演出の仕事って何してるの? 板尾創路が探る演劇の疑問

19時間前

対談で初顔合わせとなった京都の劇団「MONO」主宰・土田英生(左)と板尾創路

(写真7枚)

今年で3年目を迎える『関西演劇祭』でフェスティバル・ディレクターを務める板尾創路が、「関西の演劇って、実際どうなん?」を探っていく対談連載。第4回は、演劇のセクションのなかでも、おそらく最もその仕事が謎と思われている「演出」にスポットを当ててみた。

取材・文/吉永美和子

今回のゲストは、一昨年に結成30周年を迎えた京都の劇団「MONO」の主宰・土田英生。岩田剛典・戸田恵梨香が出演したドラマ『崖っぷちホテル!』(2018年・日本テレビ系)などドラマの脚本家としても活躍し、外部での舞台演出の仕事も多い彼に、演出の実態に加え、関西の演劇界への思いなども訊いた。

「演出はやっぱり面倒な役割(笑)」(土田)

板尾 僕も舞台経験はいろいろあるんですけど、舞台の「演出」って具体的にどういう仕事なん? って改めて訊かれると、確かにイメージしにくいなあと思いました。

土田 大元の仕事は「今回のお芝居は、こういう形でやります」みたいなことを決めて、舞台の照明や音響や美術、俳優の演技のさせ方など、そういった諸々を全部決めることだと思います。脚本を読んで「こういう観せ方をすれば、面白くなるんじゃないか」と考えて、それを実現するために、とにかく舞台のすべてのことを、自分の目を通して判断していく。

板尾 映画監督みたいなものとも言えるけど、またちょっと違いますよね? 僕も監督をしたことはあるけど、舞台と違って映像はカメラを通して観るから、カメラマンの技術や個性が・・・、さらには音響や照明さんの個性がかなり反映される。映画監督やドラマのディレクターは、そんな各方面の個性を見極めて、総合的にまとめる役割って気がします。

土田 そうですね。似たような仕事ではあるんですけど、舞台の演出の方が全部(ひとりで)決める感じ。それと映像は、一度でもたとえ偶然でもいいシーンが撮れたら、それでOKにできますよね? でも舞台の場合は、どんな状態になっても、一定のクオリティで見せられる段階まで、稽古で作らないといけない。

板尾 あ、そうですね。やっぱり1番の違いは、役者の演技に対する時間のかけ方。

土田 だって映像で、1カ月稽古することなんてないですからね。舞台はそれが面白いっちゃ面白いけど、効率は悪いとも言えます(笑)。

自身の演出法は「嫌がられているかもしれない」と笑う土田英生
自身の演出法は「嫌がられているかもしれない」と笑う土田英生

板尾 僕が気になってるのは、稽古のときに演出家って俳優にもっといろいろやってほしいと思うのか、それとも「俺が思う通りにやって!」という気持ちが強いのか・・・。もちろん演出家とか、俳優のキャラクターによるとは思うんですけど。

土田 自分の(脚本の)作品の場合、書きながらある程度イメージがあるから、まず形をしっかり作ることを考えます。僕は会話の間合いやテンポをすごく大事にしてるので、そこを固めてもらえたら、あとは俳優さんの個性によって変えたり、わりと柔軟です。でも僕は結構「ああしてくれ」と言う方なので、嫌がられているかもしれない(笑)。

板尾 そうですか? 僕は自分を客観的には見られないし、演出家さんが客観的に見て、お客さんが観たときにストレスを感じないように、全体をコントロールしてほしいなと思います。でも舞台の演出って、終わりがないっちゃ終わりがないから大変ですよね。稽古で作り上げたものが、100%完成ってわけではない。

土田 そうそう。本番でちょっとウケると、違う方向に行ってしまう役者が出たりしますし。僕は舞台でのアドリブを禁止にしているので、余計気になりますね。そこを再調整していくという戦いが、千秋楽まであったりするから、やっぱり面倒な役割だと思います(笑)。

「後からジワジワとわかってくるのが演出?」(板尾)

──「関西演劇祭」には演出家にも賞が与えられますが、板尾さんは審査員として、演出の良し悪しをどのように判断していますか?

