小栗旬、星野源の主演映画「二人の関係性を色濃く」
かつて日本中を震撼させた昭和の未解決事件をモチーフに、独自のストーリーを生み出した塩田武士のベストセラー小説『罪の声』が映画化。関西を舞台に、事件を追う新聞記者・阿久津英士を小栗旬、自分の声が事件に使用されたことを発見してしまった曽根俊也を星野源が演じ、1980年代の事件の真実をそれぞれの立場から追っていく。
今回、監督を務めたのは土井裕泰。ドラマでは『逃げるは恥だが役に立つ』『カルテット』など、映画では『いま、会いにゆきます』、『ハナミズキ』など次々とヒット作を生み出し、10月30日に公開された『罪の声』は5年ぶりの映画作品。今回のキャスティング、映画に込めたメッセージなどをリモートでインタビューをおこなった(一部ネタバレを含む)。
取材・文/ミルクマン斉藤
「映画だから伝えられるものって何かということが課題」
──いきなりなのですが、監督は1964年生まれ、僕は63年生まれ、と同世代なんです。ですから社会的な体験や映画体験がかなり重なっているところが多いと思うんですよ。今回のモチーフとなった事件も含める社会的体験、今まで監督が観てこられた映画やテレビとか、出演した俳優さんとかの映像体験が分かちがたく結びついた作品が本作だと思うんですよ。
「そうですね。同じ世代の人たちには、特に映画の好きな人たちにはそういう部分でも楽しんでいただけるんじゃないかなと思ってます。僕もこの映画を観返すたびに、後半の宇崎竜童さんと梶芽衣子さんがカットバックするシーンでいつも『あ、お初徳兵衛だ』って思うんですよ(笑)」
──増村保造監督の大傑作『曽根崎心中』(1978年)ですね。監督、狙ってたんじゃないんですか?
「いや、狙っていたわけじゃなくて。別々にキャスティングを考えていて、結果的にそのお二人に決まったときに、ハッて思ったんですよね(笑)」
──いわば偶然ですか! でも梶さんのキャスティングはやはり『女囚さそり』(1972年~73年の映画シリーズ)をイメージしてのことですよね。今回、僕は原作を読まないまま観たので、最初に出てこられたときは、ただその年齢の女優さんなので梶さんなんだな、と普通に思ったんです。でもある時点で彼女を起用された意味がバーンと炸裂する。
「そうですね。これはネタバレに繋がりますけど、真由美さんというお母さんの役にはどこか反権力の匂いがないといけない。そう思ったときにあの世代の俳優さんたちのなかでは『あ、梶さんだな』と」
──で、今回はあくまで仮説ではあるもののリアリティのある解決にまで持っていっているのにやはり面白さがありますよね。その過程で、阿久津(小栗旬)と曽根(星野源)という、いってみれば二人の探偵が捜査を始め、やがて協働するに至るという推理劇の構造がユニークです。
「もちろん原作がそうなっているんですが、二人が出会うタイミングは映画では、ずいぶん早くなっているんです。実際、小栗旬・星野源という二人の役者が演じてくれるのであれば、約35年前の真相をただ解いていくだけではなくて、二人がそれぞれに持っていた情報がひとつの線に繋がってともに動き出したときに、奇妙な友情のようなものが生まれてくる・・・そのことでストーリーラインの面白さを際立たせたいなと思っていました。だから今回、原作の構造を使って、さらに二人の関係性というものを色濃くしました」
──まさに二つの線がひとつになった瞬間にダイナミズムみたいなものが生まれて、いきおい躍動し始めますよね。土井監督にはスペシャルドラマの『遠い約束 星になったこどもたち』のような作品もありましたが、映画では今まで恋愛ものが主流でした。今回のような骨太で立体的なドラマは初挑戦だと思うのですが。
「やはり塩田武士さんの原作自体がとても素晴らしかったですよね。あの脅迫に使われた『子どもの声』に着目して、そこからフィクションとしてあれだけのストーリーを発想したことに本当に感心したんです。ただ、情報量が半端ないんですよ。映画であれを、これを2時間強の1本の映画にまとめるというのは、作り手としてはすごく覚悟のいる仕事になるなと思いました。ある意味怖かったです。やっぱりこれを映像化するのであれば、原作をただダイジェストにしたような映画にしてはいけないという思いもありましたし。映画だから伝えられるものって何かという大命題を与えられたような気もしました」
──確かに、さまざまな命題が映画のなかには潜んでいますよね。
「阿久津という主人公は事件の真相を解いていくだけではなくて、ジャーナリズムの在り方を問うというもうひとつの使命を背負っているわけです。彼の台詞のなかで、『曽根俊也を、この事件をエンタメとして消費することになりませんか?』と上司に食ってかかるところがあるんですけれども、僕ら伝える側の人間として、今そのことはどこか常に心に置いておかないといけない問題だなと思っていて。僕は30年以上、テレビ局というメディアで仕事してきましたけど、今回逆に『エンタメだから伝えられること』は絶対あるし、そのことを信じようとも強く思いました。だから、この映画も一見ものすごく重厚なテーマのように見えますけれども、やっぱり入り口はエンタメとして間口を広くとって、映画としての面白さを大事にしながら、見終わったときにいろんな年代の人がいろんな立場でいろんなことを自分のテーマとして考えるというか、そういうものになればいいなぁと」
──もう若い人は、モチーフになった事件を知らないでしょうしね。
「そうなんですよ。僕らの世代にはすぐに判るんですけど、小栗さんや星野さんのファンの人たちは、もう知らないわけですよね。でも、そんな人たちにこそこの映画を見てもらいたいし、この映画から何かを受け取ってもらいたい気持ちは、僕にもプロデューサーにも脚本の野木亜紀子さんにもありましたので、最初の段階からかなり意識しながら作りました」
──ある意味、昭和・平成史みたいな側面もありますもんね、この映画には大きく。
「去年の3月から5月にかけて撮影していたので、撮影中に平成が終わったんですよね。で、みんな『今日が平成最後の仕事です』と言い合って、令和最初の仕事ももちろんこれで、しかも昭和のシーンを撮っているという。そういう意味では結構思い出に残る作品ではありますね」
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