ブレイク必至・円井わん、主演映画で「自分の鬱憤が芝居に」

『コントラ』で長編映画初主演となる円井わん。Netflix『全裸監督(Naked Director)』、『セトウツミ』『100万円の女たち』などのドラマなどに出演
「台詞のやりとりではなく、相手と通じ合っているかどうか」
──役者同士が台詞を食いあってもそこは問題にせず、場面が進んでいくところもおもしろかったです。
私も最初は、相手の役者さんと台詞がかぶっちゃったとき「あ、やっちゃった」と思いました。普通はそこでカットがかかるけど、監督は「それが良いんだ」と。
実際に映画を観たとき、すごくおもしろい間合いになっていたんですよね。それからは「セリフがかぶっても、芝居を止めなくても良いんじゃないか」と考えるようになりました。
──『コントラ』の台詞が食い合う場面って、相手の話をちゃんと受けたうえでの的確な反応に見えます。
つまり台詞のやりとりではなく、相手と通じ合っているかどうか、それが重要なんですよね。それって演じていても分かるし、できあがったものを観ていても気づける。嘘をついているか、ついていないか。
これは極端な例ですが、もし愛を題材に芝居をしたとき、相手役が嫌いな俳優さんであったとしても、想いをリアルに通じ合わせることが良い芝居なのではないでしょうか。

──もちろんそこには監督の演出力も問われますね。
『コントラ』では、映画として描かれていないキャラクターのバックボーンを監督がものすごく掘り下げていました。そしてキャラクターと役者のどういうところが重なるか見つけるため、私たち俳優陣もカウンセリングのように監督から話を引き出されました。
このことに感化されて、私自身が企画した作品では俳優陣に沢山話を聞きました。なかにはめちゃくちゃ泣く子もいれば、怒る子、楽しくなる子もいました。企画者として俳優とたくさん話し込んだことで、俳優が役に打ち込む環境を用意することができたかなと思います。
──「東京に行こうと思う」「ここには何もない」というソラの台詞もありますね。これは大阪時代の円井さんの心境に近いんじゃないかなって。
そうですね。確かに上京したときは「もう一生、大阪には帰らない」と思っていました。大阪で暮らしていたとき、周囲の人に対しての不満がすごくあったんです。
──というと?
私は大阪時代、すごく狭い世界のなかで生きていたんです。そのなかではいろんな人が威張りあったり、けなしあったりしていました。人と人の関係性もすごく強かった。もちろんそれ自体は決して悪いことではない。だけど私には、その環境が合わなかったんです。
話も考え方も合わなくて。「大阪にずっといても何もないな」と感じるようになってしまった。だから私は大阪から逃げたんです。不満があっても人と対立もできず、ふさぎ込むことしかできなかったし。
「撮影の現場ではみんな対等でありたい」
──そう考えると今、こうやって役者に打ち込める状況はかなり幸せなんじゃないですか。しかも間違いなく、円井さんは日本映画の新しいムーブメントの一部を担いそうですし。
ありがとうございます。自分でも驚くような仕事のお話が増えてきました。最近の出演作も数えてみると「こんなにやっているんだ」って。たとえば『光と禿』(2017年)のときは、仕事も少なくて「どうしたら良いんだろう」と迷っていたので。
あの作品では出演だけではなくスタッフ(スタイリスト助手)もやっていましたし。だけど『光と禿』でのスタッフの経験が今に生きています。
──どういうところが生きていますか。
スタッフさんの大変さが分かっているので、演じる側としても現場で怠惰になることがまったくないんです。あとスタッフさんは俳優にすごく気をつかってくださるんです。すごくありがたいけど、私は「対等で大丈夫ですよ」と思うんです。
持ち上げられる状況はできれば少なくなって欲しい。仕事であることを踏まえた上で、お互いに親近感をもって接したい。スタッフもキャストもリラックスして撮影に取り組める状況が良い現場だと感じています。
──さて、『コントラ』が大阪公開を迎え、円井さんにとって苦い思い出もたくさん詰まった大阪で主演映画が上映されるのは、感慨深いんじゃないですか。
「ここにいたくない」と出ていった地元・大阪だけど、こうやって主演をつとめた映画が上映されるのは本当にうれしいです。『コントラ』は観終わったら必ず何かを得られる作品。この映画を観て、いろんなことを知るきっかけになってほしいです。
『コントラ』
監督:アンシュル・チョウハン
出演:円井わん、間瀬英正、山田太一、ほか
配給:ラリーライクフィルムズ+Cinemaangel
(C)Kowatanda Films
関西の映画館:シネ・ヌーヴォ(6月5日〜)、元町映画館(近日公開)、出町座(近日公開)
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