西宮市民が愛するベビーカステラ「三宝屋」、参拝には欠かせない

2023.2.25 09:15

「冷めてもおいしい」が売りだという「三宝屋」のベビーカステラ。ほかにはないムチッとした食感が特徴

(写真8枚)

福の神・えびす様を祀る神社の総本社「西宮神社」(兵庫県西宮市)の祭り「十日えびす」(1月9〜11日)の参拝期間は、阪神西宮駅周辺に「三宝屋」と書かれた紙袋を片手に下げている人が続出。実は「三宝屋」とは、長年阪神間を中心に出店している老舗のベビーカステラ屋さんで、「ベビーカステラ」の名付け親であると言われている。

露店にもかかわらず、SNSでは「もう十数年ここのしか買わない」「三宝屋一択!」「ここのお店が1番好き」「東京に出てるベビーカステラの100倍おいしいねん」といった声が寄せられるなど、異例のブランド力を誇る同店。数ある露店のなかで一体なぜ、「三宝屋」がここまでのネームバリューを持つのか? その秘密を探るべく、3代目の高瀬富久さんに話を訊いた。

■ 親子3代にわたって愛される「三宝屋」のベビーカステラ

──まず、長年愛され続ける「三宝屋」さんのベビーカステラのこだわりは?

うちは、冷めてもおいしいというのが売り。冷めてからきゅっとビニール袋の蓋をしてもらっといたら、次の日も十分おいしいよっていうのが特徴です。ほんまこれくらい(小指の先くらい)、中に生の芯が残るくらいで焼きあげて、保温ケースの中の余熱で火が通るくらいが一番水分も多くて、次の日もふわっとしてる。だから朝ご飯に牛乳と一緒に食べるっていう人も結構多いね。

──かなり老舗だと思うのですが、お店の歴史について教えてください。

カステラで古いのは、神戸・長田の加島さんの玉子焼と、明石の古志さんの福玉焼が古い。うちの初代は戦前はあんこ職人だったけど、戦後はお店もなくなって勤め先もなくなってね。カステラをする前は、練った小麦で餡を巻いた「あんまき」や「かき餅」なんかのお菓子を「清三宝荒神(きよしさんぽうこうじん)」さん(兵庫県宝塚市)に露店で出店させてもらってたんですよ。

宝塚の「清三宝荒神」で「あんまき」を売っていた当時の写真(提供:三宝屋)

店名は、そのときに(清三宝荒神の)館長さんに「三宝っていう名前つこたらどうや?」と言っていただいて・・・。ただ、おこがましいと思ったんか、初代が「みたからや」と読み方を変えたみたいです。

──荒神さんに貰った店名だったんですね。「三宝屋」さんがベビーカステラの名付け親だとも聞きました。

「ちんちん焼き」で売ってたこともあるみたいなんだけど、昭和29年にハイカラ好きなおかんがその時にいた職人さんたちと考えたと親父から聞いてます。ベビーカステラの看板を出した昔の写真の裏には、昭和31年って書き込みがあるからそれより前につけたのは間違いないね。

──お店の名前については、正式名称である「みたからや」でなく、「さんぽうや」だと思っている人も多いようです。

ここら辺の人は荒神さんのイメージもあるんで、8割くらいの人は「さんぽうや」だと思ってますね。僕の時代になって、ネットに載せるためにローマ字表記を入れたら、若い子が「みたからや、やったん?」ってお父さんやおじいちゃんに言って、「いやそんなことない。昔からさんぽうやで通ってる」っていう会話があるみたいで、ありがたいです。

■ ブランド力の秘密は参拝ルーティーンにあり

現在はお祭りの出店以外に、曜日ごとに7カ所に出店中

──やはりこれだけ長くお店を続けられていると、親子3代で食べているという人もいそうですね。特に西宮の人からは、「ベビーカステラといえば三宝屋」という声が挙がる程で、毎年十日えびすでは行列ができています。露店にもかかわらず、ここまでのブランド力があるのは一体なぜなのでしょう?

リピーターさんっていうんですかね。お祭りって信心ですから、お祭りきたら、ここのカステラ買うて、そこの食堂で一杯飲んで、お参りして帰るとかルーティンじゃないですけど縁起を担ぐところもあって。その一角に入れてもらってるからじゃないかな。それこそ親子3代で来てくれるお客さんも多いし、雛が生まれて最初に見たものを親やと思うように、生まれて最初に食べるベビーカステラが落ち着くと思って貰えてるのかも知れへんね(笑)

──コロナ禍もあって、現在はお祭り以外に曜日ごとに露店を出されていますよね?

祭りって、神社仏閣がある以上、出店することがなくなるなんてことはないって思ってたから、コロナで初めてお祭りがなくなる可能性があるってことに気がついたね・・・。正直、お祭りやから店があるっていう値打ちも実際あって、お祭り以外で出店するのはちょっと心配もありました。

でも、ちょっと違う商売の形で生き残らなあかんし。西宮のお店に、ネットで見て尼崎のお客さんが買いに来てくれたりもします。お客さんを繋いどかなね。

■ 露店文化の継承「風情も味のうち」

「露店ならではのいかがわしい雰囲気も楽しんでほしい」と話す3代目の高瀬富久さん

──人気がありながら、ずっと露店にこだわられるのはなぜですか?

露店っていうのも守らなあかん。おこがましいけど神社さんの文化と一緒に露店の文化もまぜて残していかんとね。最近はお祭りもどんどん味気なくなっていってるから。面白さや風情とかも、味のうちやと思うんで。

2022年、夏祭りが戻ってきたときに、浴衣着た3歳くらいの子を連れた人が「いつもおっちゃんからカステラ買ってるねん。この娘、初めて浴衣着て、カステラ食べさすのも初めてやねん」って言ってくれたときは嬉しかった。ずっと焼いてると、そんな話もしてくれる。ただモノを売るだけやったら、露店の必要はなくなっちゃうかもしれないしね。


西宮市民の参拝ルーティーンに欠かせない存在として愛され続ける「三宝屋」。創業当時から変わらないレトロな露店で販売されるベビーカステラをひと口頬張れば、お祭り気分を味わえること間違いなしだ。現在はお祭りの出店以外に、曜日ごとに7箇所に出店中。詳細は公式サイトで。

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