世界が注目する大阪発の映画祭、濃厚すぎる作品紹介
知られざる世界の作品を大阪から発信する『大阪アジアン映画祭(OAFF)』が、3月5日からスタート。ここでひと足早く公開され、後に劇場でも公開が決まってヒット作品へと成長し、各国の賞レースをにぎわせることも多く、映画ファンが注目しているイベントだ。
16回目を迎える今回は、計63作品を上映。新型コロナウイルスの影響もあり、海外ゲストの招聘などは中止されたものの、初めてのオンラインにも取り組み、2月28日から3月20日の間、「大阪アジアン・オンライン座」として過去の上映作から人気の7作品と、今回の選定作から貴重な台湾クラシックのリマスター版2作を上映する。
石井裕也監督の『アジアの天使』をはじめ世界初上映が21作品など、そのほとんどが日本で初上映となる。日本、中国、韓国、モンゴル、トルコなど23の国と地域から作品がそろい、はたして、いったいどの作品を観るべきか悩んでしまうのも事実。
過去に同映画祭で審査委員も務め、毎年毎日通う映画評論家のミルクマン斉藤さんが、暉峻創三プログラミング・ディレクターと上映作品について濃密トーク。今後の映画界を担う監督や、話題となる作品の参考に覚えておきたいことばかりだ。
取材・文/ミルクマン斉藤
暉峻「モンゴル映画、ちょっと変化が来てるんじゃないか」
──今の状況下で今年のOAFFは本当に開催されるのかと危ぶんでましたが、蓋を開けると例年と変わらぬ本数に大充実のラインアップ。大概の映画祭が中止・規模縮小、もしくはオンライン化されるなか、まるで冗談のようです(笑)。
コロナのせいでここ1年間、どの映画祭もぐしゃぐしゃにされて、すごくネガティブな影響を受けてきたんですけれど、OAFFは奇跡的にいつもの規模で、しかもスケジュールも変えずに劇場で上映できることになったんで、それは本当に良かったなと思っています。
──プログラムを眺めるとOAFF常連監督の新作もけっこうありますし。
そうですね。常連的なことでいうと2015年の「来るべき才能賞」を受賞した、タイのメート・タラートン監督の新作『愛しい詐欺師』がありますね。
──前作の『アイ・ファイン、サンキュー、ラブ・ユー』はロマンティック・コメディの見本のような作品でした。
まさに、あのモードでまた押しまくってて爆笑できますよ。これもGDH(タイ映画界を牽引するエンタテインメント系会社)の作品なんだけれども、クオリティも文句なし。
去年グランプリを獲った『ハッピー・オールド・イヤー』もGDHでしたが、あれはどちらかというとしんみりさせる系の、GDHとしてはややアート寄りだったと思うんですけれども。
──あれはナワポン・タムロンラタナリットという作家が、実験作と大衆作を交互に撮るようなヒトでしたからね。ちなみに去年の僕のベスト作品ですが。
今回は完全に娯楽で押してて、去年とは別の側面のGDHが見られます。常連組では、ほかにもモンゴルの『ブラックミルク』。
──2016年の「来るべき才能賞」を獲った女性監督ウェゼマ・ボルヒュですね。前作『そんな風に私を見ないで』は本当にすごかった。あんなに洗練されたモンゴル映画はいまだに観たことがない。あれがグランプリでも良かったとさえ思いました。
また今回も強力ネタで、また自分で監督して自分で主演してるんですね。まあ、この監督はモンゴル人ですけれども、社会主義だった時代に旧東ドイツへ家族と一緒に移民して、今もほとんどドイツを拠点にしてるんです。
で、今年モンゴルからはもう一本、短編で『裸の電球』というのが入ってて、斬新度は更に増してます。「モンゴル映画、ちょっと変化が来てるんじゃないか」と感じられる年になるんじゃないかと思いますね。
──一般的に映画産出国としてなじみのない国がけっこう入ってますね。
