世にあらがう決意の「屁」の踊りにSNS胸熱【べらぼう】

3時間前

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第34回より。「屁」と連呼しながら盛り上がる狂歌師・大田南畝(桐谷健太)たち(C)NHK

(写真7枚)

横浜流星主演で、数多くの浮世絵や小説を世に送り出したメディア王・蔦屋重三郎の、波乱万丈の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。9月7日の第34回「ありがた山とかたじけ茄子(なすび)」では、田沼意次の失脚で時代の風向きが完全に変わるなか、重三郎がそれまでの「楽しい本作り」から方向転換。作家たちと一致団結するなか、懐かしいダンスにSNSでは感慨にふける人が続出した。

■ 老中・松平定信が「質素倹約」を進める…第34回あらすじ

重三郎は打ちこわしを収めた田沼意次(渡辺謙)の老中返り咲きを期待していたが、老中首座となったのは松平定信(井上祐貴)だった。重三郎は定信が提唱する、誰もが質素倹約に務める世に反発するが、妻・てい(橋本愛)は派手に遊び回る人をもてはやす今の世の方が狂っていて、だからこそ定信の登場に世間が喜んでいると重三郎を諭す。さらに定信を批判する狂歌を作ったと疑われた大田南畝(桐谷健太)は、断筆宣言をした。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第34回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第34回より。できあがった錦絵を眺める鳥山石燕(片岡鶴太郎)(C)NHK

重三郎は意次と面会し、自分は最後の田沼派として、書をもって世の流れにあらがうと告げる。そして定信が読売(新聞)を使って、世論を操作していることを逆手に取り、意次を叩くふりをして定信の政をからかう黄表紙と、贅沢な狂歌絵本を作ると宣言。狂歌を守りたいと願う重三郎の説得で、南畝は喜多川歌麿(染谷将太)が描く狂歌絵本『画本虫撰』への寄稿を決め、その場にいた作家たちと昔のように戯れるのだった。

■ 軍師・てい、岐路に立たされた蔦重に進言

田沼意次が作った自由な気風という追い風を受けて、最初は吉原に人を呼ぶための仕掛けをあれこれ考え、今は世の中を明るくする最高の娯楽本を作るという、まさに順風満帆といえる道をたどってきた重三郎。

しかし松平定信が老中となった途端、その風はピタリとやんでしまうどころか、むしろ向かい風が起こりはじめた。その風を追い風に変えるべく方向を変えるのか、それとも風に逆らって歩みつづけるのかという、岐路が描かれる回となった。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第34回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第34回より。眼鏡を外して重三郎の目を見る妻・てい(橋本愛)(C)NHK

方向を変えるように言ったのは、堅実な事務能力と膨大な書物から得た豊富な知識で、すっかり重三郎の良き相方となった妻・おていさん。贅沢を禁じる定信に対して激おこな重三郎に、明鏡止水→ちょっと落ち着いて状況を見ろ、とめずらしく反論。たしかに吉原という贅沢の極みのような場所が日常だった重三郎と、その吉原で痛い目を見た経験のあるていとでは「贅沢」のとらえ方は全然違うし、むしろ重三郎の方が特殊に思える。

このおていさんの行動にはSNSも「『自分を押し通すのではなく、店を守る手を』これを本気で言えるのは、店を潰した苦い経験のあるおていさんだけ」「真面目で世間とのバランス感覚もよく感じ取っている。ともすれば面白い事楽しい事ばかりに傾きがちな蔦重の良き舵取り役」「あらゆる事態に備えるために『一番悪いパターン』をあえて口にするおていさん、やっぱこの人ポジション・軍師だよ」と、改めて感心するような声が。

■ 「エンタメ冬の時代」大田南畝が断筆宣言

ここで重三郎の追い打ちとなったのが、大田南畝の断筆宣言。南畝が定信を揶揄するような歌を詠んだ疑いで締め上げられ、文筆活動を自粛したのは実話だ。やはり大きな勢力の力を削ごうと思ったら、まずその集団のなかで一番強い者を倒すというのが戦いのセオリー。しかも同じ武士でも、地方公務員的な立場で縛りの少ない朋誠堂喜三二(尾美としのり)とは違い、南畝は幕府直参なので、幕府に睨まれたら即命取りという立場だったのもまずかった。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第34回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第34回より。政を揶揄する狂歌を詠んだ疑いをかけられる狂歌師・大田南畝(桐谷健太)(C)NHK

時代に振り回される南畝に対しては「詠んでもない狂歌を褒めただけで職場で処罰される!! 見せしめ!!」「南畝先生が真面目な大人に真面目に怒られてるところ・・・見たくなさ過ぎる」「これが寛政の改革の始まりなのか。一気に世の中とドラマ内の空気が変わってきた」「エンタメ冬の時代到来」「南畝先生がイキイキとしてなくて意気消沈としてるの、暗い世情になるんだなあという予感があって息苦しい」などの同情の声が上がっていた。

