「亡き父と戦ってきた仲間のステージ見届けて」24歳カミコベへの思い

24時間前

カミコベ実行委員長の上田佑吏さん。事務所にタオルの山が!カミコベ開催準備が着々と…(撮影5月12日:神戸市内)

(写真8枚)

「阪神淡路大震災を風化させない!神戸から恩返し」をテーマに、毎年開催されている入場無料の⽇本最⼤級のチャリティーイベント『COMING KOBE』。今年は全国から98組のアーティストが神戸に集まり、5月18日に開催される。

震災から30年の節目として、1971年から続く『神戸まつり』とコラボレーションした特別企画も登場し、過去最大エリアの全13ステージに。さらにチケットがなくても楽しめるマルシェなども開催される。

2005年に『COMING KOBE』の前身『GOING KOBE』を立ち上げ、イベントを通じ被災地支援を呼びかけ続けた父・松原裕氏(2019年に39歳で死去)から同イベントを受け継いだ、長男の上田佑吏氏。現在、実行委員長を務める彼に、今年の注目ポイント、開催目前の今、思うことなどを聞いた。

◆ 震災から30年「神戸まつり」コラボも…「神戸の街を練り歩いて楽しんで」

──タイムテーブル、エリアマップも発表になりました。今年、西は「神戸ハーバーランド」から「東遊園地」まで、一気に広がりましたね。

そうですね。今年は震災から30年。神戸市から『神戸まつり』と何か一緒にやりませんか、とお話いただき、コラボステージを提案しました。

カミコベは、音楽フェスだと思われているかもしれませんが、ライブだけではないんです。花時計広場には、能登からブースがたくさんきます。能登のフードや物販のマルシェなどは、チケットがなくても入場できるフリーエリアなので、ふらっと気軽に食べたり飲んだりしにきてもらえればと。

こうした直接被災地を応援したり、防災を考える体験ができる「減災ヴィレッジ」という、エリアを毎年作っていて、とても大切にしているんです。メリケンパーク会場にも「減災ヴィレッジ」がありますし、出演アーティストとともに、減災をテーマにしたトークステージも毎年恒例になっています。

──イベントを楽しみながら、被災地支援ができるのはいいですね。今回は端から端まで歩くと30分以上でしょうか?「フジロック」くらい歩くことになりそうです。

今回は過去最大規模での開催になります。エリア発表時に「遠すぎるわ!」というツッコミも結構ありましたけど、実際に歩くと神戸の街の魅力をより楽しめると思います。ぜひ当日みなさんには、神戸の街を練り歩いて、楽しんでもらいたいです。

正直、それだけ準備も大変なんですが、昨年の来場者1万6千人のデータをみると、兵庫県外の方も多いので、神戸でいろいろ楽しんでもらって、経済効果にもつながればな、とも考えています。

◆ 父・松原裕氏から受け継いだ想い…過去20回の開催で変わったこと、変わらないこと

ライブハウス「太陽と虎」はじめ、三宮を舞台にした松原裕七回忌のサーキットイベント『松原祭ファイナル』((撮影3月30日:神戸市内))
ライブハウス「太陽と虎」はじめ、三宮を舞台にした松原裕七回忌のサーキットイベント『松原祭ファイナル』(撮影3月30日:神戸市内)

──今年は震災から30年。そして3月に、お父様の七回忌のサーキットイベント『松原祭ファイナル』も開催されました。そして佑吏さん自身はご結婚もされて。いろいろ節目の年になりますが、開催にあたっての心構えに変化などはありましたか?

父から引き継いだものの、若いゆえに経験もなく、まわりの大人たちにいろいろなことを教わりながら、がむしゃらにこのイベントをやってきました。父が立ち上げたときから、基本のコンセプトは変わっていません。でも今、僕としての核となるテーマは自分の同世代である、若い世代に震災のこと伝える、ということです。

10代、20代の若い人たちは、阪神淡路大震災を知らない。自分も、今24歳なので、震災を経験していません。でも、父から当時の話などよく聞いていました。だから「震災の教訓を風化させない」という父の思いは、僕が若い世代にしっかり伝えていきたい。

このようなイベントをきっかけに震災のことを知り、当時の支援の輪や、備えるということを考えてほしい、と広報にも気合が入ります。そのためには、まずはイベントへの参加ハードルを下げるというのが重要。みなさんの募金の協力が不可欠ではあるものの、まず「入場無料」という形態は、絶対やり続けたいんです。

──確かにハードルはぐっと下がりますね。今年の出演アーティストのブッキングも、例えば倭ジェロのような復活組から超若手まで、めちゃくちゃ幅広いですよね。各世代へのアピールも意識して?

