少女が犯した罪を描く「映画の根本の部分は、障害と正常」

かわいがっていた妹の死をどう受け止めるのか。知恵を演じる竹中涼乃(C)2019 Yosuke Takeuchi
「ちょっとした人の優しさとかが、人を救うというのを・・・」
──涼乃ちゃんが演じるのは一人で罪を背負っちゃう、っていう残酷な役でしょう?それを理解してやってるっていうのは大きいですよね。
ただそのシナリオを渡してないから、全然先が分からないわけですよ。ダウン症の妹を抱えるお姉ちゃんなりの苦しみとか、キャラクターの性格とかは事前に説明してたんですけど、この話であれが悪意だったとか故意だったとかはまったく説明せずに、ただ出来事があればそれにちゃんと反応して欲しい、って演出のみでした。
だから、彼女的には作品に入り込んで自分の感性で作ってったんじゃないですかね。大好きだった妹を故意にしろ事故にしろ落としちゃったっていう、あのときの頭のなかの空白感から悲しみがいきなりグッと湧いてくるっていうのは知恵のキャラクターから言ったら素直な反応だと思うんですよ。
ある意味テンパっている子どもの心が、お母さんにあそこまで追い込まれたらどうしたらいいか分からなくなって・・・っていう、そんな状況のなかの選択肢のひとつだったんですよね。
──そういう風にはちゃんと映画からも読み取れますし、著しくキリスト教的な「原罪」といったものが見えてくるんですが、監督にはそうした宗教的な背景はあるんですか?
物語の根本はゴッホだから、そうなるとやっぱプロテスタント的な経験がありますし。必然的に光雄のキャラクターには反映されているので、そういう風に見えてもおかしくはないと思います。
僕自身は特定の宗教を崇拝したりといったことはないんですけど、宗教が云ってることって人が生きていくための真理を分かりやすく説明してる。そういう意味で、正しい事をしようとすると宗教的に観られるんじゃないですかね。
──もちろんそれは別の宗教と並べてみても普遍的なことだと思います。でもこうした話が3.11のグリーフケアへと結びついていくわけじゃないですか。そこにシフトさせていったというのは?
映画のなかではさほど意識していないのですが、背景としてはもちろんそれがあって。ただロケ地が被災地だって別に見せたかったわけでもなく、現実に被災があった今の日本っていうのは自然と出てくると思う。
僕の実際の姪っ子が震災の半年後にダウン症で生まれたのを福島の原発とどっかで繋げちゃった部分があったのかもしれない。

──映画に出演してる一希役は、その姪っ子さんですもんね。
それを最初、シナリオで書いちゃったりしてたんですよ。さすがにそれはまずいなと思って排除しましたけど。映画の根本の部分は「障害と正常とは」ってことがメインですね。
障害の区分けっていうのは正直出来ないじゃないですか。とりわけ精神的なものは話したって分からないし、でもそんな不安を解消するためにすぐ区別したがる今の社会の傾向がありますよね。そんな状況で苦しんで普段生活している人もいるし、そういう状況になった時にどうしたら救われるかと煩悶する人もいる。
ホントに苦しいときどうしたらいいのかな、ってなかなか答えが見つからないけど、この映画のなかでは時間とか、ちょっとした人のやさしさとか、誰でも分かるような簡単なことが人を救ってくれたりするんだよ、っていうのを見せたつもりなんです。
──その象徴が「ひまわり」。
そうですね。
──印象的なラストシーンで咲いてる向日葵って、撮影前から植えてたんですか?
毎年被災地には行ってるんですけど、たまたまあそこの道を見つけて、最後のシーンはもうここしかないって。全員一致でここに向日葵を植えようっていうところから始まって。現地で向日葵を植えてるボランティア団体に相談したら、「あそこは砂地だし絶対無理だから、土を全部変えるしかない」と言われました。
海の近くだったので1回全部流されて、砂浜の砂が溜まってしまってたので、数人のスタッフで撮影の半年近く前から、まず土を耕して、種を相当入れたんですよ。何千とか。映画に出てくるひまわりは全部自分たちで植えました。枯れたやつも先に育てて枯らせて。それでも最後はあれだけしか生えなかったですね。
──でも、ちょうど良いくらいの咲き方ですよね(笑)。
結果的には良かったんです。シナリオの段階ではデ・シーカの『ひまわり』みたいな、視界いちめんに咲き誇るイメージだったんですけど。でもあれも偶然で、前日は結構咲いてたんですよ。その日の夜に大雨が降って、みんなでヤバいってなって。その翌日に晴れて、あの状態。ぜんぶ(花の首が)垂れてたら危なかったですよ。
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