国籍の豊かさというところも今回の特徴ですね。ブータンからは『ブータン 山の教室』があります。
2017年に『ヘマヘマ:待っている時に歌を』ってブータン映画をやりましたが、あのプロデューサーとして大阪に来た人の監督作品です。例えばチャン・イーモウの『初恋のきた道』みたいなノリで、すごく広まりやすい映画ですね。
──ジャ・ジャンクー(今や中国映画を代表する作家のひとり)とペマ・ツェテン(チベット映画界を代表する作家。最近『羊飼いと風船』が劇場公開)がプロデュースしたっていう『君のための歌』はチベット映画ですね。
監督のドゥッカル・ツェランはペマ・ツェテンの作品で音楽や録音をやってる音方面の人なんですよ。
──あ、良いかもですね。ツェテン映画の音や音響、良いですもんね。
映画自体も、音楽というか歌に関する映画でもあるんで、すごくこの監督に向いた題材なんですよね。今回、中国映画の紹介という意味でも面白いことになっててウイグル語圏も入ってます。去年も選んだ『アレクス』の監督エメットジャン・メメットの新作『すてきな冬』ですけど。
──スチール写真を見たら、前作と全く同じテイストですね(笑)。
前のを観てると、映画が始まって1秒で同じ監督だと分かる(笑)。完全に自己のスタイルを確立してる人ですね。
その一方で『The Eight Hundred(英語原題)』って去年の地球上一番のヒット作があります。コロナのおかげで、ハリウッド映画2020年は大したヒット作出してないんで、世界最大ヒット作なんですね。
これはネタとしては国策映画と言っては言いすぎかもしれないけど、いわゆる中国の体制に気に入られるタイプ、要するに抗日モノなんだけど、なのに検閲で引っかかってなかなか公開できなかったといういわくつきの作品です(笑)。ひたすら1シチュエーションだけで押し通す。
ストーリーの起承転結で見せるんではなくて、倉庫の中に中国の兵士たちが閉じ込められるなか、周りを日本軍に包囲されて、というシチュエーションだけ。これ、149分あるんですけど、全く飽きないですね。
──おお、ハワード・ホークス『リオ・ブラボー』のプロトタイプですね。
これは絶対にスクリーンで見なくちゃいけない映画で、画面の作りの精巧さがすごいですね。あと、ほとんど中国映画なんですけど、香港のピーター・チャンがコン・リー主演で作った『中国女子バレー』もある。
これ、出来映えは素晴らしいですよ。で、コン・リーが完全にイメチェンしてるんです。なかなか中国のなかでも両極端な作品が集まっていて面白いことになるかなぁと。
あと、僕も知らなかったフォン・クーユーっていう新人監督のデビュー作『A SUMMER TRIP~僕とじいじ、1300キロの旅』は世界初公開なんですけど、撮影が何故かリー・ピンビンで(中国語映画界を代表する台湾の撮影監督。日本でも『春の雪』『ノルウェイの森』等を担当)、音楽は久石譲。
──え~!そうなんですか!?
メチャクチャ恵まれたデビューなんですよ。でもすごく映画の演出を勉強しているのが観てて判る。俳優も脚本もやってるので、かなり現場で映画的演出を覚えていったクチだと思うんですけど。経歴を何も知らないでこの映画を見たら、新人監督とは思えないくらい熟成してますね。
『第16回大阪アジアン映画祭(OSAKA ASIAN FILM FESTIVAL 2021)』
期間:2021年3月5日(金)〜14日(日)
会場:梅田ブルク7、シネ・リーブル梅田、ABCホールほか
※ABCホールは映画祭公式サイトもしくは当日会場にて、それ以外は各劇場の公式サイト・窓口にて
料金:一般1300円、青春22切符(22歳まで)当日券500円
電話:06−4301−3092(大阪アジアン映画祭運営事務局)
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