激情型からの脱却、ヒグチアイ「自分にも、音楽にも酔ってた」

2022.3.3 19:00

シンガーソングライター・ヒグチアイ、大阪・中津にて

(写真5枚)

「自分が間違ってたんだって」(ヒグチアイ)

──当然ながら、人それぞれ経験してきたことは違うし、同じような人生は歩んでないけれども、なにかしら共鳴する部分があったと?

私が普通の人を面白いと思うなら、私も面白いんだろうなって。自分の人生なんてつまらないと思ってたけど、そうじゃないかも。だとしたら、激しいことをテーマにしなくても、激しい言葉を使わなくても、いい曲が書けるかもしれないと気づいたというか。

──その一方、『やめるなら今』『悲しい歌がある理由』『悪い女』など、アルバム収録曲のタイトルからも伺えますが、私が抱いているこのモヤモヤした感情は「なにが要因か?」をずっと歌にされてきたと思うんです。ある種、歌にすることが心の安定装置にもなっていた、というか。

そうでしょうね。まぁ最初は、ただただ吐き出したいだけでしたけど。でも、私の曲を聴いてくれる人がいるってことは、私の気持ちを分かってくれているんだろうな、と思ってたんですけど、今は吐き出したい気持ちがかなり無くなっている。

「今は吐き出したい気持ちがかなり無くなっている」と語るヒグチアイ

──今は?

ですね、そこじゃなくなっている。曲を作る理由は変わりましたね。

──では、楽曲を作ることは、ヒグチさんにとって何になったんですか?

「仕事」という言葉に近いかもしれないです。まぁ、今までは「自分の人生」みたいな。なんだろう、簡単に言えばかっこつけてた(笑)。

──でも当時、そう思ってた吐き出していた感情にウソはないですよね。

それは間違いなく、そう思ってました。でもなんか、酔ってた(笑)。自分にも酔ってたし、音楽をやってるってことにも酔ってた。それでやっていけてたんですよ。でも、音楽を生業にして生きていくとしたら、自分を切り売りするのはもう限界だと分かったというか。身を削るんじゃなくて、もっと技術的なところを楽しんでる気がします。

──これまでと、いわゆるアウトプットの仕方が全然違うと。

そうです、もう全然違うと思います。自分の内から出てきた想いを、そのまま素材として出すのか、それとも料理して出すのか。素材で出す価値はもうここが限界だと思って。だからやめました(笑)。それだと生きていけないなって。

──まぁ、すり減っていきますもんね。

そういう音楽がやりたいんだったら、やれる場所があることは知ってるし、別の仕事しながらやればいい。30代に入ったくらいかな、音楽って感情に実直にやるだけじゃなく、もっと頭を使ってやるものだと(笑)。この10年くらい、ずっとそれに抗ってやってましたけど。

3月にバンドツアー、4月には弾き語りソロライブを控えるヒグチアイ

──その転換のきっかけは、なんだったんですか?

やっぱり去年、歌詞提供した頃かな。書いてたのは一昨年かもしれないけど、自分が歌う楽曲じゃないし、発注者のリクエストもあるから、濃度(自分の色)を薄くするんですよ。そこにどう自分の言いたいことを入れるかなんですけど、得意じゃなかったんです。

──これまで、ずっと「意味」を求めてきたわけですもんね。

「キッチンのフライパン、もう買い換えなきゃ」とか、昔だったらどうでもいいと思ってた日常風景が、実は大事だった、好きだったんだということが、書いてて分かったので。それに意味がないと思ってた自分が間違ってたんだって。それに気づけて良かったです。

──それにしては、アルバムタイトル『最悪最愛』だけは過去にないほど尖ってますね。

「やさしいアルバム」とか言っときながら、このタイトルですからね(笑)。かまって欲しいし、絶対に触って欲しくないみたいな、その両極端のなかでもバランスが取れるようになってきた。最悪で最愛な私。って感じですかね。

ヒグチアイ

アルバム『最悪最愛』
2022年3月2日発売
PCCA-06117(通常盤)/3,300円
※短編小説「最悪最愛」収録

バンドツアー『HIGUCHIAI band one-man live 2022 [ 最悪最愛 ] 』
2022年3月27日・18:00〜
umeda TRAD(大阪市北区堂山町16-3)
5,500円(1ドリンク別途要)

ソロツアー『HIGUCHIAI solo tour 2022 [ 最悪最愛 ] 』
2022年4月23日・18:00〜
海辺のポルカ(神戸市中央区東川崎町1-5-5)
4,000円(自由席)

2022年5月6日・19:00〜
磔磔(京都市下京区富小路仏光寺下ガル)
4,000円(自由席)

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