万博で朝から晩まで音楽三昧…ポルトガルの心、演歌のようなファド

2025.5.11 07:30

本国ポルトガルはもちろん、世界で人気を誇る女性歌手アナ・モウラのパフォーマンス(5月5日撮影:大阪・関西万博)

(写真15枚)

開催中の「大阪・関西万博」では、常に会場内のどこかで音楽が奏でられ、ショーが繰り広げられている。海外パビリオンの中や、その他のステージやホールはもちろん、ときには通路で、突然はじまるパフォーマンスに遭遇することも。日本ではなかなか触れる機会のない、各国の音楽に出合えるチャンスだ。

ポルトガルのナショナルデー「Crassh Recycledクラッシュ・リサイクルド」のパフォーマーと記念撮影
ポルトガルのナショナルデー「Crassh Recycled クラッシュ・リサイクルド」のパフォーマーが来場者たちと記念撮影(5月5日撮影:大阪・関西万博)

5月5日に開催された「ポルトガル・ナショナルデー」。この日は、ポルトガルからダリラ・ロドリゲス文化大臣をはじめとするポルトガル代表団とともに、現地で高い人気を誇る複数のアーティストたちも来日。万博会場の各所でパフォーマンスを披露した。

(5月5日撮影:大阪・関西万博)
ポルトガルのヒットチャートを席巻する人気者、初来日となったシンガーソングライター ディノ・デ・サンティアゴがパフォーマンス。ポルトガルのテレビ番組のオーディション出身(5月5日撮影:大阪・関西万博)

◆ ポルトガル人が愛する「3つのF」とは?

なかでも、「ファド」と呼ばれる音楽は、主にギターの伴奏で歌われるポルトガルの国民的歌謡。ポルトガル人が愛する「3つのF」として、「Futebol(サッカー)」、「Fatima(キリスト教の聖地・ファティマ)」とともに、「Fado(ファド)」が挙げられるほど。 ポルトガル人にとって大切な存在で、日本人にとっての「演歌」のような存在だそう。現在、ユネスコの「無形文化遺産」に指定されている。

カマネのパフォーマンス(5月5日撮影:大阪・関西万博)
カマネのパフォーマンス(5月5日撮影:大阪・関西万博)

今回のナショナルデーを記念した「ファド」のステージは『No Tempo das Carejas (サクランボの季節に)』というタイトルで、「ナショナルデーホール」で開催された。1970年開催の「大阪万博」で、初めて日本にファド音楽を紹介したポルトガルの大人気歌手で「ファドの女王」と言われるアマリア・ロドリゲスに捧げるトリビュートコンサートという形だ。

アマリア・ロドリゲスを背景に歌うのはリカルド・リベイロ(5月5日撮影:大阪・関西万博)

この日のために来日したスター歌手、アナ・モウラ、カマネ、リカルド・リベイロ、そしてトップ・ファド・トリオのジョゼ・マヌエル・ネト(ポルトガルギター)、ペドロ・ソアレス(ファドギター)、ダニエル・ピント(ベースギター)が、アマリア・ロドリゲスの人気ナンバーの数々を、時に切なく、時に力強く、じっくり聴かせた。

カマネ、アナ・モウラ、リカルド・リベイロ(5月5日撮影:大阪・関西万博)

1時間半を超えのステージのラストは、歌手3人が揃って『Fadinho Serrano』を披露。これには来場者も総立ちで、手拍子も入り、ポルトガル人も日本人もみんな演奏にあわせ体を揺らして楽しんだ。

(5月5日撮影:大阪・関西万博)
左からカマネ、アナ・モウラ、リカルド・リベイロ(5月5日撮影:大阪・関西万博)
ステージが終わるとスタンディングオベーション(5月5日撮影:大阪・関西万博)
ステージが終わるとスタンディングオベーション(5月5日撮影:大阪・関西万博)

大阪・関西万博・ポルトガル政府代表(コミッショナー・ジェネラル)のジョアナ・ゴメス・カルドーソ氏に、今回演奏された「ファド」について詳しく聞いた。

ジョアナ・ゴメス・カルドーソ氏(5月5日撮影:大阪・関西万博)
ジョアナ・ゴメス・カルドーソ氏(5月5日撮影:大阪・関西万博)

「海に囲まれたポルトガルでは、昔から漁業が盛んでした。どうして、ファドのメロディーがメランコリックな響きなのかというと、海に漁に出る男性の無事を祈る女性の気持ちを歌った曲が多いんです。『ファド』の語源は、『宿命』『運命』を意味する『FATE』と言われています。ポルトガル人は、皆この伝統音楽を愛しています」

なるほど、「港で想う人の無事を祈る歌」とは、日本の演歌に通じる部分が大いにある。ステージで歌われた楽曲の数々は、歌詞の意味はわからなくても、せつない歌声や、ギターの音色から、強い情念のようなものを感じられた。

アナ・モウラのパフォーマンス(5月5日撮影:大阪・関西万博)
アナ・モウラのパフォーマンス(5月5日撮影:大阪・関西万博)

そして、今回「ファド」の中でも、アマリア・ロドリゲスの楽曲を披露することになった経緯についてもたずねてみた。

「彼女は伝説のディーバで世界でも活躍しました。ポルトガル人にとって、今で言うと、クリスティーナ・ロナウドみたいなカリスマ的存在です。彼女は1970年の万博で初来日し、コンサートを行って以来、日本を好きになりました。1999年に亡くなるまで、何度も来日し、ジャパンツアーをおこなっています。今年は彼女によって日本に初めてファドが紹介されてから、55年のタイミング。そのお祝いと、日本とポルトガルの友好の象徴として、今回の万博でもぜひファドをと思い企画しました」

55年前の「大阪万博」でのアマリア・ロドリゲスの第一歩からスタートした日本におけるファドだが、その後、歌手のちあきなおみや、加藤登紀子らがファドを積極的に歌っている。また、『がんばれ!!タブチくん!!』で知られる漫画家いしいひさいちが、ファド歌手を目指す女子高生を主役にした漫画『ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ』を自費出版するほど、ファドにハマっているというという。面白い広がり方だ。

夜のポルトガルパビリオンを大屋根リングから望む(5月5日撮影:大阪・関西万博)
夜のポルトガルパビリオンと、 クラッシュ・リサイクルドのパフォーマンスを大屋根リングから望む(5月5日撮影:大阪・関西万博)

◆ 今後万博でファドが披露される日は?アーティストの来日予定は?

そんなポルトガルの心、そしてポルトガルと日本のかけはしとなったファド。リスボンの街のように、気軽に生演奏を楽しめる場所は日本になかなかないが、万博では今後も聴けるチャンスがある。今回に続き、ポルトガルから世界的にも人気のファドアーティストの招聘が決定しており、5月11日には、ポルトガルの人気ファド歌手・António Zambujo(アントニオ ザンブージョ)が「ポルトガルパビリオン」で、6月10日には、 Carminho(カルミーニョ)が「ナショナルデーホール」で、パフォーマンスを予定している。


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