KIRINJI、新境地での制作「今の自分にとっては健康的」
2020年末をもってバンド体制を卒業し、堀込高樹のソロ・プロジェクトとなったKIRINJI。コロナ禍でのシチュエーションを描いた楽曲『再会』、これまでにないハードなグルーヴで新境地を示した『爆ぜる心臓 feat. Awich』などの先行リリース曲を経て発表されたアルバム『crepuscular』は、全編KIRINJIらしさを保ちつつもインパクトのある作品に仕上がっている。
再び新たな展開に突入したKIRINJIの現在について、12月7日の「なんばHatch」(大阪市浪速区)公演を振りかえりつつ、語ってもらった。
取材・文/吉本秀純
■ シンリズムやMELRAWをメンバーに迎えたツアー
──大阪での久々のライブは、ギターにシンリズムさん、サックスにMELRAWさんが加わった編成で、最新アルバムの収録曲もさっそくライブならではのものになっていましたね。
MELRAWくんには、コロナ禍で前作『cherish』のツアーがキャンセルになり、配信でライブをやったときに初めて参加してもらいました。だから、東京でのこの2年くらいのライブではずっと彼に入ってもらっています。
──サックスが入ってライブがエモーショナルになった、みたいな話をされていましたが。
ギターとはまた違うエモーショナルな感じがあって、曲の温度感が上がるのがいいですね。
──さらに、そこにギタリストとして初参加のシンリズムさんも加わって、ハードになる場面ではKIRINJIとしては異例なほどハードで新鮮でした。
ドラマーも、橋本現輝くんという元気のある(笑)人に初めて入ってもらって。12月7日の公演はこのメンバーでの初めてのライブだったのですが、すごく楽しくやれました。
──さて、2021年から高樹さんのソロ・プロジェクトとなったKIRINJIですが、最新作『crepuscular』からも変化は感じられて。音楽的な振れ幅と自由度は、やはりバンド体制期より増したかなと。
曲を作ってアレンジをして、生の楽器を録って、それを自宅のスタジオに持ち帰ってギターやコーラスを重ねるというプロセスそのものはバンド時代とあまり変わっていません。でも、プレイヤーが替わるとサウンドもガラッと変わるので、そこは単純に大きかったです。
あと、やはりこういう世の中なので、ウキウキした曲はそんなにポンポンと出来なかった。だから、比較的落ち着いた感じで、メロウであったりゆったりしたテンポでも全体的にタイトなグルーヴがしっかりあるけど、上モノはサイケっぽいフワフワした感じになっています。もちろん前作と同じことはできないし、どこか変えなきゃということでそうなっているのもありますが。
──ちょうど、ソロ・プロジェクトに移行したタイミングで、世の中もコロナ禍でガラッと変わってしまったというか・・・。
そうなんですよね。だから、考えることがいっぱいあり過ぎて、次にオレは何をどういうアプローチをすれば正解なのかな? みたいなのを探りながら作っていました。あと、やっぱり自分のなかでは極端な『爆ぜる心臓 feat. Awich』を映画主題歌用に先行で作っていたので、この曲をアルバムに入れるのかどうかを悩んだりもしながら。
──今年4月に配信された『再会』よりも先に『爆ぜる心臓』が出来ていたんですね。
あの曲を1発目で聴いて「新しいKIRINJIはこの路線なの?」と思われると困るなと思って。それもあって『再会』というKIRINJIらしい曲を初めに出しておかないと、リスナーが混乱してしまうなと。
──『爆ぜる心臓』は、映画『鳩の撃退法』の主題歌として書かれたこともあって、映画のタッチに合わせて生まれてきたものだと思いますが。
やっぱり映画に合ってなきゃいけないというのがあったし、今回は(映画のなかで)井上陽水さんの『氷の世界』のカヴァーの後に主題歌を流したいというリクエストがあって、『氷の世界』の後に流れてインパクトが弱くならない曲なんてあんまりないだろうと思いながら(笑)。
──『氷の世界』は、ライブでもアンコールで取り上げていて驚きました。
アレは演奏しながらちょっと微妙な気持ちには一瞬なりましたけどね。「なんだこれ、中年バンド・バトルみたいに見えてたらどうしよう」とか思ったり(笑)。
──面白かったですけどね(笑)。
映画音楽の制作過程では、ほかにもいろいろな要望があったなかで、自分なりにコレが正解じゃないかと思うものは出せたと思います。
──そして、アルバム発売前に第3弾として配信されたのが、フランス語をフィーチャーした80年代ユーロ・ポップ風の『薄明 feat. Maika Loubte』で。これまた従来のKIRINJIにはないフレンチ路線で意表を突かれました。
曲自体はわりと普段に書いているものの延長にあるのですが、メロディーがヨーロッパっぽい感じで、単純に曲のなかにほかの言語が入ってくると、海外のリスナーがスッと入りやすいかなと思って。
──なるほど。
前に『killer tune kills me feat. YonYon』で韓国語のラップを入れたときに、韓国のリスナーや韓国のポップスをチェックしているヨーロッパの人たちも気にしてくれて、やっぱり日本語だけよりも間口は広くなるみたいです。もちろん曲調に合っているかが重要なので、今回の『薄明』に関してはヨーロッパっぽい感じがあったから、マイカさんにお願いしました。
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