鶴屋の「粋」な心変わり、蔦重を認めた理由を考察【べらぼう】

16時間前

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第25回より。お祝いの品を持って、重三郎の結婚式に訪れた地本問屋の主人・鶴屋(風間俊介)(C)NHK

(写真6枚)

横浜流星主演で、数多くの浮世絵や小説を世に送り出したメディア王・蔦屋重三郎の、波乱万丈の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。6月29日の第25回「灰の雨降る日本橋」では、浅間山の噴火をきっかけに、重三郎がまたたく間に日本橋の人々に溶け込むというミラクルが。重三郎を敵視していた鶴屋が、手のひらを返したように重三郎を受け入れた理由も考察してみた。

■ 火山灰の掃除がきっかけで…第25回あらすじ

柏原屋(川畑泰史)から地本問屋・丸屋の購入を持ちかけられた重三郎は、田沼意知(宮沢氷魚)に市中の土地を買えるよう取り計らってもらった。ちょうどその折り、浅間山の噴火で江戸に火山灰の雨が降る。重三郎は大量の古着を集めて丸屋の建物を守り、さらに町中に溜まった灰を川に捨てる際、町の全員で競争することを提案。鶴屋喜右衛門(風間俊介)もそれに乗って、にぎやかに灰の処理をすることができた。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第25回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第25回より。結婚式を挙げるてい(橋本愛)と重三郎(横浜流星)(C)NHK

丸屋の女将・てい(橋本愛)は、重三郎には町を栄えさせる才覚があると言い、店を譲ることを承知。さらに店を出て出家するというていに、重三郎は一緒に店をやるよう懇願し、ていも「商いのためだけの夫婦」になることを受け入れた。そして吉原で結婚式を上げる2人の前に、鶴屋が祝いの品として「蔦屋」の暖簾を持参し、日本橋は蔦屋を快く迎え入れると頭を下げる。こうして天明3年の秋、蔦屋耕書堂は日本橋に進出したのだった。

■ ピンチを逆手に!大噴火で日本橋に入り込む

「丸屋の女将が吉原嫌い」「そもそも吉原の人間は市中の土地を買えない」という二重苦によって、日本橋の出店を阻まれていた重三郎。しかし鶴屋に請われて丸屋を購入した大坂の本屋・柏原屋が「米の値上がりが不安だから」といって、重三郎への転売が実現した。しかし柏原屋さん、実際にこの後米価格が急騰して、江戸支店の運営の負担に苦しんだはずだから、素晴らしい判断力だ。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第25回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第25回より。火山灰が降るなか、日本橋へ向かう重三郎(横浜流星)(C)NHK

この柏原屋のはからいと、時の権力者の息子・意知のサポートが同時に起こったのも奇跡的だけど、さらに大きな奇跡が文字通り「降ってきた」。それが天明3年(1783年)7月の浅間山の大噴火。そのパワーはすさまじく、火山灰は江戸まで広がり、日中でも薄暗かったという。しかしそんな、悪い意味での非日常な状態を利用して、日本橋のコミュニティに食い込むきっかけを作ることをひらめくとは、本当に発想力の塊だ。

冒頭の「この店買ったから出ていって」といういらんジョークで、丸屋から締め出しを食らったのは余計だったけど、なんだか楽しげに屋根や樋に覆いをしたり、道に積もった灰を片付けるという面倒な作業をゲーム化することで、日本橋に漂っていた暗いムードを一掃することに成功。カナヅチなのに川に飛び込むという無茶な行動も、あえて体を張って笑いを取ろうとしたのかもしれない。こんな飛び抜けたお祭り男ぶりを見て、ていは「こいつ、陶朱公並にできる!」と考えを改めたのだろう。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第25回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第25回より。てい(橋本愛)に結婚を申し込む重三郎(横浜流星)(C)NHK

そこで重三郎に店を譲る決意をしたものの、重三郎は「陶朱公の女房になりませんか?」という、粋な言葉でプロポーズ(やればできるじゃないか!)。店が手に入ったら、重三郎は自分を無用のものにすると思い込んでいたていにとって、このプロポーズは不意打ちだっただろう。しかも自分が学をひけらかしても嫌な顔一つせず、むしろその話題に乗っかる男性に会えたのも、嬉しい驚きだったように思える。関係はまだギクシャクしているけど、これはまさに割れ鍋に綴じ蓋の、良い夫婦になりそうな雰囲気だ。

■ 風間「それが粋」蔦重に暖簾をプレゼント

さらに今回は、重三郎を敵視していた鶴屋喜右衛門が盛大にデレるというイベントが起こった。一連の非常事態への対応ぶりを見て、重三郎が日本橋のコミュニティに積極的に溶け込もうとしている熱意と、本作りにとどまらない並外れた企画力に、改めて一目置いたのだろう。鶴屋喜右衛門役の風間俊介は、鶴屋は重三郎の才能は高く認めているけど、「吉原の人間」が秩序を乱すことを恐れている・・・ということを語っていた記憶がある。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第25回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第25回より。川から出てきた重三郎を見て、思わず笑ってしまう地本問屋の主人・鶴屋(風間俊介)(C)NHK

その彼の言葉に従えば、重三郎が日本橋の文化やルールを守りつつも、新しい風を吹かすことができる存在だと確信すれば、彼を受け入れることになんの抵抗もなくなるはず。そしてその予想通り、鶴屋は「蔦屋」の暖簾をプレゼントすることで、彼の日本橋進出を歓迎する姿勢を明確に示した。重三郎を見守ってきた視聴者にとっては、これはもう一緒になって万歳三唱したくなる気持ちだろう。

そうした鶴屋の態度を見て、彼を「赤子面」と呼んで出禁にしていた駿河屋市右衛門(高橋克実)も、即座に鶴屋に謝罪。あれよあれよとお互いが和解へと転じる様に、SNSでは「心変わり早くない?」という声も上がっていたけれど、風間はまた別のインタビューで「『これで行くんだ』と腹をくくった瞬間、全てがひっくり返る。それが粋」と語っていた。済んだことや外聞には囚われず、自分が「良い」と思ったことを潔くやる。これは確かに私たちが「粋だねえ」と評する行動に、だいたい共通している気がする。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第25回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第25回より。鶴屋からプレゼントされた暖簾をかけた「耕書堂」の店先に立つてい(橋本愛)と重三郎(横浜流星)(C)NHK

こうして前途多難と思われた重三郎の日本橋進出は、この上なくめでたい形で実現。しかしこの後は、最後にナレーションから不吉な言葉が聞かれた通り、米価格の高騰という伏兵によって、いきなり商売に支障をきたす状況となる(本当に柏原屋さんの判断は神)。さらに、まだ高い壁が残っているていとの関係も油断がならないところ。でも今回災いを転じて大きなデレを成した重三郎だから、なんだかんだで上手く乗り越えてくれそうな予感がする。

大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。7月6日の第26回「三人の女」では、田沼意次(渡辺謙)が米の値段を下げようと奮闘するところと、重三郎の元に産みの母・つよ(高岡早紀)が久々に姿を表すところが描かれる。

文/吉永美和子

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