もしかしたら以前の重三郎なら、世間が質素倹約ムーブかますなら、いっちょ節約術の往来本でも作って儲けましょう! となったかもしれないけど、今の重三郎は「世の中を明るくする本を作れ」という平賀源内(安田顕)のアドバイスに加えて、前回小田新之助(井之脇海)に「世の中を明るくする男を救えた」という、ダメ押しのような言葉を遺された身の上。そんな重三郎がやるべきは、娯楽や遊びを全否定して仕事しかやることがなくなるディストピアを阻止するために「それっておかしくねえですか?!」と声を上げることなのだ。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第34回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第34回より。重三郎に集められた狂歌師・宿屋飯盛(写真右、又吉直樹)たち(C)NHK

そのために政治を風刺した本と、節約する気もなくしてしまう豪華な本を作るという超攻撃的な手段に出た重三郎と、それに乗ってきた作家たちに対して、SNSでは「まるで戦が始まるかのような緊迫感。メディア戦争ではあるが」「この大河、文化系テーマで『挙兵』の緊張感出してませんか??」「文化系テーマで『決死の覚悟で世を変えんと戦に挑む者達』という完全に王道大河の味を出してる」「このドンキホーテな決意を愚かだって言うのは簡単だけど、やっぱり『やるべきだ』がわかるんだよ」などの、圧倒されたようなコメントが。

■ 「屁」踊り再び!蔦重一派の決起ソングに

そこで、狂歌を通じて戯れる気持ちを取り戻した大田南畝は、あの第21回で狂歌仲間たちと狂気のコール&レスポンスを交わしあった「屁」のダンスを再び披露。あのときはただただ「狂歌楽しい!」という気持ちをみんなで爆発させ合う奇祭のようだったけど、まさかここに来て「みんなでふんどし野郎(松平定信)と戦おうぜ!」という一致団結の舞になるとは、こんなにも覚悟ガンギマリな伏線回収になるとは思わなかった。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第21回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第21回より。宴席で「屁」と連呼しながら盛り上がる狂歌師や戯作者たち(C)NHK

これにはSNSも「覚悟の屁だ! 屁! 屁! 屁!」「屁が覚悟を決め背中を押すものだとは思わないじゃない」「まさかあの下らない『屁盆踊り』が、蔦重一派窮地の時の一致団結・決起ソングになるとはな」「エンタメに人生を賭ける者たちの格好よさ、人間のしょーもない面を愛する心」「屁!で盛り上がったは良いけど、蔦重の提案はとても危険な事なので、あの屁踊りメンバーの誰かがふんどしに処分されたらどうすんだよと心配してる。森下佳子脚本だから余計心配」などの、胸熱の声と心配の声が同時に上がっていた。

さらに重三郎の覚悟について行く決心をして、「屁」の輪のなかに入ろうとするけど、かつての恋川春町(岡山天音)のように、たわけるのに慣れてなくてオタオタしてしまうおていちゃんには、「おていさんまで屁ダンスしてる激アツ展開」「大縄跳びに入れないみたいなおていさんw」「手と脚が一緒にでてる。可愛い」「輪に入れないおていさんに、ようやく入れたおていさんまで見れるとは」という萌えコメントが付いていた。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第34回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第34回より。大田南畝が詠んだ狂歌に笑う狂歌師・元木網(ジェームス小野田)たち(C)NHK

数年前のコロナ禍の頃、世間で「エンタメ不要」の嵐が吹き荒れて、収入の途絶えたアーティストに対して「好きなことして生きてるんだから我慢しろ」と、多くの心無い声が上がっていたのをはっきり覚えている。「田沼時代でみんなが贅沢して世の中が荒れたから、なにもかも我慢しろ」という松平定信の主張と、それに同調する世間の空気を見て、あの頃の危機感と窮屈さを、特にエンタメのなかにいる人たちは重ねたことだろう。

蔦屋重三郎の痛快なサクセスストーリーを通じて「エンタメは世の中に必要か?」という疑問と「ああ、必要だとも!」という答えを明快に示してきた『べらぼう』。いよいよ後半戦に入って、その集大成ともいえる段階に入ってきたことを感じる。ここからしばらく、まるでお上にケンカを売るかのように、奇抜なアイディアを実現させていく重三郎。その熱く華やかな戦いが、いよいよ始まろうとしている。

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。9月14日の第35回「間違凧文武二道(まちがいだこぶんぶのふたみち)」では、朋誠堂喜三二の黄表紙『文武二道万石通』が松平定信から予想外の反応を受けるところと、喜多川歌麿の私生活に変化が訪れるところが描かれる。

文/吉永美和子

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