喜三二(尾美としのり)の黄表紙『文武二道万石通』が松平定信から予想外の反応を受けるところと、喜多川歌麿(染谷将太)の私生活に変化が訪れるところが描かれる。
文/吉永美和子
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