「 いろんな演劇を観ていくうちに、演出って面白いと思ってくるのかな」と板尾創路
「 いろんな演劇を観ていくうちに、演出って面白いと思ってくるのかな」と板尾創路

板尾 まず、作品全体の内容がいいこと。そのうえで「この場面を、こんな風に見せるのか」とか、普通とは違う角度や視線でアプローチをしているけど観ていて納得するようなことが作品のなかにあると、それは演出家の腕だなあと思います。

土田 ちゃんと演出家の工夫が見える、ってことですよね? 自分の作品(脚本)を演出してもらうと、それがわかりやすいです。自分で書きながら「ここは退屈じゃないかな」と思ったシーンを、たとえば急にテンポを変えるとか派手な照明を入れたりして、それが面白く見えたら「ああ、演出がすごいなあ」と。

板尾 確かに自分の本だったら、わかりやすいですよね。「その手があったか!」みたいな。

土田 そうそう。「最初からそうしておけばよかった」と思ったり(笑)。でもその良さは、同じ作品とは言わなくても、僕の(演出した)舞台を一度でも観たことがあるお客さんじゃないと、まず気づかないと思います。

──確かに、脚本や俳優の演技力の良し悪しは、割とパッと見でも判断しやすいですが、演出の良し悪しというのは、演劇を知らない人にはなかなかわからない部分ですよね。

板尾 多分そうだと思います。1番最後というか、後からジワジワとわかってくるのが「演出」じゃないですかね? いろんな演劇を観ていくうちに「演出って面白いな」と思ってくるのかな。

土田 映画を監督で観に行く人は多いけど、舞台を演出家で観に行くって人は少ないのは、やっぱり理解が難しいからなのかな? と思います。演出家の名前で客を呼べるのって、蜷川(幸雄)さんぐらいです。

大阪からはオンラインでつなぎ実施された土田と板尾の対談
大阪からはオンラインでつなぎ実施された土田と板尾の対談

──ただ一方で「2.5次元ミュージカル」の界隈では「この演出家ならきっと面白い」「観に行かない」と、演出家を判断基準にする人が増えているという、面白い現象が起きているようです。

板尾 2.5次元のファンの人は、まず自分の推し(の俳優)を熱心に追うので、いろんな舞台を観ることになるじゃないですか? そうして場数を踏むうちに、違いがわかってくるというのはあるでしょう。しかも原作の漫画やアニメがあるから・・・。

土田 どうやって立体化するか? ということで、演出家の工夫がすごくわかりやすい。

板尾 さらに「再演で演出が変わったけど、初演の方がよかった」というので、演出家の好き嫌いや、演出の良し悪しがわかってくる、ということになるのかと。

土田 そうですね。2.5次元に限らず、ある程度の数の舞台を観ていけば、演出を見る目は自然と鍛えられるし、好きな演出家も見つけられると思います。

関西の演劇にとって、本当にいいチャンス」(土田)

──土田さんは愛知県出身ですが、「関西を拠点に全国で活躍するロールモデル」のひとりです。なぜ京都での演劇活動にこだわり続けるのでしょう?

土田 僕は京都の大学に通ってるときに演劇を始めたので、売れるためにわざわざ東京まで行かなければいけない、ということに納得できないものを感じてたんです。京都が好きだったし、京都で作ってからほかの地域でも上演する、という活動を続けたいと思いました。

初顔合わせながら意気投合した土田(左)と板尾
初顔合わせながら意気投合した土田(左)と板尾

板尾 地元というか「京都を大事にしよう」という。そこからどうやって、全国区になったんですか?

