直弟子でなくても…閉店した老舗バーの継承、苦楽園に再び灯り

9時間前

「BAR THE TIME」を引き継いだ森崎和哉さん(左)と、マスターの宇座忠男さん

(写真17枚)

2024年12月25日に一度消えた老舗バーの明かりが、今年4月1日に再び灯された。ふたりのバーテンダーの想いが重なった新生「BAR THE TIME」(兵庫県西宮市)を取材した。

■ まだ現場に立ちたかったという想いを聞き…

阪急・苦楽園口駅のホームからも見えるかわいらしい建物の2階にひっそりとそのバーはある。長いカウンターとずらりとお酒がならぶバックバーが迎えるオーセンティックなバーでありながら大きなテーブル席もあり、住宅街ならではのおおらかな雰囲気も持ち合わせる。

阪急・苦楽園口駅のホームからも見える「BAR THE TIME」
阪急・苦楽園口駅のホームからも見える「BAR THE TIME」
テーブル席もある「BAR THE TIME」の店内
テーブル席もある「BAR THE TIME」の店内

1991年開業のバーは、バーテンダーの宇座忠男さんと奥様の千恵子ママがカウンターに立ち、多くの人に愛されてきた。しかし千恵子ママが体調をくずされて閉店することに。

その噂を聞いたのが、オリジナルカクテル「てふてふ」で『サントリー ザ・カクテルアワード 2024』で優勝にあたる「カクテルアワード 2024」を受賞したほか、多くのコンテストの受賞経験がある「SAVOY hommage(サヴォイ オマージュ)」(神戸市中央区)のバーテンダー森崎和哉さん(48)だ。

森崎さんは25年ほど前に、「サヴォイ」創業者で師匠の故・小林省三さんに連れられて、宇座さんのバーに初めて訪れた。それからもカクテルづくりなどで迷ったときなどに、宇座さんの一杯を飲みに来ていたと言う。

「BAR THE TIME」を引き継いだ森崎和哉さん

「僕は理屈じゃない味って言っちゃうんですけど、カクテルってその人の生き様が投影されるんですよね。僕の師匠もそうなんです。これをどれだけ入れて・・・という理屈では成り立たないものを表現される域まで来ているので。まさに宇座さんはずっと憧れのバーテンダーでした」と、宇座さんへのリスペクトの気持ちを口にする。

宇座さんがまだ数年は現場に立ちたかったという想いを聞いた森崎さんは、「宇座さんが落ち着いている日にたまに入っていただくような形なら、この状態を残すことができるんじゃないかと思った」と、引き継ぐことを決意する。

マスターの宇座忠男さん

いっぽうで現在82歳とは思えないような美しい立ち姿勢の宇座さんも、「ママがね、もうちょっと元気ならあと2年くらいはしたいと思っていたんですよ。まさか日本を代表するようなバーテンダーの森崎くんからね、そう言った話があるとは思っていなくて。僕としてはむちゃくちゃ嬉しかった」と目を細める。

しかし直弟子ではない人が継承するのは、知らない間柄ではないとはいえあまりないケース。森崎さんの兄弟子や宇座さんの弟子で大阪にある「THE TIME 天神」の店主・山本さんにも許しを得た。

■「変わらないものが、むしろ新しい」

独立して20年になる森崎さんは、宇座さんの常連客を前に久しぶりに初心に返っているそうだ。

「昔から宇座さんのマティーニを飲んでいたという方に頼まれることもありますが、宇座さんと同じマティーニはまだ作れないから、今は僕が積み上げたもので勝負するしかないので作らせてもらいます。これからは、宇座さんにこうやって週に1回くらい入っていただける機会に恵まれたので、宇座さんのエッセンスも勉強して、若い人にも伝えたいし、僕自身ももうひとつ成長したい。難しいけどおもしろいですよ」と胸の内を明かした。

出会った日を振りかえる、森崎和哉さん(左)とマスターの宇座忠男さん
お互いについて語る、森崎和哉さん(左)とマスターの宇座忠男さん

宇座さんも「彼の優勝作品の『てふてふ』をこの前初めて飲んだんですけど、さすがでね。新しいカクテルをつくる森崎さんがいるんで、僕も嬉しいし、お客さんも喜ぶと思うんですよ」と、これからの展開が楽しみな様子だ。

「時代ってクラシックとかスタンダードとかが巡っていく。新しいようで、昔のノウハウをちょっとひねったようなものが多いので。変わらないものは、僕にとってむしろ新しい気がします」と森崎さんが応じ、お互いに大きな刺激になっているよう。

■ バー名物の「宮モヒート」も継承

「宮モヒート」をつくる宇座忠男さん

宇座さんが西宮のアピールのために10年ほど前につくった人気のカクテル「宮モヒート」をつくってもらった。たっぷりのミントをグラスの中でつぶしてライムをしぼると、爽やかな香りが店内に広がった。そこに日本酒「宮水の郷」と「能勢ジンジャーエール」を注ぐ。カクテルをつくる宇座さんの横には、プロの眼差しでそっと見守る森崎さんの姿があった。

「BAR THE TIME」を引き継いだ森崎和哉さん(左)と、マスターの宇座忠男さん。宮モヒートも継承されている
「BAR THE TIME」を引き継いだ森崎和哉さん(左)と、マスターの宇座忠男さん。宮モヒートも継承されている
「BAR THE TIME」の名物のひとつ、「宮モヒート」
「BAR THE TIME」の名物のひとつ、「宮モヒート」

バー文化を牽引するふたりのバーテンダーが交わる「新しくて変わらない」バーが、夙川沿いで続いていく。

「BAR THE TIME」の営業は、火・木・土曜日。土曜日は宇座さんがカウンターに立つ日もあり。営業時間は夕方5時から夜11時(最終入店10時)。営業日時はインスタグラムで確認を(※「SAVOY hommage」の営業は月・水・金曜)。

取材・文/太田浩子 写真/Lmaga.jp編集部

「BAR THE TIME」

住所:兵庫県西宮市石刎町2-2 マスターズクラフト2階
営業日:火・木・土
時間:17:00〜23:00(LO最終入店22:00)

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