未曾有の事態に立ち向かう劇場の挑戦「有観客は絶対条件」
「コロナ禍で浮き彫りになった2つの可能性」
新型コロナウイルスの自粛期間中、「1st」はほかの劇場同様、無観客公演の配信や映像作品を作る場として、劇場を提供してきた。そのなかで「2つのことが浮き彫りになった」と相内さんは言う。まずひとつは、劇場と配信の新しい可能性だ。
「無観客配信に合わせた演出に変えたり、客席で観る感覚に近い映像作品を作ったカンパニーがあったんです。そういう新しい試みを通して、劇場ってもっといろんな使い方ができるんだなあ、という発見がありましたね。また、うちはツアー公演をするカンパニーの利用が多いんですけど、公演の配信には、行けない地域のお客さんをつなぎとめる効果があることもわかりました。ここで積み上がった映像制作や配信のノウハウは、今後の資産になると思います」と分析する。
そしてもうひとつは、「演劇にとって、お客さまは絶対必要」ということだ。特に相内さんは、映像製作者としての顔も持っているので、いっそう映像に変換しづらい、演劇ならではの魅力を痛感するという。
「生ではできないことが、映像だとできることは当然わかっています。でも逆に、客席が湧いている雰囲気だとか、隣席のお客さんの熱だとか、劇場が続けば続くほど染み付いていく匂いみたいなものを感じるのも、実は『演劇を観る』ことの醍醐味。それは配信では絶対伝わらないし、映像で絶対表現できないんです。ここを売り渡してしまうと、それこそ『劇場はいらない』ということになってしまいます」と、劇場に観客を入れることは、演劇にとって重要・・・というより、もはや絶対条件であることを強調した。
8月13日からは、インディペンデントシアターと馴染みの深い全国7劇団の作品を、一気に上演する『新2nd杮(こけら)落しシリーズ』が開幕。ここから作り手も観客も、少しずつ新しい空間になじんでいき、また新しい匂いや空気感が付いていくだろう。相内さんは新「2nd」について「たまり場みたいになってほしい」と希望を語る。
「演劇の情報を仕入れたり、知人同士で情報交換のできる場所が、やっぱり今後必要じゃないか? と思うんです。劇場を、普段から演劇にアクセスできる場所にしなきゃいけないなあと。ロビーを常に開けるのは難しいけど、秋には劇場の1階にカフェが入るので、そこには僕も含めて、演劇関係者がやたら入り浸ることになるんじゃないかと(笑)。観客にとっても作り手にとっても『とりあえず、2nd行っとく?』みたいな場所になればいいなあと思います」。
取材・文/吉永美和子
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