映画初主演のMOROHA・アフロ「一人前になれた気がする」

映画『さよなら ほやマン』で映画初主演を果たしたMOROHA・アフロ(写真/バンリ)
■ 生まれ変わるためにもがくアキラに共感
──アキラは、弟のシゲルと島で平穏に暮らしていた。でも漫画家の美晴が突然押しかけてきて共同生活をすることに。それをきっかけに今まで目を背けていたことと向き合い、日常に変化が生まれます。
「平穏だった」というのが重要です。映画の序盤、ほやの生態の説明が最初にあります。最初はおたまじゃくしのような感じで動き回り、「ここだ」という岩場を見つけたら、脳みそがなくなってそこに定住する。
アキラとシゲルも借金はあるけどずっと住み続ける場所がある。ただ、美晴がやって来たことでいろいろ明るみになり、兄弟の関係も変わっていく。それってほやで言うところの、定住したけどもう一度おたまじゃくしの状態に戻ったんです。つまりアキラ、シゲルはまた生まれ変わろうとしていく。大変な状況に陥るけど、間違いなく前に進んでいるんです。

──先行きが見えないから、多くの人は安定を求めますよね。新しいことに挑戦するのって、リスクが大きいですし。
どっちでも良いとは思うんです。大切なのは「これは自分で決めたんだ」という記憶をどれだけ強く残せるか。最近、学生の前で話す機会もあるんですけど、みんないろんな迷いを抱えていて「どうしたら良いですか」と尋ねてくるんです。でも正直なところ「知らん!」なんです。
もちろんアドバイスはするけど、なんにしても「自分で決めた」という記憶を強く残さないと、この先、なにを選ぶにしても誰かに決めてもらう人生になる。そうすると失敗したときも誰かのせいにしてしまう。それはアキラもそうじゃないですか。自分が前に進めないのを、自分が暮らす島、環境、美晴などのせいにしちゃっている。

──アフロさんはまさしく自分で責任をとっていくタイプのように見えます。
だけどメジャーデビューのとき、俺らが目指した結果に届かなかったから、周りのせいにしようとした瞬間はありました。自分らが作ったモノの責任にするのも、あまりにもキツかったから。
だからこそ自分でフライヤーを配ったり、いろいろやっていったりすることで、救われた部分がありました。そういうことをやると、「自分が見ていないところで、関係者のみなさんも同じようなことを頑張ってくれているんだ」と実感が湧く。そうすると、他人のせいなんかにはできない。
──そうやって人は一人前になっていくんですよね。まさにこの映画も、アキラたちが人として、職業としてどのように一人前になるかを描いていますが。
自分も今、ようやく一人前になれた気がするんです。と言うのも、ついに実家のローンも託されたんです(笑)。親父から「まだ何年かは働けるけど、何年後かに頼む」と言われて、それがめっちゃうれしくて!

──ハハハ(笑)。
あと一人前の条件って「自分がなぜ今、ここにいるのか」が全部説明できることだと考えています。たとえばこうやってインタビューをしてもらえているのも、理由がある。それはもとを辿ればMOROHAの活動があるから。だからこの映画にも出られた。
じゃあそのMOROHAの活動ってどういう風に成り立っているのかと言うと、コンサートがあって、チケットが売れて、当日はスタッフさんや警備の方が働いてくれて。そこに幾らお金が使われて・・・とか、ちゃんと説明できるんです。それを話せるかどうかが一人前の条件ですね。
──経緯をしっかりと理解できているかどうかですね。
たとえば『さよなら ほやマン』で言えば、アキラの父親で初代ほやマンを演じた澤口佳伸さんは、実際に島の漁師さんなんです。その方はもともと岩手のド不良だったらしくて。
そしていろんな仕事をして、店の経営者になって何億と稼いだけど、3.11を目の当たりにしたことで自分の生き方を考え直したそうなんです。「男一生の仕事をしなければいけない」と思い立ち、網地島で漁師になることを決意してそれまで稼いだお金で船を買ったと伺いました。
──まさに一世一代の出来事ですね。
ただ船があっても漁業権がないと漁には出られない。そのために島の漁師のみなさんに許可をもらわなきゃダメだけど、よそ者だからそう簡単にはいかない。だから澤口さんは、島で宅配便の仕事に就いて島の人たちに顔を覚えてもらおうとした。
それでもうまくいかないので、ある日から、宅配先の玄関の靴を全部綺麗に並べるようにして。そうしたら「そういえば最近、うちの靴が揃っている」「あの宅配便の人が来たときに揃ってる」と噂になって、自分の存在を認めてもらえるようになったそうなんです。
──まさに過程がいかに大事かと言うことですね。
余談なんですけど映画の後半、俺が船を運転しながら叫ぶシーンがありますよね。あれは撮影では危険性も考えて、別の船に引っ張ってもらっているんです。そこで俺が乗っている船を引いてくれていたのが、澤口さんだったんです。
画面には映ってないけど、撮影現場では親父役の澤口さんがニコッと笑いながら俺の船を引っ張ってくれて。しかもその澤口さんに陽が指しているから、本当に後光に照らされているみたいで。それに向かって叫んでいたんです。

■「最近、うちの親父がおもしろくてしょうがない」
──そんな裏話が! あとこの映画では、松金洋子さんが演じる女性の「ばばあだって悩みながら生きてるんだ」という一言が重いですよね。この台詞が、『さよなら ほやマン』の「どこで、どのように生きるのか」というテーマをあらわしています。
何歳になっても「どう生きるか」は考えるもの。うちの親父にこの前会ったとき、「俺さ、プロの雀士になりたいんだ」って話すんですよ。「お前には言ってなかったけど、昔は『医者殺しのクニ』と呼ばれていたんだ」って(笑)。だから今は毎日、麻雀の番組を観ているんです。「まだ夢をちゃんと持っているんだ」と、なんかうれしくなっちゃって。

──私たちもそういう姿は見習いたいですね。
なんか最近、そんな親父がおもしろくてしょうがない。最近のおすすめコンテンツは「親父」。MOROHAに『ネクター』という曲があって、それは家族が大変だったときのことを歌っているんです。その曲を演奏するライブに親父が来ているのを知って、「親父の姿を見つけちゃうと歌うのが精神的にきついな」とか考えてたら、そういうときに限って見つけちゃうんですよね。
でも、暗い会場でなんですぐに見つけられたかっていうと、客席に照明が当たると光が反射するドクロのニットキャップをかぶっていたからなんです。
──シルバーでギラギラしたイカついドクロのニットキャップ、ありますね!
ドクロのニットが暗闇から浮かび上がってきて! 「そこにいるじゃん」って。親父は本当におもしろい。親父が東京に来るときは嬉々として飯を食いに行くし。待ち合わせをしているときもずっと上を見ながら待っていて、俺のことを見つけたら空を指さして「飛行機!」って。『さよなら ほやマン』は親子の話でもあるので、親父に感想を聞いてみたいです。
◇
映画『さよなら ほやマン』は、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマなど、全国の劇場で公開されている。
映画『さよなら ほやマン』
2023年11月3日(祝・金)公開
監督・脚本:庄司輝秋
出演:アフロ(MOROHA) 呉城久美 黒崎煌代
津田寛治/園山敬介 澤口佳伸/松金よね子
配給:ロングライド/シグロ
(C)2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE
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