元花組トップ・柚香光の新境地に息をのむ…「劇団☆新感線」最新作が大阪で開幕

21時間前

『紅鬼(あかおに)物語』より(撮影:大久保啓二)

(写真7枚)

元宝塚歌劇団花組トップスター・柚香光の、演劇としては退団後初の舞台となる、劇団☆新感線 いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective『紅鬼(あかおに)物語』が、5月13日に「SkyシアターMBS」(大阪市北区)で開幕。宝塚で見せてきた凛々しい男役から一転、人間的な弱さと愛情を持つ異色の「鬼」を演じる姿に、観客の目は釘付けとなった。

■ 「新感線では珍しい」センチメンタルな余韻に浸れる

関西小劇場界出身の人気劇団「劇団☆新感線」が、通常の活劇路線とは一味違う、日本の説話を元にしたダークファンタジーに挑む本作。幕が開くと、武士たちが切り落とされた鬼の腕を囲んでいるという、のっけから平安時代の茨木童子伝説を思わせるシーンが。物語はそのまま、源蒼(鈴木拡樹)が都を騒がせる鬼を追う姿と同時に、10年前に行方不明となった彼の妻・紅子(柚香)と娘・藤(樋口日奈)の動向も描いていく。

『紅鬼(あかおに)物語』より(撮影:大久保啓二)
『紅鬼(あかおに)物語』より(撮影:大久保啓二)

蒼の元から消えたあと、娘と父母とともに各地を渡り歩き、小さな村に住まうことになった紅子。しかし彼女の正体は鬼の一族の長(おさ)で、蒼のことを案じて都に仲間を送り込んでいたのだった。一方蒼は、鬼に連れ去られた家来・桃千代(一ノ瀬颯)を探して、紅子のいる村に近づいていくが、紅子は逃れられない鬼の宿命について葛藤するようになっていた…。

『紅鬼(あかおに)物語』より(撮影:大久保啓二)
『紅鬼(あかおに)物語』より(撮影:大久保啓二)

柚香が「か弱い鬼」と評していたように、紅子は従来の鬼のイメージを塗り替えるような存在だ。手下の鬼たちとの関係や娘のことなど、なにかにつけて悩み抜くかと思えば、蒼のことを語るときには、まさに恋する乙女のようなときめきを顔に浮かべる。宝塚の男役ではめったに見られない面を見せつつも、鍛え抜かれた歌やダンス、男たちを向こうに回した立ち回りで圧倒させるシーンもしっかり用意されている。

『紅鬼(あかおに)物語』より(撮影:大久保啓二)
『紅鬼(あかおに)物語』より(撮影:大久保啓二)

相手役の鈴木も、妻である紅子を愛する夫、娘の藤を慈しむ父としての包容力を終始ただよわせ、物語の片翼を見事に支える。と同時に、生真面目過ぎるがゆえにところどころで周囲にツッコまれるなど、張り詰めた空気をフッとなごませる存在にもなっていた。新感線で暴れん坊の役をさせたら右に出るものがいない早乙女友貴のふてぶてしい鬼や、エアギターを刀に持ち替えた「ゴールデンボンバー」の喜矢武豊のやんちゃな武将など、まさに 適材適所の俳優たちも、いろんな方向から舞台を盛り上げていく。

『紅鬼(あかおに)物語』より(撮影:大久保啓二)
『紅鬼(あかおに)物語』より(撮影:大久保啓二)

物語は、人間たちが鬼よりも残酷な姿を見せ、それと比例するように鬼たちも残虐性を増していくなか、紅子が思いがけない行動に出ることに。そして蒼の方も、思わず「マジで?!」と声に出しそうになる運命が待ち受けていた…そこでなにが起こったのかは、もちろん最大のネタバレなのでくわしくは言えないけど、私の個人的な感覚としては「新感線の作品のなかで、一番悲しい物語じゃないか」と思えるようなラストだった。

『紅鬼(あかおに)物語』より(撮影:大久保啓二)
『紅鬼(あかおに)物語』より(撮影:大久保啓二)

劇団主宰で演出のいのうえひでのりが「新感線では珍しい芝居」とコメントしていたように、スカッと爽やかというよりも、悲しさのなかに一縷(いちる)の希望を見出すという、センチメンタルな余韻に浸れる舞台だ。そして柚香光にとっては、自分の得意な部分を新感線のファンにアピールすると同時に、宝塚時代を知る人たちには「こんなこともできるんだ!」と驚くような一面の数々を見せることができた、最高の女優スタートの作品となったのは間違いない。

『紅鬼(あかおに)物語』より(撮影:大久保啓二)
『紅鬼(あかおに)物語』より(撮影:大久保啓二)

脚本は青木豪が担当。大阪公演は6月1日までで、チケットは一般1万5800円、ヤングチケット(22歳以下)2200円。前売券は完売しているが、当日券は全公演で発売が予定されているので、公式サイトでご確認を。6~7月には東京でも公演あり。7月8日には、東京公演のライブビューイングも開催される。

取材・文/吉永美和子

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