奈良で『正倉院展』が開幕、文房具など身近に感じる宝物も

2021.10.31 10:15

北倉「螺鈿紫檀阮咸」 丸い胴部をもつ4絃の琵琶で聖武天皇の遺愛品。2羽のインコを表した螺鈿細工が美しい(2021年10月29日撮影)

(写真10枚)

「奈良国立博物館」(奈良市)で、初出陳8件を含む、55件の宝物が出陳される『第73回正倉院展』が10月30日に開幕。2020年に引き続き当日券は無く、「前売日時指定券」の予約はわずかな空きを残す状態となっている人気ぶりだ。

勅封(天皇陛下の命で封印すること)により宮内庁が管理し、名称も難解な漢字が多いことから、敷居が高いイメージを持たれがちな正倉院宝物。宮内庁正倉院事務所の西川明彦所長は、「古代の人と現代の人は感覚的に同じ。色々イメージして、正倉院宝物を身近なものとして感じて欲しい」と話す。

今年は、聖武天皇の后・光明皇后(こうみょうこうごう)の自筆と伝わる書「杜家立成(とかりっせい)」とともに、筆・墨・硯(すずり)・紙といった奈良時代の豪華な文房具を楽しめるのが特徴だ。

同館の井上館長は、「実際に使われたことが分かる使用痕が残るものもあります。奈良時代の写経生の絹の腕カバー『白絁腕貫(しろあしぎぬのうでぬき)』は、袖口に擦り切れたような跡があり、墨書や文書が残っているので、高市老人という使用者まで分かっています。当時の人々の息づかいが伝わってきますよね」と説明する。

聖武天皇の遺愛品など、天皇家ゆかりの品々だけでなく、造東大寺司(東大寺造営に当たった機関)に関連する品々で、当時の一般庶民が使用した品も約1300年間も守り伝えられてきたことに驚かされるだろう。

また、西川所長は、「忘れてはならないのが、聖武天皇と光明皇后の仏教への信仰の篤さ。『漆金薄絵盤(うるしきんぱくえのばん)』を見ると、自然界にこんな色使いは無いですよね。(楽舞装束と考えられる)『曝布彩絵半臂 (ばくふさいえのはんぴ)』はバックプリントがあるから、当時のスカジャンですよ。初めて見た奈良時代の人々はビックリしたのでは? 巨大な金色のウルトラマンのような大仏(東大寺盧舎那仏)、一般の人には分からない読経、嗅いだことのない香などで人々の関心を集め、信仰へ誘ったんです」と語る。

今でいうならば、「映え」で人々の心を惹きつけたという。大仏開眼会(だいぶつかいげんえ)など東大寺の法会で使用された供養具、荘厳具、伎楽などの装束や楽器類、献納品を見てみると、その思いを実感できるだろう。

実際に同展覧会を観た奈良市在住の60代女性は、「聖武天皇のクッション(『長斑錦御軾』(ちょうはんきんのおんしょく)と書いてある宝物は今とあまり変わらないので、おもしろいと思いました」と宝物を身近に感じたようだ。

そのほか、同展覧会では、螺鈿細工による煌びやかな装飾が美しい聖武天皇(701~756年)遺愛の品である4絃の楽器「螺鈿紫檀阮咸(らでんしたんのげんかん)」や極彩色の文様が美しい蓮華形の香炉台「漆金薄絵盤(うるしきんぱくえのばん)」も見どころとなっている。

同館の公式ユーチューブサイトで動画を配信予定。期間は11月15日まで。大人2000円ほか。ローソンチケットまたは、ローソン及びミニストップ各店舗、電話、公式サイトにて発売。

取材・文・写真/いずみゆか

『第73回正倉院展』

期間:2021年10月30日(土)~11月15日(月)
会場:奈良国立博物館 東新館・西新館(奈良県奈良市登大路町50)
時間:9:00~18:00 ※金〜日、祝日(11月3日)は20時まで
(最終入館は閉館の60分前)
料金:大人2000円、高大生1500円、小中生500円
※観覧には前売日時指定券の予約・発見が必要、当日券の発売なし
電話:0570−000−028(チケット受付)

  • LINE
  • お気に入り

関連記事関連記事

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

関連記事関連記事

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本