唐揚げやモンブラン…進化し続ける食品サンプル工場に潜入

2021.6.27 13:15

本社に隣接する「大阪工場」では、2フロアで多ジャンルのサンプルを製作。手前では、かき氷を製作中。工場では季節ものを2~3カ月前倒しで作ることが多いという

(写真21枚)

本物そっくりなビジュアルでメニュー選びをアシストしてくれる「食品サンプル」。そのリアルさを探るべく、創業89年を迎えたサンプル製作のパイオニア企業「いわさき」(本社:大阪市東住吉区)の工場に潜入。「おいしそう」へのこだわりを目の当たりにした。

■ 極細モンブランに多種多様な唐揚げ…時代の変化に対応

全国に工場があり、グループ会社全体での食品サンプルが業界シェア1位を誇る同社。今回、訪れた「大阪工場」は、和洋中のフードや喫茶のスイーツ・ドリンクなど多ジャンルを網羅し、16人の製作スタッフにより、年間約5万点ものメニューが作られている。

製作のはじまりは、まず営業スタッフが店舗から現物を皿ごと持ち帰ったり、現場でスケッチ&写真を撮影。それを元に、工場で具材の数やサイズ、盛り付け方などを詳細に調べた「製作仕様書」を作成し、食品&材料パーツ(規格部品)を使うものとオリジナル型を作るものに仕分けされるという。

海老だけでもこんなに!

規格部品は需要に応じて専用工場で作られ、種類は1000以上にも及ぶ。例えばネギは「矢切(白)」「あさつき刻み」、エビは「右・左(向き)」「皮無」など、種類・色・切り方まで分類され、倉庫に各ケースがずらりと並ぶ風景は迫力大だ。

一方、型採りは食材にシリコンを流し込み、食材表面の凸凹までリアルな型を作成。そこに樹脂を入れてオーブン加熱で硬化させる。エアブラシや筆で着色&ツヤだしで完成となるが、同社では「かまぼこ」「どら焼き」など独自のカラーを使用し、色味をとことん微調整。常に「辛い」「甘い」など味覚も意識し、全体の9割以上が手作業という細やかな職人技が光る。

野菜や魚など、同社独自のカラーが決められている

まるで調理場のような作業台ではこの日、例年GW前が発注のピークというかき氷が次々と作られていた。サクサク食感の氷は粉砕したシリカに風をあて接着剤を乾燥させて再現するなど、ふわふわ、シャリシャリなどさまざまな食感に合わせて製作方法は変えているという。ここ数年人気の極細モンブランは、従来の絞り器では対応できず、素麺サンプルの細さを活用して乗り切ったことも。

40年近く製作に携わってきた製作本部の北出真司さんは、「昔の素材はロウでしたが樹脂に変わり、より丈夫で本物に近い質感が出せるようになりました。その分、形が変えづらいので大変ですが」と笑い、近年の特徴を掴むために日ごろから「リアルを知る(見る)」ことを心がけているそう。「たとえばエビフライは衣がぽてっとしたものからだんだん細身になり、唐揚げは専門店が増えて竜田揚げ風など、衣の種類も増えていますから」と、時代に合わせたバリエーションが求められるという。

「いわさき」本社(大阪市東住吉区)にて、サンプルを手にする(左から)総務本部の向尾麻里さん、製作本部の北出真司さん、製作課の髙橋勇作さん

■ 店先で足をとめたくなる秘策は、角度にあり?

陳列ケース全体とのバランスについて語るのは、営業経験もある総務本部の向尾麻里さん。「サンプルの役目はデザイン重視の飾りでなく、食欲を刺激する販促品。各料理の皿に合わせ、具材が1番見える絶妙な角度、色味を活かす照明なども大切な要素です。サンプル1点だけの視点でなく、店先でのお客さまの背丈も想定した並べ方を常に意識していますね」と、こだわりを明かす。

本社玄関の陳列ケースには、実際の店先を想定し、若手社員らが企画・製作した中華メニューがずらり

今ではおなじみとなった角度をつけて立て、料理を俯瞰で見やすくした陳列方法も、同社がいち早く導入。ケースやポスターなど総合的な販促ツールと合わせ、お客と店舗どちらにとっても「量や内容の分かりやすさ」を目指しているという。

「サンプル会社あるあるかもしれませんが、スタッフは出先でも自社のサンプルを見分け、『あの盛り付け方はあの人が作ったもの』というレベルまで分かることも。先日は営業マンから米の白さが不自然という指摘を受けたので、これから職人さんと相談しながら検証して、そのあとは・・・」と、この日も日々変化する要望への対応に忙しそうだった。時代は変わっても、「おいしそう」への飽くなき探求心は今後も脈々と受け継がれていきそうだ。

取材・文・写真/塩屋薫

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