今までカミコベをずっと応援してくれている人はもちろん、若い人たちに興味をもってもらえるよう、意識してブッキングも行っています。毎年出演してくれているアーティストもいれば、新しいアーティストもいて、全組イベントの趣旨に賛同して、無償で出演してくれています。本当にありがたいことですよね。

昨年開催時の様子
『COMING KOBE』昨年開催時の様子

◆ 絶賛準備中のタオルの山を前に…ボランティアスタッフたちと準備進める日々

──今絶賛準備中だと思いますが、実際どれくらいのスタッフが携わっていらっしゃるんですか?

大学生などのボランティアは約500名。それ以外も含めると、合計1000人くらい。そのうちコアメンバーは6人です。ボランティアスタッフも、すごく頑張ってくれていて、昨日もこのタオルの準備を、ここで一緒にしてました。それ以外にも、多岐に渡る事前の作業、そして当日の運営もたくさんの人が関わってくれています。

──まさに手作りのイベントという感じですね。

そうなんです。当日の会場ボランティア参加者にも、イベントの意義をきちんと知ってもらいたいので、事前に必ずオリエンテーションを行っています。そんな中で、若い人たちの中にも、防災への意識が高い人は結構いるな、と思いますね。

──そういう場を設けているんですね。毎年会場に行くと、募金を大きな声で一生懸命呼びかけるボランティアスタッフの姿が印象的です。

あれも「大きな声で!」とか「こうやってほしい!」とは、僕たちからは一切言ってないんです。若い人たちは、一生懸命は恥ずかしい、ってなりそうですが、そんなことなくて。誰に言われるでもなく、イベントに関わる中で、自発的に募金の呼びかけを頑張ってくれている。そんな姿をみると、本当に感動しますよ。僕らは、カミコベは、若い世代のフェスの入り口、そしてボランティアの入り口にもなればいいなと思っていていますから。

(撮影5月12日:「太陽と虎」)
『COMING KOBE』開催目前、インタビューに応えてくれた上田佑吏氏(撮影5月12日:「太陽と虎」)

◆ クラファン挑戦で持つことができた、「やり続けていかないといけない」という確信

──今年は開催にあたって、クラウドファンディングにも挑戦されていましたね。

そうですね、10年目にも一度クラファンを実施して、今回2度目となりました。これだけの規模のイベントを、無料でイベントをやり続けるというのはかなり厳しく・・・。かといって無料のフェスと言いながら、クラファンをやること自体、正直自分自身が腑に落ちてない部分もありました。でも、結論としてやってよかったです。

父から引き継いでからこれまで、ちゃんと満足に運営できているのか、という思いもありましたが、クラファンにはたくさんの支援をいただきました。金額もですが、何よりこのイベントに思いを寄せてくれる人の多さに改めて気づき、今年のイベントに挑む意欲がより湧いてきました。

「このフェスが人生で初めて参加したフェスで、1年に1回本当に楽しみにしているから絶対続けてほしい。存続の危機なら支援したい」というようなメッセージをもらったり、中には、身近な人が支援してくれていたり。今後もやり続けていかないといけない、という確信が持てましたね。

◆ 今年もトリはガガガSP「最後のステージに全員集合して見届けて」

──今年も、メインステージの大トリは、神戸のバンド、ガガガSPですね。

ベースの旦那(桑原康伸氏)が2025年3月に亡くなって、先日お別れ会も開催しました。今、バンドにとって、最大のピンチだと思います。でも、イベントのトリを毎年飾ってくれて、父ともずっと一緒に戦ってきた仲間が、旦那の分も・・・って前を向いて逆境と戦っている。そんな姿を近くでみせてもらっていて、僕もすごく励みになっています。これまでの活動で鍛え抜かれた精神力は、本当にすごいですね。

ガガガSPは、きっとこの逆境をチャンスに変えてくれるバンドだと思います。今回カミコベに来るお客さん全員、18時25分からの「カミコベチャリティーフェスステージ」に集まってもらって、みんなでステージを見届けましょう!

──佑吏さん、お話ありがとうございました。

「当日晴れることを祈りましょう!」(撮影5月12日:「太陽と虎」)
「当日晴れることを祈りましょう!」と上田佑吏氏(撮影5月12日:「太陽と虎」)

開催直前のインタビューの最後に、松原裕氏の座右の銘「結果を決めて努力で帳尻!」に沿って、「準備無理してないですか?今寝れてますか?」と聞くと、「もう寝ないで頑張る、みたいな時代じゃないですよ。毎日8時間睡眠はしっかりキープしてますから大丈夫です。あとは今年も予報が怪しいですが、とにかく晴れてほしい!」と若者らしく笑っていた。

取材・文・写真/Lmaga.jp編集部

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