【光る君へ】毎熊演じる直秀が退場、賄賂を反故した理由は?

2024.3.9 13:45

『光る君へ』第9回より、道長が検非違使の役人に渡した心付け (C)NHK

(写真10枚)

平安時代の長編小説『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を、吉高由里子主演で描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。3月3日放送の第9回「遠くの国」では、 まひろと道長の恋をサポートしていた直秀が、急転直下の退場。一度は道長が救ったように見えたのに、どうして? という嘆きの声があふれた(以下、ネタバレあり)。

■ 第9回「遠くの国」あらすじ

実は盗賊だった直秀(毎熊克哉)たち散楽一座は、常連だった藤原道長(柄本佑)の屋敷で捕らえられ、検非違使に引き渡された。彼らの住処を訪れていたまひろも捕まるが、役人に心付けを渡していた道長に助けられる。道長は、直秀たちは手荒な扱いは受けず、流罪で済むはずだとまひろを安心させ、自分が信じられるのはまひろと直秀だけとも語る。

『光る君へ』第9回より、「鳥辺野」へと連行される直秀(毎熊克哉)たち散楽一座 (C)NHK
『光る君へ』第9回より、「鳥辺野」へと連行される直秀(毎熊克哉)たち散楽一座 (C)NHK

しかし都を発つ当日、彼らが死体置き場の「鳥辺野」に行ったと聞かされた道長とまひろ。鳥辺野に駆けつけると、直秀たちの変わり果てた姿を見つける。道長は、自分がなにもしなければ彼らが死ぬことはなかったことを自覚し、涙ながらに詫びを入れる。ともに彼らを埋葬したまひろは、これをきっかけに「世を正したい」という気持ちが芽生えた・・・。

■ 行き先が告げられただけで察しがつく行く末

決して結ばれない運命にあるまひろと道長だけど、この秘めた関係を理解して、陰ながら協力してくれる人はいないのか? そんな視聴者の願いにピッタリだったのが、散楽師という自由な立場にある直秀だった。ヒロインにはちょっと気のある素振りを見せ、男性とはライバル心と友情をひそかに育むというパーフェクトな「恋の二番手」として、ドラマを支え続けてくれると思ったのに、わずか9回で退場するなんて誰が想像しただろう。

散楽一座の行き先が「鳥辺野」と一言告げられただけで、道長とまひろだけでなく、少し歴史に詳しい人、あるいは京都在住者なら血の気が引いたはずだ。鳥辺野は平安時代のメジャーな葬送地で、現在も広大な墓地となっている。そこに送られたと言うだけでどうなるかは察しがつくし、直秀たちの死に顔が比較的穏やかだったのも、鳥辺野に連れてこられた時点で、どこかで覚悟を固めていたのかもしれない。

『光る君へ』第9回より、直秀(毎熊克哉)の遺体に自分の扇を握らせる道長(柄本佑) (C)NHK
『光る君へ』第9回より、直秀(毎熊克哉)の遺体に自分の扇を握らせる道長(柄本佑) (C)NHK

しかし自分の力で直秀を救ったと思った道長にとっては、突然地獄に突き落とされたようなもの。「死体は穢(けが)れ」と言われるこの時代に、ためらいもなく直秀の遺体に自分の扇を握らせ、一座の全員を埋葬したという時点で、とてつもない自責の深さがうかがえる。一方まひろが、その穢れをためらいなく共有できたのは、彼女にとって道長も直秀も、そんな迷信以上に信じられる2人だったからこそだろう。皮肉なことだが、直秀の死によって2人の絆はより強く、より背徳感が増す結果となった。

■ 賄賂を渡されたのに願いを反故にした理由は

さてSNSでは、なぜ検非違使は道長から賄賂まで渡されたのに、その願いを反故にしたのか? について、さまざまな意見が上がっていた。実は検非違使側からその理由は明かされておらず、想像の余地が結構あるのだ。ひとつ考えられるのは、道長の「早めに解き放て」「手荒なことをするな」という心から素直なお願いを、「痛めつけるとか面倒なことをせずに、そうそうに殺してしまえ」と忖度してしまった、という説。

『光る君へ』第9回より、道長から「手荒なことをするな、早めに解き放て」と頼まれる検非違使の役人 (C)NHK
『光る君へ』第9回より、道長から「手荒なことをするな、早めに解き放て」と頼まれる検非違使の役人 (C)NHK

思ったことをストレートに口にせず、ちょっと婉曲するのが京言葉の特徴とは(半分ネタで)言われるけど、この時代からそう思われていたのか・・・。もっと直球で「命は取らず、流罪にしろ」と言っておくのが正解だったのかもしれない。またSNSでは、まひろを必死でかばう道長を見て、「この盗賊仲間の女は道長の愛人 → 愛人の身分を隠すため、口封じで仲間を殺してほしい」と解釈したという説も上がってて、それも一理ありだ。

さらに、検非違使は願い通り流罪と決めたけど、担当者が遠くに行くのが面倒で手っ取り早く始末したという考察もあり、実は公式ガイドではこの説を取っている。確かに第1話でも語られた通り、下級役人の仕事意識が非常に低かったこの時代ならあり得るし、相手が動物以下の扱いを受ける庶民の、しかも罪人ならばなおさら手間を惜しむはず。むしろ時間もかからないし、いろんなウサも晴らせそうなムチ打ちの方が、彼らは素直に執行したはず。これは道長、人生初の政治判断ミスと言えるだろう。

『光る君へ』第9回より、直秀の死と自らの不甲斐なさに涙する道長(柄本佑)とまひろ(吉高由里子) (C)NHK
『光る君へ』第9回より、直秀の死と自らの不甲斐なさに涙する道長(柄本佑)とまひろ(吉高由里子) (C)NHK

2人にとっては(いや視聴者も)非常に辛い結果となったが、これによってまひろが「世を正す」という使命にほのかに覚醒したし、自分が大勢の人の命を左右する立場にあることを痛感した道長も、今まで無関心だった政に目を向けるようになるだろう。直秀の死は、まひろと道長にとって、避けては通れない重大なイニシエーションだったのだ・・・とは思っても、来週からその姿を見られない喪失感は、予想より大きい。なんの脈絡もなく双子の兄が登場したって、視聴者は誰も怒らないんじゃないだろうか。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。3月10日放送の第10回『月夜の陰謀』では、道長の父・藤原兼家(段田安則)が花山天皇(本郷奏多)の退位へと本格的に動く一方、道長とまひろが再び恋文を交わす姿が描かれる。

文/吉永美和子

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