土田 劇団結成から数年後に、京都の劇作家たちが大きな賞を取ったりして、次々に注目された時期があったんです。「京都派」なんて言葉が生まれたりして、その後ろに上手くくっつけました(笑)。京都って(大阪より)東京に近い分、比較的東京の人が受け入れやすい・・・というのがあるみたいです。

板尾 京都の演劇の人って、独特の考え方みたいなのがある気がするんですよ。すごく京都を大事にするし、職人気質。僕が知ってる京都の演劇の人も、東京に根を張ることに執着していない感じがして、それは京都の人ならではなのかなあ? と思ったりします。

土田 どうなんでしょう? MONOは京都出身者が誰もおらず(笑)、関西(出身)もひとりしかいないので、芝居もほぼ標準語なんです。でも関西の人たちが関西弁で芝居を作っているのを観ると、それはやっぱり関西でしか作れないものだから・・・いいなあ、とも思います。

板尾 それって「吉本新喜劇」だと、もっとわかりやすいですよ。「ルミネ(theよしもと)」(注:東京の劇場)の新喜劇って、NGKのコテコテのものとは、やっぱり違いますから。

土田 作る土地の影響って、やっぱり演劇にもありますよね。とはいえ今は、演劇で生活をしようと思うと、東京に出てこざるをえない状況なので、関西がますます厳しくなってると思います。僕も今は東京しか仕事がなくて、もう8カ月も東京にいますし。

板尾 そこはしょうがないし、どうにかできないかな? と思うところです。

土田 でも僕が思うのは、関西の若い子から同時に3つぐらい才能が出て、ライバル関係になったら、ほかの地方から見て「関西すごい」ってなるだろうな、と。

板尾 そうですね。流行って、3つぐらいの要素が重なって初めて起こりますから。

──実際、先ほど言われた「京都派」の頃は、4人か5人ぐらいが京都で競ってる状態でしたよね。『関西演劇祭』は、そういう若い才能を一度に発見できる可能性が大きい場だとも言えるわけですが、土田さんから何かエールなどございますか?

3回目となる『関西演劇祭2021』イメージビジュアル
3回目となる『関西演劇祭2021』イメージビジュアル

土田 実はこの演劇祭が始まった頃から「すごくいい試みだなあ」と思って、気にしてたんですよ。イヤらしい言い方ですけど、やっぱり板尾さんみたいにネームバリューのある人が「演劇って面白いよ」って言い出すと効果が全然違う。関西の演劇にとって、本当にいいチャンスだと思うので、僕にできることがあったら何なりとさせてもらいたいです。

板尾 今日初めてお話させてもらいましたけど、京都の演劇の人って、やっぱり独特やなあと思いました(笑)。関西ってひとくくりにされがちやけど、京都と大阪には違いがあって、それも関西の面白さのひとつなんだと。先ほどおっしゃられたブームを作るためにも、こういうお祭りは小さくてもずっと続けて行ければなあと、改めて思いました。今年はコロナも明けて、もっとみんなが弾けられる祭りになるのでは、という期待があるので、楽しみにしてください。


『関西演劇祭2021』は、11月20日から28日まで「SSホール」(大阪市中央区)にて。チケットは一般3000円、学生2000円、配信チケット1600円ほか。

参加団体:劇想からまわりえっちゃん、劇団不労社、劇団5454(ランドリー)、劇団レトルト内閣、試験管ベビー、創造Street、project真夏の太陽ガールズ、メガネニカナウ、猟奇的ピンク、笑の内閣

土田英生が作・演出を務める舞台『徒花に水やり』イメージビジュアル
土田英生が作・演出を務める舞台『徒花に水やり』イメージビジュアル 写真/江森康之

なお土田の次作は、劇団「猫のホテル」の代表・千葉雅子とのユニットで制作する最新舞台『徒花に水やり』。女優の田中美里、桑原裕子、岩松了とともに、廃業した暴力団の組長が残した4人の子どもらが大人になって築く関係が、滑稽なやりとりで描かれる。

12月に東京(ザ・スズナリ/世田谷区)と兵庫で上演。兵庫公演は12月22日・23日に「アイホール」(兵庫県伊丹市)にて、チケットは一般前売4500円ほか。

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