NSCから40年、内場勝則「簡単そうに見せるのが一流」
2022年で創立110周年を迎える吉本興業。そして、同社の歴史を語る上で欠かすことができない「吉本新喜劇」は発足63年となる。そこで今回は、現在は同劇団の団員で、かつて「スーパー座長」と呼ばれた内場勝則に、NSC時代からの40年を振りかえってもらった。
取材・文/田辺ユウキ
■NSC入学時は「会社も生徒も手探り状態」
──内場さんは1982年、NSCへ1期生として入学されましたね。そこから40年の月日が経つわけですが・・・当時のNSCの雰囲気はどんなものでしたか。
それまではお笑い芸人になるには誰かの弟子になるものだったけど、NSCはいわゆるノーブランド(師匠がいない)の先駆けになりましたよね。ただ、当時は会社も生徒も手探りでしたと思いますよ。カリキュラムがあったけど今ほどきっちりはしていなかったのではないでしょうか。習っていたことは、殺陣、日舞、ジャズダンスなど舞台に立つ上での基礎的なこと。漫才ブームの後だったので、「漫才をしろ」とはよく言われていましたけど。
──なぜお笑いを進路に選んだのですか。
高校卒業後、何をするわけでもなくアルバイトばかりしていて、これといった夢もなかったんです。ただ、大阪に住んでいて、吉本新喜劇をよく観ていたから「俺でもできるんちゃうかな」って。で、喫茶店でアルバイトをしているとき、店のママから「新喜劇の作家の竹本浩三さんがお客で来てるで」と聞いて、「すんません、吉本入れてくれません?」と言いに行ったんです。
──いきなりですか。
竹本さんからは「君は世の中を舐めているんか?」と怒られまして(笑)。そして「ちょうど学校が4月から始まるから、行ってみなさい」と教えてもらったんです。ただ、簡単にできると思っていたお笑いが、全然うまくできなくて。今でも当時の僕みたいな人が入ってくるんですけど、いざやらせてみたら何もできないんです。僕はどんな世界でも、簡単そうに見せるのが一流だなと思いますね。
■吉本を辞めよう・・・内場を引き留めた1本の電話
──内場さんはNSC時代「漫才をやれ」と言われたけど、乗り気になれなかったそうですね。
同期にダウンタウンがいて、ダントツにおもしろくて、すぐに頭角をあらわしたの見て「あれには勝たれへんな」と。あと漫才ってリアルと嘘が半々ですよね。ボケが嘘みたいなことをやって、ツッコミがリアルに「なんでやねん」と。そのリアルさを出すことが難しかったんです。それよりも幕が開いて初めから嘘(芝居)をやる方が自分に合っていた。普段の僕は、おもしろい人間でもないことが分かっていたんで。
──1985年頃から「吉本新喜劇」で活動するようになりますが、その4年後、多くの座員がリストラされた「新喜劇やめよかっカナ?キャンペーン」がありましたね。内場さんはそのまま吉本を辞めるつもりだったとか。
「新喜劇に残っても端っこになる。だから漫才をやれ」と言われました。でも漫才をやるつもりはなかったから「それやったら辞めます」と。僕はそれほど真剣に人生について考えたことがなくて、何でも「まあ、ええか」で過ごしてきたんです。あのときも「何とかなる」と思っていました。でもそんなとき、前年まで新喜劇の座長だった木村進さんから電話があったんです。
──木村さんは1988年、脳幹出血で倒れて退団されていたんですよね。
あの電話は忘れもしません。「うめだ花月」にあったピンク電話が鳴ったんです。そして木村さんが「内場、お前はツッコミがええんやから頑張れ」とおっしゃってくれて。病室から僕のために電話をかけてくれたんです。そこで「端っこでもいいから残ってやっていこう」と決意しました。
──木村さんは2019年5月に亡くなられました。内場さんにとって、木村さんの存在はかなり大きかったのでしょうか。
木村さんは「若手はスベることも覚えなあかん」といつも言っていました。スベらないとウケることが分からないですから。そういう教えがあったので、僕も若手には「スベっても俺らがフォローするから、思い切ってやりなさい」と言っています。
──内場さんもスベってきましたか。
それはもう、めちゃくちゃスベってきました(笑)。そこでスベる悔しさを知れたんです。あと「計算しすぎたボケは足元をすくわれる」「その場で思いついたことの方がウケる」とか。新喜劇のすごいところって、誰かがスベっても必ず周りがフォローできる。だって、そうしないと全員一緒にスベったみたいになりますから。それは困るから、みんな必死です。
──たしかに(笑)。そして1990年代、吉本新喜劇ブームがやってきます。内場さんも、辻本茂雄さん、石田靖さんと「ニューリーダー」として活躍し、1999年には座長に就任しますね。
新喜劇ブームは、チャーリー浜さんのブレイクが大きかったです。当時のチャーリーさんは、毎日のように20社くらいのマスコミ取材を受けるほど大忙しで。さらに島木譲二さん、池乃めだかさん、島田珠代、山田花子、藤井隆とか、びっくり箱みたいな人たちばかりいましたから。このメンバーが同じ方へ向かってやっていくわけだから、そりゃすごいですよ。みんながチャンスメイクできて、どこからでもホームランが出る状況だから。
■「どんなことでも、『続ける』ということが大事」
──内場さんがこれまで見てきた新喜劇の団員さんで、「この人はすごいな」と感じた方はどなたですか。
島木譲二さんです。いつも200パーセントな方でした。道を歩いていて、知らん人に声をかけられても200パーセントで応えていた。あと、あの方は「偉大なる素人」でした。JRが国鉄だった時代は駅のホームで煙草が吸えたんですけど、階段をあがったところで島木さんが堂々と吸いながら待っていて。こっちも「あ、島木さんや」と遠目でもすぐに分かって。
──そんな目立つところに・・・(笑)。
そうそう。だって人気があったし、普通なら隠れて煙草を吸って待つじゃないですか。でもめちゃくちゃ目立っていて(笑)。素人時代の初心がずっと変わってないんです。晩年は体調を崩していたけど、しんどいと言わずに舞台に上がり続けていた。自分で小道具も縫って作っていましたからね。大きいからだを丸めながら。先輩がそうやって一生懸命やっていたから、下の者も「頑張ろう」となりますよね。
──ただ、内場さんも間違いなく吉本新喜劇を代表するレジェンドだと思います。
吉本が110周年を迎えて、その歴史のなかのちょっとした一部分を担えたかなとは思っています。どんなことでもキープし続けることが大事ですから。ただ僕は、みんなの邪魔になったら辞めようと思っています。笑いをとれるうちは、まだ吉本にいられるかなって。
内場勝則も出演する、吉本興業の創業110周年を記念した特別公演『伝説の一日』まであと4日。4月2日・3日に「なんばグランド花月」(大阪市中央区)で1日4公演おこなわれるが、チケットはすべて完売しており、いずれもオンライン配信される。配信は各公演単券2400円、1日通し券9000円で発売中。
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