SNSに囚われた女性と写真家「人から見られないと自分は存在しない」

淡々と趣味で写真を撮り、写真館ではリタッチがメインとなってしまっている械を演じる永井秀樹。(C)2020「写真の女」PYRAMID FILM INC.
「『自分らしく』なんて言葉は死語と言っていい」
──この映画の写真家も、生計はほとんどレタッチ(コンピュータでの写真修正)に拠っちゃってる。まあ、写真芸術そのものも、生のまま提出するのは少なくなって、ほぼ加工工程込みのものになってますしね。写真学校でもその技術を教えるし。
そうです、今では多くの写真家がそうなってますね。僕が在籍する会社はピラミッドフィルムっていうんですけど、そこの会長が操上和美さんといって、今84才くらいでまだ現役なんですよ。
──あ、そうなんですね。大写真家さんじゃないですか。映画も撮ってられるけど(2008年の『ゼラチンシルバーLOVE』)。
1960年くらいから写真家やってるんですけど、写真は2回変わったって言ってて、1回目はデジタルになってモニターで写真が出るようになった。自分が撮ってる写真を自分以外の奴らが見てて「う~ん」とか「違うな」とか言ってる。
それがすごくストレスだったって。自由にできないわけですよね。そして2回目はレタッチですね。撮ったあとになんでもできるということは、撮るときは素材撮りでしかないんですよね。
ついには被写体である本人が、自分がこういう風に自分を見せたいというのに口を出すようになって、「このほくろ消して。これは活かして」とか。そうなると写真家は、どんどん周りから消費されていく自分を感じはじめますね。
──まさに『写真の女』の、お見合い写真のレタッチに偏執的になる女性のように。しかし、モノをありのままに撮るべき写真家であるはずの男も、膨張していく女の注文に粛々と荷担してるわけだから余計に事態は難しくなるわけで。でも、「他人を通してしか自分を愛せないの」って、ああもはっきり言われちゃうと(笑)。
でも、正しくそうだと思いますね。写真が人に見せるものになった以上、人から見られないと自分は存在しないというのは。ちょっと前まで「自分らしく」なんて言葉がありましたけど、今や「自分らしく」なんて言葉は死語と言っていいと僕は思ってるんで。
今、世の中で起こっていることは人から見られるということを意識せずにはいられないですね。リモート打ち合せでも自分で自分を見てて、他人を意識してる自分の顔が見える。
他人の目線を意識せざるを得ない。他人を通してしか自分が何者かというのを感じられないというのは、やっと人々が気付き始めたところだと思いますよ。

──ただ、この映画の女性は、自分から望んだものではないにしろ、身体に傷を負うことで同調性から外れたひとつの特殊性を得てしまいます。
これは視覚的な問題ですね。描くものを画で語らなければいけないので。心の傷は見えないわけで、それを感じさせるにしても何かビジュアル的なものが必要だから、ことさら傷を大きく作りましたね、あれがリアリズムかと言われたらそうじゃない。
──しかも特殊メイクに西村喜廣さん(日本屈指のホラー系特殊造形師)をわざわざ連れて来てるっていう(笑)。
あれは彼女の心の傷の比喩表現と捉えてもらって良いんですけど。男は心の傷を隠しているんですよね。だから他人には嘘をつき、触れないようにしておこうとしてるんです。
でも、この女性は男に傷を見せるんですよ、これが私よと。傷を隠さずに明かされて、その人の傷に触れることによって深い関係に陥ってしまう・・・というようなストーリーをかなり視覚的にやってみたわけです。
──傷へのフェティシズムみたいなところは大いにありますね。サディズム=マゾヒズムにも通じるような。
重なるところはあるんですよね。結局どっちがコントロールしているのかというと、サディストをコントロールしているのはマゾヒストだという。
──「奉仕するサディスト」というのはよくある相関関係ですから(笑)。そういう風なところは確かにあるし、交尾直後のオスをメスが食うカマキリをメタファーに持ってくるくだりも、抽象的ではあるけれども存外具体的なセックス・バトルの関係で。あのあたりも分かりやすいかもしれませんね、海外で。
シンボルを愚直に出してるので、その潔さを感じられたかもしれないですね。「今、これを見せるカットです」と明らかに分かる漫画的フレーミングでやりましたし。
──カマキリが動く音であるとか、ものを食う音であるとか、食われる音であるとか、音響が思いっ切りクローズアップされますしね。もちろんそんな音は作られたんでしょうね。
作りました(笑)。実際にカマキリの食べる音とかは聞こえないので。あれは僕たちがいろいろ食べて作りました。演じる方々にも「食う・食われる」を意識しろと。
『写真の女』
脚本・監督:串田壮史
出演:永井秀樹、大滝樹、猪俣俊明、鯉沼トキほか
配給:プラミッドフィルム
(C)2020「写真の女」PYRAMID FILM INC.
関西の映画館:第七藝術劇場(2月27日〜)
関連記事
あなたにオススメ
コラボPR
-
活気と人情に満ちた、OMOろい旅 in 東京・大塚[PR]
NEW 2025.10.25 09:00 -
未来の「新大阪駅」南エリアを2日間限定で体験![PR]
NEW 2025.10.24 16:00 -
BBQなどの体験が、最大56%オフ!?大東市[PR]
NEW 2025.10.24 08:30 -
Osaka Pointでおいしくたのしく大阪めぐり[PR]
NEW 2025.10.23 16:00 -
大阪クリスマスケーキ2025年、高級ホテルから百貨店まで
NEW 2025.10.23 10:00 -
華やかスイーツ!神戸のいちごビュッフェまとめ・2026年版
2025.10.20 14:00 -
華やかスイーツ!大阪のいちごビュッフェまとめ・2026年版
2025.10.20 11:00 -
大阪アフタヌーンティー2025年最新版、編集部取材のおすすめポイントも
2025.10.16 11:00 -
大阪・関西ランチビュッフェ2025年版、ホテルの食べ放題を満喫
2025.10.16 10:00 -
京都「オーバーツーリズムって何?」#空いてる国宝萬福寺[PR]
2025.10.15 18:15 -
【大阪・関西万博2025】半年間ありがとう!地元編集部が取材した人気グルメから穴場スポットまとめ
2025.10.13 11:00 -
淡路島の「日本酒」に注目!秋の旬と味わう旅へ[PR]
2025.10.10 17:00 -
京都アフタヌーンティー2025年最新版、編集部取材のおすすめポイントも
2025.10.8 11:00 -
港町の心地よさに浸る、OMOろい旅 in 函館[PR]
2025.10.7 16:00 -
大阪スイーツビュッフェ・リスト2025年版、ホテルで甘いものを満喫
2025.10.6 00:00 -
現地取材で発見!知らなかった宇治の魅力【2025年最新版】
2025.10.1 08:30 -
なぜこんなに「宇治抹茶」が世界的に人気なのか?[PR]
2025.9.30 08:00 -
写真を撮って…豪華賞品ゲット!期間限定コンテスト[PR]
2025.9.29 19:00 -
神戸アフタヌーンティー2025年最新版、編集部取材のおすすめポイントも
2025.8.29 10:00 -
大阪から行く高知のおでかけ・グルメ2025最新版
2025.8.22 17:00 -
大阪ビアガーデン2025年版、編集部取材のおすすめポイントも
2025.8.22 12:00


トップ
おすすめ情報投稿
Lmaga.jpとは
ニュース
まとめ
コラム
ボイス
占い
プレゼント
エリア








人気記事ランキング




写真ランキング





ピックアップ







エルマガジン社の本

