綾野剛&佐藤浩市「この作品世界を生きるべきだ、という匂い」

瀬々敬久監督作品『楽園』に出演する綾野剛(右)と佐藤浩市
『悪人』(2010年)、『怒り』(2016年)など、映画化された作品も多い作家・吉田修一。そして、『ヘヴンズ ストーリー』(2010年)、『64-ロクヨン-』(2016年)などで知られる瀬々敬久監督。犯罪を通して、人間の奥深さを描く作品の多いふたりが手を組んで放つ注目作『楽園』。主人公は、ともに社会から疎外されていくふたりの男。主演の綾野剛と佐藤浩市に話を訊いた。
取材・文/春岡勇二 写真/Ayami
「出演するのを一瞬たりとも迷わなかったです」(綾野剛)
──初めてシナリオを読まれたときの印象からおうかがいできますか?
佐藤「今作は、瀬々さんの命題と言ってもいい題材ですからね、『罪と人』という。前作の『友罪』(2018年)では、過去の事件に対する人の向き合い方がテーマだったわけですが、今回はそれとは違って、『結局、なにが人を罪に走らせるのか?』というのを追っている。さらに、実際にあった事件が下敷きになっているということで、非常にセンシティブな表現が求められるわけで、それをどうするのかをまず考えましたね」
──出演するかどうかでは、瀬々監督がやるのなら、もう付き合おうというわけですか?
佐藤「それはなんというか、自分ぐらいのキャリアだと、何人かの監督との間に『盟友感』というのがあって(笑)。阪本順治監督然り、瀬々敬久監督然り。やる、やらないではなく、『なにやるんだよ?』から始まる感じですから」

──綾野さんはいかがでしたか? 最初にシナリオを読まれた印象は?
綾野「始めの2ページを読んで、出演を決めました。もうすでに匂いがたちのぼっていましたから」
──どういう「匂い」がしたのですか?
綾野「自分もこの作品世界を生きるべきだ、という匂いですね。あと(佐藤)浩市さんと杉咲花さんの名前も挙がっていたので、これはもう断る理由がないと。共演者としての浩市さんは圧倒的な安心感があるし、杉咲花という素晴らしい女優とも共演してみたいと思っていたので。吉田修一さん原作の映画化作品に出るのもこれで3作目だし、もうためらう必要がどこにもない、出演するのを一瞬たりとも迷わなかったです」
──佐藤さんに感じておられた圧倒的な安心感というのは、やはり『64-ロクヨン-』での共演がもたらしたものですか?
綾野「それは大きかったですね。それ以前にも、食事に連れて行ってもらったり交流はあったのですが、『64』で共演して、役柄上、僕は浩市さんの背中を一番近くで見ることができ、あれだけのキャストをあれだけの期間にわたって引っ張るなんて、誰にでもできるものではないので。現場全体があの背中を信頼していた感じでした」
──実は『64』の取材で瀬々監督に話を訊く機会があったのですが、監督も同じようなことをおっしゃってました。
佐藤「綾野との関係でいうと、今回の『楽園』の現場では、お互いに作品を託し合う間柄でした。綾野が演じた豪士(たけし)と僕が演じた善次郎は、実は劇中であまり接点がないんです。だから、豪士がどんな人物なのか、善次郎にはほとんど分からない。シナリオは読んでるけれど、実際には観ていなくて。どう演じているか、どのような人物に仕上げているか、そこはもう綾野に託すしかないわけです」

──なるほど。
佐藤「もちろん、綾野にとっては僕が演じた善次郎がそうで。ただ、綾野ならこうしているんじゃないか、このように仕上げているんじゃないかというある程度の予想はできる。そして、出来上がったシーンを観ると、『おっ、こうきたか』というのも含めて、予想以上のものをやってきてくれたって感じでしたね」
綾野「浩市さんは今託すと言ってくださったのですが、僕は今回の関係は、駅伝の同じチームの走者だったように考えているんです。僕が第1走者でなんとか突っ走って、『花の2区』はもっとも信頼できるランナーの浩市さんにつなぐ。そして、アンカーを杉咲花に託したカタチですよね。そんな駅伝のような感覚でした」
──豪士が善次郎にタスキを渡すのはどことは書けませんが、あるシーンに設けられた、ふたりが目を合わせる、あの一瞬ですよね。
綾野「渡す瞬間というよりも、渡すために豪士が目を合わせるんです。あのとき、善次郎は豪士を見つけてくれるんです。それまで誰にも存在していることすら認識されていなかった豪士は、あそこで善次郎に見つけられて初めて存在を認めてもらうんです」
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