【どうする家康】号泣もの、石川数正のやさしい裏切りの意味
古沢良太脚本・松本潤主演で、江戸幕府初代将軍・徳川家康の、厳しい選択だらけの人生を描きだす大河ドラマ『どうする家康』(NHK)。8月27日の第33回『裏切り者』では、家康を出し抜いて着々と天下人の地位を盤石にする秀吉の姿と、その威光を唯一知る重臣・石川数正が、ショッキングな行動に出るところが描かれた(以下、ネタバレあり)。
■ どうする家康、数正が秀吉のもとへ出奔
「小牧・長久手の戦い」における家康側の真の大将・織田信雄(浜野謙太)は、勝手に羽柴秀吉(ムロツヨシ)と和睦を結んでしまう。表向きはそれに応じつつも、挽回をもくろむ家康たちだったが、秀吉は朝廷の最高位「関白」となり名実ともに天下人に。名代として秀吉と面会した石川数正(松重豊)は、秀吉とこれ以上戦わず、臣下になるよう家康に勧める。
ほかの家臣たちに謀反人扱いされた数正と密かに会った家康は、改めて秀吉と戦う決意を語り「そなたがいなければできぬ」と懇願。数正はそれを聞き、「殿を天下人にすることこそ我が夢。どこまでも殿と一緒でござる」と、もうひと暴れすると宣言した。しかしほどなくして数正は、「関白殿下こそが天下人」という書き置きを残して、秀吉のもとに出奔した・・・。
■ ひとり目の裏切り者・織田信雄の投降
先祖代々徳川(松平)家に仕える重臣ながら、家康を裏切って秀吉の家臣となってしまった石川数正。そのため(筆者が覚えている限り、だが)ドラマにおける数正は「なんとなくいつか裏切りそうな人」とキャラ付けされることが多いが、今回の松重豊版数正は非常に冷静かつ実直な人柄で、なぜこの人が「裏切り者」になるのか? がまったく読めなかった。
まさにその数正出奔が描かれた33回だが、その前にもうひとりの「裏切り者」が。それは「小牧・長久手の戦い」で家康とともに勝利に酔ったのに、秀吉の集中砲火を喰らったために、中途半端に戦を終わらせてしまった織田信雄だ。彼がもう少し粘っていれば、天下取りの行方はちょっとわからなくなっていただけに、大変もったいないことである。
アバンの状態から早々に、ナレーション(寺島しのぶ)で投降を告げられた瞬間、SNSでは「開始1分で裏切る信雄!?」「ナレ死ならぬナレ調略」「徳川方には、納得いくものではない。かと言って、大義なき戦を続けては誹りを受けるは必定。不承不承でも矛を収めねばなるまい。秀吉の上手さ」という、信雄への苦言と秀吉への感心の声が並んだ。
■ 諸説をミックスして描かれた数正出奔
そして最大の「裏切り者」となる数正だが、出奔の理由は諸説あって定かではない。『どう家』では諸説のなかのいろんな説をミックスするケースが多いが、今回も「秀吉の力に感服した」説と「家臣団のなかで孤立した」説を合わせたような空気感に。敵の本当のスケールをただひとり知ってしまったゆえに、勝ち戦で自分たちを過信している殿&家臣たちから浮いてしまうのは、現代でもありそうなリアルな構図だ。
SNSでも、「幕末に海外留学して直接世界を見て、日本と海外の差を痛感した人と、国内だけしか知らずに血気盛んになる人たちとの意見の食い違いに似ていてつらい」「外交を数正ひとりにやらせてたツケだよな。ほかの誰ひとりとして国の外のこと知らないんだもん」「とりあえず、全員で大阪見物に行ってみたら?」という、数正への同情と家康をふくめた家臣団への忠告の声が上がった。
■ 不条理に見えたが、実は数正のやさしい裏切りか
ということで、秀吉との再戦上等! な家康たちに数正があきれて、完全に見切りを付けるのか? と思いきや、数正は「どこまでも殿と一緒」と言ったその口で逃亡という、不条理な行動に。しかし多くの視聴者は即座に気づいた。これは数正の嘘ではなく、自分が秀吉側に付くことで、家康たちの戦闘ムードを一気にしぼませることが目的の、やさしい裏切りだと・・・。
実際にSNSでは、「『数正がいれば勝てる。でもいなかったら出来ない!』数正に対する口説き文句と見せかけて、『なら自分がいなければ殿も諦めるじゃん!』という最後のトリガーになってしまう、なんとも悲しいすれ違い」「数正殿は、殿を天下人にするために我が身を犠牲に出奔したのですかねぇ」「守り方って、それぞれあるんだろうけど これはこれでツラい」など、数正の真意を推し量ったような言葉があふれていた。
誰も死んでいないのに「号泣した」「こんなにつらい回はない」というコメントが多く見られた、数正出奔。果たして家康たちは、視聴者と同じように数正の隠れた忠誠に気づくことはできるのか? そして、多分望まずに秀吉の家臣になってしまった数正の運命は? 「どうする家康」と同時に「どうなる数正」の行方にも、1週間気をもむことになりそうだ。
『どうする家康』はNHK総合で日曜・夜8時から、BSプレミアムは夕方6時から、BS4Kは昼12時15分から放送。9月3日の第34回『豊臣の花嫁』では、秀吉が家康のもとに、妹・旭(山田真歩)や母・仲(高畑淳子)を送り込んだことで、家康が戦いか服従かの、究極の二択を迫られる様が描かれる。
文/吉永美和子
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